- ホーム
- パニック発作で寝れない原因と対策
パニック発作で寝れない原因と対策
はじめに

夜になると強まる不安、眠れない夜が続く日々を送っていませんか。「また発作が起きるのではないか」という心配が頭から離れず、睡眠に対する恐怖を感じている人がいるかもしれません。すでに、精神科あるいは心療内科に通院中の人でも、もっと症状は安定すれば良いのにと思っている場合があります。
パニック障害が引き起こす不眠の問題は、身体と心の両面に大きな負担をかけ、あなたの日常生活にも深刻な影響を及ぼします。
このページでは、睡眠専門医の監修のもと、パニック障害と睡眠の関係性から、外来で使用される薬の種類、具体的な改善方法、セルフケアまで、分かりやすく解説していきます。
パニック障害とはどんな病気なのか?

パニック障害は、予期せずに突然やってくる強い不安発作(パニック発作)を特徴とする不安障害の一つです。例えば、電車に乗っているとき、仕事中、授業中など、日常的な場面で突然、以下のような症状が襲ってくることがあります。
- 動悸(心臓がバクバクする)
- 呼吸が苦しくなる
- 手足が震える
- めまいと吐き気がする
- 死ぬのではないかという恐怖心が現れる
上記のような症状が理由もなく現れます。
出典:Nighttime panic attacks: What causes them? – Mayo Clinic
通常15~30分程度で落ち着きますが、一度、怖い経験をすると「また発作が起きるのでは?」という不安に悩まされることが多くなります。医学用語で、予期不安と呼ばれています。
疫学調査によって、パニック障害は20~30代に初発することが多く、女性に多いことが分かっています。甲状腺疾患、心臓病、貧血などが鑑別診断としてあげられます。
パニック障害と睡眠異常の関係性
パニック障害を抱えている人は、発作への不安から睡眠に支障をきたすことが多いです。就寝時に「眠っている間に発作が起きたらどうしよう」という強い不安を感じ、なかなか寝付かれない 状態に陥ることがあります。うとうとしても、眠りが浅く再び目が覚めてしまう ケースもあります。これらの不眠の症状には、自律神経の乱れ が関係しています。
予期不安によって眠れない状況が続くと、睡眠不足になります。そうすると、寝不足によって身体的および精神的な疲労が蓄積され、ストレスへの耐性が低下します。その結果、通常なら対処できるような些細なストレスでもパニック発作が引き起こされやすくなります。さらに、睡眠不足によって自律神経系のバランスが崩れ、不安や緊張が高まりやすい状態となります。
つまり、パニック障害と睡眠障害は双方向に影響をする関係にあります。そのため、両者に対するアプローチが治療管理の上で大切です。
パニック障害による睡眠障害の特徴

パニック障害が引き起こす眠りの問題は、一般的な不眠症とは異なる特徴を持っています。これから、具体的な症状や違いについて、説明していきます。
症状 | 特徴 |
---|---|
就寝時の強い不安感 | 「眠ったら発作が起きるかもしれない」という予期不安がある |
中途覚醒の増加 | 夜中に何度も目が覚める |
心身の緊張状態 | 緊張して寝つきが悪くなる |
呼吸の違和感 | 横になると呼吸が気になって眠れない |
睡眠の質の低下 | ぐっすり感がなく、疲れが取れない |
パニック障害による不眠の場合、「眠れない」だけでなく、動悸が激しくなったり、汗が止まらなくなったりと、自律神経症状が併発する場合が多いです。また、一般的な不眠では「眠れないかもしれない」という漠然とした不安を感じるのに対し、パニック障害による不眠では「寝ている間に発作が起きたら、どうしよう」という、より具体的で強い恐怖心が現れることが特徴です。
そして、通常の不眠とパニック障害の睡眠異常の異なる点として、症状の波があることが挙げられます。パニック障害の場合では、比較的よく眠れる日もあれば、全く眠れない日もあり、その変動が大きいです。
治療法について

