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PMSが引き起こす不眠と眠気の原因と対処法
月経前症候群とは
月経前症候群は、生理が始まる3~10日前から、身体とこころの不調が起きる病気です。月経が始まると、症状が弱まったり、消失したりする特徴をもっています。
英語では、premenstrual syndromeと呼ばれており、略語はPMSです。
原因について
卵胞ホルモンと黄体ホルモンの変動が月経前症候群の発症に関わっていると考えられています。女性ホルモンの変化は、自律神経症状を引き起こします。そのため、生理前になると体の不調を自覚します。
脳内の神経伝達物質であるセロトニンの働きに異常が現れることが指摘されており。精神症状が発現する理由の一つと考えられています。
出典:江川 美保; 2.月経随伴症状—機能性 (原発性) 月経困難症と月経前症候群/月経前不快気分障害—, 心身医学;60(6):515-520,2020
症状について
生理期間が始まる10日ほど前から、精神と身体の症状が起きます。月経周期に伴う女性ホルモンの変化に伴って「自律神経の乱れ」が起きるので、症状の種類は様々です。
出典:Premenstrual syndrome – MedlinePlus
放置するとどうなる?
病状が悪化すると、著しい抑うつ気分、不安感、易怒性が現れるようになります。緊張が高まり続ける状態になる人もいます。その結果、日常生活に支障をきたしてしまいます。月経前症候群の中で重度の精神症状がある場合を、月経前不快気分障害と言います。英語では、Premenstrual Dysphoric Disorderという医学用語があり、略してPMDDと呼ばれています。
月経前症候群のつらさを周囲の人に理解してもらえないという孤独感あるいは絶望感に襲われることがあります。
病気に対する理解、サポートが得られないストレスが生じるため、家庭、職場において感情を爆発させてしまう事例があります。良好な人間関係を保てなくなることが少なくありません。
診断の方法
月経前症候群を適切に診断するために、診断基準(米国産科婦人科学会)を用います。
頭痛、腹部膨満感、乳房の張りや痛みなどの身体症状、および抑うつ、不安、イライラ感などの精神症状が出現していることを、問診で確認します。そして、これらの症状が、日常生活に支障をきたしていることを聴取します。
その上で、問題となる症状が、月経の5日前から、3ヶ月以上、連続して現れていること、そして、月経開始後4日以内に消失することを条件として、月経前症候群と診断します。
出典:Premenstual Syndrome FAQ – AOCG
病院では、どんな診察が行われますか?
問診が主体です。婦人科的な精査として、子宮と卵巣の状態を評価するため、超音波検査を行います。その他の検査として、血液検査、抑うつの評価(うつ病自己評価尺度)があります。医師から症状日記を記録するよう指示があります。
何科の医師に診てもらえば良いですか?
産婦人科です。ただし、重度の精神障害を併発している場合は、精神科、心療内科の併診を検討します。
合併する睡眠障害の特徴
月経前症候群にみられる睡眠の問題は、過眠と不眠です。黄体期の後期において、日中の眠気、疲労感、集中力の低下がみられます。
- 日中の眠気が強くなる
- 夜、寝つきが悪くなる
- 眠りが浅く、途中で目が覚める
眠りの質は低下して、中途覚醒が目立つようになります。悪夢を見る人もいます。睡眠不足の影響によって判断力が低下するので、日常生活に支障が出ます。
月経前症候群の女性は、睡眠時間が長くなる傾向がありますが、睡眠の質が低下しており、熟睡感がないという割合が多いことが報告されています。そのため、寝ても寝ても眠いという悩みが現れる場合もあります。
なぜ睡眠障害が発症しやすいのか?
月経周期に伴う変化として、黄体期では夜間の平均体温が上昇すること、メラトニン、コルチゾール、甲状腺刺激ホルモンの働きが不十分になることが、睡眠に影響しているという報告があります。
出典:Fiona et al. Chapter 185: The Menstrual Cycle, Sleep, and Circadian Rhythms. In: Kryger MH, Roth T, Goldstein CA, editors. Principles and Practice of Sleep Medicine. 7th. Elsevier; 2021.
月経前症候群に伴う睡眠の異常と概日リズムの関係はありますか?
体温、ホルモン分泌は、約24時間のリズムで変動しており、体内時計によって調節を受けています。月経前症候群において、生体リズムの変動の幅が縮小して睡眠と覚醒のリズムのメリハリがなくなることが、過眠と不眠が現れる理由と考えられています。黄体期では、日中の深いノンレム睡眠が出現していることが確認されており、眠気が増加する根拠になっています。
出典:渋井 佳代; 女性の睡眠とホルモン, バイオメカニズム学会誌;29(4):205-209,2005
概日リズムの変化によって、ホルモン、代謝の働き、および自律神経が影響を受けるため、月経前症候群の様々な症状が出現します。
月経前症候群がある人は、終夜睡眠ポリグラフ検査による評価で脳波の変化がなくても、眠りの質が低下していると自覚します。理由として、月経前症候群に伴う体調不良に対する不安が、眠りの妨げになっている可能性があります。
一般的に、ぐっすり眠れない状況が続くと、不安、抑うつ症状が現れやすいです。反対に、精神症状があることで、不眠および眠気が生じます。病状の悪化について、双方向の関係があります。
治療について
種類 | 特徴 |
---|---|
カウンセリング | 自分自身が辛くて苦しい思いを抱え込むのではなく、他人に話を聞いてもらうことで、気分的に楽になることがあります。ストレスの軽減にも役立ちます。一部の病院では、認知行動療法が行われています。 |
排卵抑制療法 | 排卵を止めることで、女性ホルモンの変動をなくして症状を抑えます。低用量経口避妊薬(OC、低用量ピル)あるいは低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP製剤)を使います。考えます。 |
身体症状の治療 | 頭痛、背部痛に対しては鎮痛剤、体のむくみに対しては利尿剤の服用を考えます。下痢、便秘、吐き気、腹部膨満感などの消化器症状に対しては、胃薬、下剤、整腸剤を用います。 |
精神症状の治療 | 抗不安剤や抗うつ剤を処方することがあります。選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)は、うつ症状の改善に有効です。精神症状が強い場合は、精神科あるいは心療内科の受診を勧めます。 |
漢方薬 | 自然の生薬を使って、女性ホルモンの変化、自律神経の乱れが引き起こす症状を改善します。具体的な治療薬として、当帰芍薬散、加味逍遥散、桂枝茯苓丸などが、よく選択されています。 |
市販の薬はありますか?
ツムラ、コタロー、クラシエなどの製薬会社が、漢方薬を発売しています。
予防について
自分の月経周期、日付、症状について、記録をとることを勧めます。日記、アプリなどを利用すると良いでしょう。経過を記録することで、体とこころの症状の傾向を知ることができます。
生理前のストレス解消法として、ストレッチ、運動、アロマトリートメントなどがあります。充分な睡眠時間をとることは大切です。そして、セロトニン合成がうまくいくように、朝食にトリプトファンを含む食品を摂取すること、そして、午前に太陽の光を浴びるように努めましょう。
家族、職場に病気のことを理解してもらい、仕事量を減らしたり、勤務時間を調節してもらうとストレス軽減に役立ちます。
「もしかして、自分の症状は病気かも?」と不安になったときは、セルフチェックをしてみましょう。具体的には、ヘルスケアラボ – 月経前症候群(PMS)/月経前不快気分障害(PMDD)チェックを利用する方法があります。