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眠りが浅い人の特徴と改善するためのヒント
はじめに

毎朝、目覚ましが鳴る前に何度も目が覚めていませんか?
十分な時間寝ているはずなのに、朝起きたときに疲労感が取れていない。ちょっとした物音で目が覚めてしまう。夢の内容をはっきりと覚えている…。
これらの症状があったら「眠りが浅い」サインかもしれません。
眠りが浅いと、同じ睡眠時間であっても、集中力の低下、免疫力の減退、気分の落ち込みが生じます。さらには生活習慣病のリスクが上がる懸念があります。そして、良い眠りは健康の土台です。眠りが浅い状態が続くと、日々のパフォーマンスだけでなく、生活の質にも大きく影響します。
「もう睡眠薬に頼るしかないのか」「年齢のせいだから仕方ない」と諦めていませんか?
実は、眠りが浅い原因はその人によって異なります。そして、その原因ごとに有効な対処法をとる必要があるのです。
今回の特集は、眠りが浅い理由にスポットを当てます。あなたの「眠りが浅い」悩みを解決する道筋を、一緒に見つけていきましょう。
眠りが浅いとはどういう状態か?

眠りが浅いとは、十分な睡眠時間を確保していても熟睡感が得られない状態です。健康的な睡眠ではノンレム睡眠とレム睡眠が交互に現れます。眠りが浅いと感じている人は、深い眠りの段階(特にノンレム睡眠:ステージN3)の睡眠時間が少ないです。
具体的には、夜中に何度も目が覚める、ちょっとした物音で起きてしまう、夢をよく覚えている、朝起きても疲れが取れていないといった症状が特徴です。
私の外来では、ぐっすり眠れなかったので何とかしたい要望で来院される方がいます。眠りが浅いという悩みは、不眠の一種とも言えるかもしれません。夜寝ても心身の休養感が得られない状況なので、解決を求めているという印象です。
どうやって調べるのか?
眠りが浅いということで、いきなり病院に行くというよりは、スマホ、ウェアラブルディバイスで調べるという方が増えている印象です。なぜなら、手軽であるからです。その一方、自分の睡眠の状態を正確に知りたいというなら、睡眠の検査入院による評価が必要になります。
評価法 | 特徴 |
---|---|
セルフチェック | 睡眠日記、睡眠アプリ、ウェアラブルデバイス:手軽に始められ、長期的な傾向を把握できる。日常生活での睡眠状態を評価できる。その一方、精度の問題があり。専門的な診断はできない。 |
医療機関での検査 | 終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG):病院に宿泊して調べる精密検査。脳波があるので、睡眠段階と覚醒の要因を正確に判定できる。精度が高いので睡眠障害の正確な診断ができる。 |
眠りが浅くなる原因

浅い眠りが生じる要因はさまざまです。年代、性別、体質、生活環境、病気の影響などがあげられます。
生理的要因として、加齢に伴う深いノンレム睡眠の減少 があります。年をとってくると睡眠時間が減るばかりでなく、夜間の眠りも浅くなるのです。
女性では、生理周期・妊娠・更年期におけるホルモンバランスの変化 があります。また、LGBTにおいても眠りが浅い悩みを抱えている場合もあります。
環境要因では、寝室の温度や湿度が不適切な場合、騒音や光の刺激、寝具(マットレス、枕など)が合わないことも睡眠の質を著しく低下させます。同室の人の大きないびきも騒音の一つと言えるかもしれません。
精神的な要因は、働く世代に多いものです。日常のストレスや不安、うつ状態は脳の過覚醒を引き起こし、眠りを浅くします。
具体的には、締め切りプレッシャーや人間関係の緊張、将来への不安など、オフィスで抱え込んだストレスが脳を過覚醒状態に保ち、深い眠りへの移行を妨げます。
眠りが浅い悩みを抱えて睡眠外来に来られる患者さんの傾向としては、やはり、職場の関係、特に業務の内容、対人関係のストレスが多い印象です。
海外の研究報告によれば、不眠症になる人は、寝ようと思っても「頭や体が休まらない」「布団に入っても気持ちが落ち着かない」と感じてしまい、過覚醒の傾向が強いことが分かっています。つまり、体や脳の興奮状態が続いてしまい、眠ろうとしてもぐっすり眠れない現象です。
生活習慣も睡眠の質に影響します。寝る前のカフェイン摂取、遅い時間帯での夕食、寝る前のアルコール摂取(入眠効果はあっても後半の睡眠を浅くしてしまう)、運動不足、不規則な睡眠スケジュールなどが要因としてあります。ベッドに入ってからのスマホ(ブルーライトの影響)も睡眠の妨げになります。
また、睡眠時無呼吸症候群、周期性四肢運動障害といった睡眠障害、甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患、様々な薬剤の副作用も眠りを浅くする原因となります。
世代別:眠りが浅くなる特有の要因とは?
