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不眠症の治療薬:ダリドレキサント塩酸塩の特徴
ダリドレキサントとは
ダリドレキサント(商品名:クービビック)は、覚醒物質であるオレキシンの受容体を阻害することで、眠りを促す睡眠薬です。新しいタイプのオレキシン受容体拮抗薬です。
日本では厚生労働省に承認された薬剤ですが、欧米では不眠症の治療薬として処方されています。
どんな剤形がありますか?
25mg錠、50mg錠です。
ダリドレキサントのジェネリック医薬品はありますか?
欧米において先発品のみ発売されており、後発品はありません。
2022年、アメリカ食品医薬品局が、成人の不眠症の治療薬(製品名:QUVIVIQ)として承認しました。入眠困難、睡眠維持が困難である成人に対して適応があります。
出典:QUVIVIQ (daridorexant) tablets – FDA
欧州連合も、不眠症の治療薬として、Quviviqを承認しました。具体的には、3ヶ月以上続く不眠があり、日常の行動に支障が出ているときに適用されます。EUで承認された最初のオレキシン受容体拮抗薬になりました。
出典:Quviviq – European Medicines Agency
日本では、ダリドレキサントは発売される見込みがありますか?
国内では、イドルシア ファーマシューティカルズジャパン(ネクセラファーマジャパン株式会社)が持田製薬と共に開発を行っています。2023年10月31日に厚生労働省にダリドレキサントの製造販売承認申請を行いました。
出典:塩野義製薬プレスリリース
2024年8月に開催された薬事審議会(医薬品第一部会)がありました。そして、9月に厚生労働省から医薬品クービビック錠25mg及び50mgの製造販売の承認がありました。12月19日に発売日が決まり、クービビックが上市される予定です。
効果について
ダリドレキサントは、オレキシン受容体の2種類のサブタイプ(OX1RおよびOX2R)に対する拮抗作用をもっています。
覚醒を促進する物質であるオレキシンの働きを弱めることで、脳の過剰な覚醒状態を抑え、睡眠に導きます。
ダリドレキサントを服用してから1~2時間経過すると、最高血中濃度に到達します。ただし、高カロリーの食事をした後に服薬すると1.3時間遅れます。一方、薬物の半減期は8時間であると報告されています。
ダリドレキサントは、肝臓でCYP3A4と呼ばれる酵素によって代謝されて消失します。
出典:Markham et al. Daridorexant: First Approval. Drugs. 2022 Apr;82(5):601-607.
先行して発売されているデエビゴおよびベルソムラと同じく、効果時間は長いです。そのため、ダリドレキサントは途中で目が覚めて睡眠が維持できない不眠症患者の症状改善に役立つと考えられます。
不眠症の治療効果と安全性
海外で行われた研究報告によれば、ダリドレキサントの服用によって、入眠潜時の短縮、中途覚醒時間の短縮、総睡眠時間の増加が確認されました。そして、ダリドレキサント50mgを服用した場合には、日中の症状(眠気、集中力、気分など)について有意な改善が認められました。
有害事象として、鼻咽頭炎と頭痛が最も多くみられました。一方、依存性、投薬中止に伴う反跳性不眠および離脱症状などは観察されませんでした。
日本では、ダリドレキサント(治験成分記号:ACT-541468)の有効性と安全性を調べるための第3相試験が行われました。その治験の結果によれば、ダリドレキサント50mgおよび25mgを服用した不眠症の患者は、総睡眠時間の増加と睡眠潜時の短縮がみられました。つまり、不眠症に対する良好な結果が確認されたことを意味します。
入眠困難と中途覚醒に対して使うことができる睡眠薬です。不眠の悩みを持っている人に対して依存性の少ない睡眠薬を選びたいときに、類薬のデエビゴおよびベルソムラの代替になる印象です。
2023年に報告された研究報告では、不眠症患者において、ダリドレキサントが最大1年間投与された場合、睡眠と昼間の機能の改善が確認されました。さらに、同薬剤の投与において、耐性、身体依存、またはリバウンドの兆候がなく、一般的に安全であるという結論でした。
副作用について
頭痛、倦怠感、日中の眠気、めまい、吐き気などです。悪夢、幻覚、脚の脱力感が起きる人もいるほか、寝入るとき、あるいは目覚めるときに一時的に体を動かせなくなったりする事象も報告されています。
どんなメリットがあるか?
ベンゾジアゼピン系の睡眠薬と比較して、ダリドレキサントは、反跳性不眠、依存性の問題を生じにくいという特徴をもっています。さらに、傾眠、転倒の危険が少ないことから、高齢者の睡眠障害の治療を考えるときに、薬剤の選択肢として有望です。
65歳以上の高齢者と65歳未満の成人にダリドレキサントを投与して、有害事象を比較した研究報告があります。その結果によれば、高齢者の副作用が有意に増加したり、翌朝以降に効果が残存することはありませんでした。高齢者において、ダリドレキサント50mgの用量が睡眠の状態と日中の症状の改善を得るために、必要であるようです。
薬の服用方法について
成人は就寝する時刻の30分前までに、ダリドレキサント50mgを就寝直前に服用します。患者の状況によって、25mgを用いることもできます。
肝障害(Child-Pugh分類B)がある人は、25mgの慎重投与です。
禁忌について
クービビックは、体内で特定の酵素(CYP3A4)によって処理されます。そのため、この酵素の働きを強く抑える他の薬と一緒に使うことはできません。クービビックの血中濃度が高くなり重度の副作用が発生することが理由です。
下記にある薬剤との併用には、特に注意しなければなりません。
種類 | 具体的な薬剤の名称 |
---|---|
抗真菌薬 | イトラコナゾール、ボリコナゾール、ポサコナゾール |
抗生物質 | クラリスロマイシン |
抗ウイルス薬 | エンシトレルビル フマル酸、リトナビル、コビシスタット含有製剤 |
もちろん、重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C)がある場合は、クービビックを服薬してはいけません。
国内のクービビックの電子添文では、ナルコレプシーまたはカタプレキシーのある患者にクービビックを投薬すると症状が悪化するリスクがあるため、注意喚起となっています。
その一方、海外で先行して発売されているQUVIVIQでは、予期せぬ時に頻繁に眠り込んでしまう(ナルコレプシー)場合も禁忌となっています。
出典:Why QUVIVIQ? – Idorsia Pharmaceuticals, Ltd.