- ホーム
- 頻繁に悪い夢を見て眠れないのはなぜ?
頻繁に悪い夢を見て眠れないのはなぜ?
悪夢が起こるメカニズムとは
私たちが悪夢を見るのは、主にレム睡眠期に起こる現象です。レム睡眠とは、睡眠の中でも特に脳が活発に活動する時期で、夜間の睡眠の約20~25%を占めています。この時期には、脳の活動が覚醒時に近い状態になり、鮮明な夢を見やすくなります。
通常の夢と悪夢の大きな違いは、悪夢を見ている時に強い不安や恐怖を感じ、そのイベントに対する感情によって目が覚めてしまうことです。次に示すような特徴があれば、悪夢障害という病名が該当します。
- 長期間、不快な夢を繰り返し見る
- 夢から目覚めた時、すぐに現実を認識できる
- 夢の内容や感情をしっかりと覚えている
- 日中の活動に支障をきたしている
悪夢が起こる際には、脳内でいくつかの重要な変化が起きています。ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が増加し、扁桃体(感情をつかさどる脳の部位)が通常以上に活性化します。また、セロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質のバランスが崩れることで、不安および恐怖の気持ちになります。
原因について
なぜ悪夢が発生するかについて、大きく5つのカテゴリーに分けて詳説します。原因が単独でない事例もあり、複数の要因が組み合わさって悪い夢を見ることもあります。
1. 精神的要因
メンタルヘルスの要因は、悪夢を引き起こす理由の一つです。ストレスを受けている人が見る「精神的重圧のかかる夢」は、日常生活での不安やプレッシャーが睡眠中に現れたものです。仕事や人間関係のストレスの度合いや期間によって、症状が悪化します。
複数のイベントが関わると、発生頻度が増加します。別の面から見ると、精神ストレスは自律神経系の乱れを引き起こします。その結果、交感神経が過度に活性化して不快な夢を誘発します。
出典:Nightmare disorder – Mayo Clinic
大人だけの問題ではなく、子どもでも、受験ストレス、対人関係、いじめ問題によって、大きなストレスを受けることがあります。それが引き金となって、嫌な夢ばかり見るというケースもよくあります。
こころの病気があると、悪夢を見る場合があります。
不安障害を抱える方は、過度の心配や懸念が夢の中でも表現されやすく、特に現実的な恐怖を題材とした悪夢を見やすい傾向があります。繰り返し見ることがあり、目覚めた後も不安な気持ちが残ることが特徴です。
具体例としては、何かに追いかけられる夢や、試験や重要な場面で失敗する夢、逃げようとしても体が動かない夢があげられます。これらの夢は、強い不安と恐れを感じることが多く、日々の不安やストレスが影響している場合があります。
うつ病の場合、否定的な自己イメージや無力感が夢に反映され、死や喪失をテーマとした生々しい不快な夢が起きやすい印象です。
例えば、誰かに追いつめられて逃げ場を失う状況、大切な人と永遠の別れを告げる場面などの夢見体験をすることがあります。そして、どんなに助けを求めても声が出ず、誰にも気付いてもらえない心細い気持ちになる事例もあります。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)では、トラウマとなった出来事が夢の中で繰り返し再現されることが特徴です。うなされる夢を見たという経験をもつ人もいて、PTSD患者の約70~90%が悪夢を経験しているという報告もあります。これは脳が強いメンタルストレスを受けた体験を処理しようとする過程の一部とされています。
出典:7 Reasons You’re Having Nightmares -Cleveland Clinic
パニック障害の方は、パニック発作に関連した状況(閉じ込められる、窒息するなど)を題材とした嫌な夢を見やすいとされています。不快な夢の頻度と夜間パニック発作の発生には、強い関連があることが分かってきました。
2. 身体的要因
私たちの体調は、夜の眠りの質に大きな影響を与えています。
発熱時に悪夢を見やすくなった経験はありませんか?これは、体温上昇に伴う脳の活動変化が原因です。高熱により、脳内での情報処理が普段とは異なる状態となり、不快な夢を見やすくなります。また、夜間の体温調節機能が乱れることも悪夢の原因となります。
女性の場合、ホルモンバランスの変化が悪夢の発生に影響することがあります。月経前や妊娠中は感情の起伏が大きくなりやすく、それに伴って、心理的負荷のかかる夢の頻度も増加する傾向があります。月経前症候群は睡眠障害を併発する場合が多いです。
更年期の方も同様です。また、ストレス状態が続くとコルチゾールというホルモンの分泌が乱れ、悪夢を引き起こすことがあります。
ところで、甲状腺の病気は女性に好発します。甲状腺ホルモンのバランスが崩れると、不眠や不快な夢といった睡眠の問題だけでなく、疲れやすい、イライラする、気分の落ち込みといった心の不調も現れやすくなります。