1. 乳幼児~小学生
脳がまだ発達途上であることがあげられます。大人と違って、睡眠のリズムや深さを調節する脳の機能がまだ完全に整っていません。
また、子どもが夜中に突然泣き出したり、親と離れることへの不安を感じたりすることも睡眠を妨げます。歯が生えてくる時期の痛みや不快感、成長に伴う「成長痛」も、眠りを浅くすることがあります。
寝る直前まで元気に遊んでいると、脳や体が興奮状態のまま寝ることになり、なかなか深い眠りに入れない事例もよくあります。
2. 思春期の子ども
スマホやタブレットから発せられるブルーライトが睡眠ホルモン(メラトニン)の分泌を妨げ、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりします。思春期特有のホルモン変化や学業・受験のプレッシャー、友だち関係のストレスなども睡眠に影響します。
夜更かしや不規則な生活リズム、SNSによる心理的な興奮状態も、脳がなかなか休息モードに切り替わらないことにつながえります。その結果、眠りの質に影響します。
3. 成人期
仕事のストレスや対人関係の問題(職場、プライベート、家族)などは、眠りが浅い要因になることが多いです。不規則な勤務時間や交代勤務、残業による生活リズムの乱れも睡眠の質を低下させます。自律神経のバランスが不安定になることも、浅い睡眠を引き起こす要因の一つになっています。
仕事と家庭の両立による時間不足から、リラックスする間もなく就寝することで、脳が緊張モードのままになっています。お休みモードへの切り替わりがうまくいかず、眠りが浅くなります。また、運動不足やスマートフォン依存、就寝前のカフェインおよびアルコール摂取も睡眠を浅くする要因です。
4. 妊娠中・産後
妊娠中や産後に眠りが浅くなるのは、多くの女性に共通する自然な現象です。妊娠するとプロゲステロンやエストロゲンなどのホルモンが大きく変動し、体温上昇や睡眠パターンの変化を引き起こします。
妊娠中期になると赤ちゃんの胎動が活発になり、夜間に目が覚めることが増えます。また、子宮が膀胱を圧迫するため頻尿になり、睡眠が中断されがちです。妊娠後期には、お腹の大きさによる寝返りの困難さ、腰痛、むくみなども眠りを妨げます。
国内の研究によると、妊娠中に「夜ぐっすり眠れた感じがしない」と感じる妊婦さんは、妊娠初期で約半数、中期で約3割、後期では再び約6割にみられることがわかりました。また、「日中に強い眠気を感じる」妊婦さんは、妊娠の時期を問わず、常に約半数に見られました。
出典:渡邊 美奈子 他; 縦断調査による妊娠初期,中期,後期の睡眠障害と自律神経活動との関連, 日本看護科学会誌;43:509-519,2023
一方、産後は、授乳や赤ちゃんの夜泣きへの対応で睡眠が細切れになります。さらに「赤ちゃんは大丈夫か」という心配から物音に敏感になり、深い眠りに入りにくくなります。特に第一子の場合は、プレッシャーが大きく睡眠の質を低下させる要因になります。
この時期は体が回復を必要としているのに十分な休息が取れないという悪循環が生じやすく、産後うつのリスクも高まります。
5. 更年期
40代後半から50代にかけて、女性ホルモンの変化が関係しています。エストロゲンの減少によるホットフラッシュ(のぼせ)や寝汗で何度も目が覚めることがあります。
また、精神的な不安定さやイライラ感も睡眠の質を低下させます。身体的には自律神経の乱れから、寝つきが悪くなったり、早朝に目が覚めたりする症状も現れやすくなります。
出典:How Does Menopause Affect My Sleep? – The Johns Hopkins University