パニック障害の治療は、症状の程度や生活状況に応じて、複数のアプローチを組み合わせながら進めていきます。
治療の中心となるのは薬物療法です。SSRIやSNRIといった抗うつ薬は、不安やパニック発作などの症状を長期的に安定させる効果があります。ただし、これらの薬は、効果が現れるまでに時間を要し、通常4週間程度かかります。定期的な通院によって医師と相談しながら、継続的な服用が大切です。
一方、急に出現するパニック発作による強い不安に対しては、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬が「頓服」として処方されることがあります。この薬は比較的即効性があり、発作が起きたときの辛い症状を和らげます。しかし、良い点ばかりではありません。ベンゾジアゼピン系の薬剤を習慣的に飲んでいると、服用が中断されたときに、不安感が強く感じられる離脱症状が起こるリスクがあります。
不眠に対する治療法として、睡眠薬が使用される場合があります。さきほど説明したようにベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、長期の使用には注意が必要です。非ベンゾジアゼピン系(例:ゾルピデム、エスゾピクロン)のほうが、比較的、依存性が少ない印象です。
オレキシン受容体拮抗薬(例:スボレキサント、レンボレキサント、ダリドレキサント)は、覚醒を抑制することで睡眠を促す新しいタイプの薬です。私の外来では、「薬にずっと頼りたくない」という患者さんの気持ちを汲んで、処方することが多い睡眠薬です。薬の作用機序は、覚醒物質のオレキシンを抑えることで、自然な眠りを促すことです。
向精神薬は必ず医師の指示のもとで服用する必要があります。また、生活習慣の改善と組み合わせることで、より効果的な治療が期待できるでしょう。
別の切り口として、東洋医学の視点があります。漢方薬は、自然の生薬から構成されており、心身のバランスを整える作用があります。パニック障害で悩んでいる人の不安や緊張感を和らげるのに役立つことがあります。
例えば、柴胡加竜骨牡蛎湯は、不安感やイライラ、動悸などの症状を軽減について効能があり、一方、加味帰脾湯は、不安や不眠を改善し、心の状態を穏やかにします。これらの漢方薬は西洋薬と併用することができます。
出典:パニック障害とは?心の不調のケアに役立つ漢方薬には何がある? – クラシエ
国内の医療機関から報告された症例研究によると、漢方薬の小半夏加茯苓湯を他の漢方薬と組み合わせて服用することで、パニック障害の症状が改善したケースが確認されています。ただし、これは限られた症例での報告であり、すべての患者さんに同様の効果が期待できるわけではありません。漢方薬の使用を検討される場合は、必ず漢方専門医に相談の上、適切な漢方を選ぶ必要があります。
出典:西森(佐藤)婦美子 他; 漢方治療で発作が消失したパニック障害の3例, 日東医誌;59(5):721-726,2008
予防法について
国内で行われた研究によると、パニック障害の方の場合、睡眠時間が6時間を下回ることや、就寝前のテレビやパソコンの使用が、不安症状や抑うつ状態を悪化させる可能性があることが分かっています。
パニック障害の方は睡眠の質や生活リズムの乱れの影響を受けやすい傾向にあるため、規則正しい睡眠習慣を含む、健康的な生活リズムを続けることが、症状の安定に大切です。
出典:小松智賀 他; 2.パニック障害における睡眠習慣と精神的健康度の関連について, 不安症研究;6(6):17-24,2014
夜間のパニック発作を防ぐために、日々の生活で受けるストレスを軽減することが大切です。ヨガ、瞑想を試してみてはいかがでしょうか。心身をリラックスさせる時間を設けましょう。
注意点として、お酒を飲むと眠れるという人がいますが、パニック障害がある場合にはアルコールによって自律神経のバランスが乱れ、睡眠の質が低下します。パニック発作が起きやすくなるので、寝酒は止めましょう。
出典:Why Am I Panicking in My Sleep? – Cleveland Clinic