夜中に悪夢ばかり見て目が覚めることがある方は、血糖値の変動を疑ってみましょう。特に夜間の血糖値低下は、不安や焦燥感を伴う夢見体験の原因となることがあります。なぜなら、交感神経が優位になりアドレナリン、コルチゾールの分泌が亢進するからです。
出典:Nocturnal hypoglycemia – MyHealth Alberta
そして、見過ごされがちなのが疲労の蓄積です。慢性的な疲れは睡眠の質を全体的に低下させ、悪夢のリスクを高めます。
3. 環境要因
睡眠環境の問題(騒音、光、温度、湿度)は、睡眠の質を低下させ、悪夢の頻度を増加させる可能性があります。特に就寝前の強い光は、メラトニンの分泌を抑制し、睡眠の質に影響を与えます。最近では、スマホ、タブレットなどからのブルーライトを浴びるケースが増えているので注意しなければなりません。
生活リズムの乱れ(不規則な就寝時間、交代勤務など)は、体内時計を狂わせ、睡眠の質を低下させます。これにより、苦痛を伴う夢体験が生じる可能性が高まります。中には、睡眠麻痺を併発するケースもあります。同様なメカニズムで、時差ボケのときにも、睡眠と覚醒リズムが安定しないので不快な夢が発生することがあります。
食生活の影響として、就寝直前の過食や刺激物の摂取(カフェイン、アルコールなど)は、睡眠の質を低下させ、悪夢のリスクを高めます。
4. 睡眠障害の影響
睡眠に関連した病気も、悪夢が出現する場合があります。
睡眠時無呼吸症候群では、呼吸が一時的に止まることで血中酸素濃度が低下し、交感神経が活性化します。これが悪夢の引き金となることがあります。特に窒息や追いかけられる夢が特徴的です。筆者は、「溺れたような感じの夢を見た」という患者さんの話を聞いたことがあります。
興味深い研究報告があります。重度の閉塞型睡眠時無呼吸の人は、怖い夢を見る頻度が低いことが明らかになりました。これは深刻な睡眠の質低下を示すサインかもしれません。夜間の頻繁な呼吸停止により、レム睡眠が極端に減少し、睡眠構築を不安定にしていると考えられます。
高齢者に多いレム睡眠行動障害では、自分が人あるいは動物などに襲われるような夢を見ることがあります。そして、その夢の内容に反応して体を動かしたり、叫んだり、異常行動が出現することが特徴です。パーキンソン病、レビー小体型認知症の前駆症状として知られています。
日中の過度の眠気を主徴とするナルコレプシーの場合には、寝入りばなに鮮明な夢を見ることがあり、怖い内容の場合があります。昼間にうたた寝をしたときにも、同様のエピソードを経験する人がいます。
5. 薬剤性の要因
さまざまな医薬品の使用や中止が、不快な夢の原因となることがあります。もし、あなたが薬を処方されているなら、お薬手帳で確認してみましょう。
睡眠薬、特にベンゾジアゼピン系薬剤の使用や離脱時に、悪夢が増えることがあります。抗うつ薬はレム睡眠に影響を与え、不快な夢の原因になります。抗不安薬も、特に急な中止は避けるべきです。突然服用を止めると、不眠や悪夢を含む離脱症状が現れることがあります。この現象は、レム睡眠の反跳的増加によって起きます。
出典:Pagel JF. Nightmares and disorders of dreaming. Am Fam Physician. 2000 Apr 1;61(7):2037-42, 2044.
近年、処方が増えているオレキシン受容体拮抗薬(ベルソムラ、デエビゴなど)によって、悪夢が発生する事例があります。異常な夢が出現する理由として、レム睡眠の時間が増えることが関係しています。
高血圧の治療を受けている人の中で、降圧剤の一種であるβ遮断薬を服用していると、悪夢の副作用が現れることがあります。その他の薬剤(抗ヒスタミン薬、パーキンソン病治療薬など)でも、同じような報告がみられます。
注意すべき症状:受診を検討すべきタイミング
誰にでも時々見る怖い夢。しかし、いつもと違う状況や、特定のサインが現れた場合は、医師への相談を考えましょう。
特に注意が必要であるケースは、不快な夢を毎晩のように見る状況です。2週間以上、次に示す症状が続くなら、診察を受ける目安です。
- 悪夢ばかり見る
- 同じような内容が繰り返される
- 夢の内容が徐々に悪化する
- 目覚めた後も恐怖や不安が持続する
日中の体調に問題ないかについても、注目してください。質の良い睡眠が取れないことで、起床時の疲労感が取れない、仕事中に日中強い眠気に襲われる、集中力が著しく低下する、体が異常にだるく感じるといった症状が現れることがあります。
睡眠の質そのものにも変化が出現します。具体的には、寝つきが極端に悪くなる、夜中に何度も目が覚める、不快な夢を見ることへの不安で眠れない、朝早い時間に目が覚めて再び眠れないといった不眠が現れることが多いです。
ぐっすり眠れないことで、精神面に影響が及ぶことも少なくありません。不安や抑うつ感が続いたり、不快な夢見体験によって身体症状(頭痛、動悸など)を伴ったり、日常生活に支障をきたすときは、早めの受診を勧めます。