この時期は多くの方が人生の転機を迎えることも多く、子どもの独立、親の介護、職場での立場の変化など、社会的な役割の変化によるストレスも、睡眠に大きく影響している背景もあります。
6. 高齢期
年齢を重ねると、睡眠パターンが自然に変化します。睡眠ホルモン「メラトニン」の分泌量が減少し、深い眠りの時間が短くなるため、ちょっとした物音ですぐ目覚めるようになります。
夜間頻尿や関節痛、皮膚の痒み、こむらがえりなどの身体的な不快感も睡眠を分断する要因です。また、血圧薬や心臓の薬などの副作用が睡眠に影響していることもあります。
高齢者、そして、女性の更年期以降になると、睡眠時無呼吸症候群の発症リスクも高まります。大きないびき、無呼吸発作がると、眠りが浅くなります。そして、退職後の活動量の減少や日光に暴露する時間の不足も体内時計を不安定にさせる原因になります。
ところで、睡眠の問題と認知症には双方向の関連があります。睡眠の質の低下が認知機能に影響を与える一方、認知症の初期症状として睡眠リズムの乱れ、眠りの質の低下が現れることもあります。
悪夢が多い、夢の内容に反応して体を動かしてしまう特徴をもっているレム睡眠行動障害は高齢になると発症リスクが高くなります。同疾患があると、浅い睡眠を自覚する場合があります。
眠りが浅いときの対処法について

眠りが浅いと感じている方に、睡眠の質を高めるヒントを紹介します。
まず睡眠環境を整えることから始めましょう。寝室の温度は、夏季:25~26℃、冬季:18℃前後、そして、湿度は50〜60%が理想的です。遮光カーテンで完全な暗闇を確保し、周囲の騒音が気になる場合は耳栓やホワイトノイズを活用すると効果的です。
また、体に合った寝具選びも重要で、特に首のカーブをサポートする枕と体圧を分散させるマットレスがおすすめです。
次に夜のルーティンを確立しましょう。就寝2時間前からはスマホやパソコンなどのブルーライトを発する機器の使用を控え、リラックスできる活動に切り替えてください。38〜40℃のお風呂に浸かると体が温まりますが、しばらくすると体温が低下します。このタイミングは自然な眠気を促します。
日中の習慣も睡眠の質に大きく影響します。朝起きたら太陽の光を浴びて体内時計をリセットしましょう。
カフェインの半減期は約5時間ですので、夕方以降は控えることをお勧めします。アルコールは入眠を助けるように感じられますが、睡眠後半の質を低下させるため、摂取量とタイミングに注意が必要です。
適度に体を動かすことは睡眠の質を高めますが、激しい運動は就寝3時間前までに終えるようにしましょう。
どうしても眠れない夜は、無理に眠ろうとせず、20分以上経ったらベッドを出て別の部屋でリラックスできる活動をしましょう。そして、眠くなってから再度ベッドに戻ることをお勧めします。これにより「ベッドは睡眠のための場所」という脳の連想を強めることができます。
病院に相談するタイミング
次のような状況がある場合は、睡眠専門医やかかりつけ医への相談をお勧めします。
- セルフケアを2週間以上続けても治らない
- 大きないびきや呼吸が一時的に止まる
- 日中の強い眠気で仕事や活動に支障がある
- 夜中に何度も目が覚め、再び眠れない
- 市販の睡眠改善薬を飲んでも効果がない
- 足のむずむず感や不快感で眠れない
- 寝ている間に体が勝手に動いてしまう
- 激しい寝言がある
- 強い不安やストレスを感じている
可能であれば、2週間程度の睡眠日誌(就寝・起床時間、中途覚醒の回数、日中の眠気など)を記録していくと、より正確な診断につながります。