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SAS検査の選び方【簡易と精密:最適な方法はどちら?】
はじめに
睡眠時無呼吸症候群は、あなたが気づかないうちに健康を脅かす睡眠障害です。この病気の特徴は、睡眠中に呼吸が繰り返し止まることで、十分な酸素が体内に行き渡らず、質の良い睡眠が妨げられることです。
あなたが眠っている間に異常呼吸が出現するので、翌日に日中の強い眠気や集中力の低下を自覚する場合があります。そして、放置すると、高血圧や心臓病、脳卒中などの重大な健康問題につながるのです。
寝ているときに自分のいびきに気が付かない人は多く、病気の発見が遅れることが少なくありません。したがって、家族、パートナーに自分が眠っているときの様子を聞いてみることを勧めます。その一方、実際に閉塞性睡眠時無呼吸症候群が存在しているかを確実に調べる方法は検査です。
この記事では、睡眠時無呼吸症候群の簡易検査と精密検査の違いを詳しく解説します。自宅検査と病院検査を選ぶときにどっちがいいか迷っている人にとって、判断のヒントになると幸いです。自分の健康を守るための第一歩として、ぜひ最後までお読みください。
簡易検査と精密検査の違い
睡眠時無呼吸症候群を評価するために用いられる簡易検査と精密検査について、両者には大きな違いがあります。測定できる項目、検査の精度、用途、利便性、料金など、さまざまな観点から比較した表をご覧ください。
あなたの症状、要望や生活スタイルに合わせた睡眠障害の検査方法を選ぶときの参考になると思います。ただし、最終的な判断は医師と相談の上で行うことを推奨します。
簡易検査 | 精密検査 | |
---|---|---|
特徴 | 自宅において簡単な操作で行える。主に酸素レベルと呼吸状態を調べる。 | 医療機関で行う総合的な評価方法。脳波、筋電位、呼吸状態、心電図などを測定する。 |
検査方法と手順 | 小型の機器を装着して就寝し、呼吸や酸素飽和度を記録する。 | 複数のセンサーを体に装着し、一晩かけて様々なデータを計測する。 |
検査の精度 | 呼吸停止の回数、酸素不足の程度が分かるが、測定誤差がある。スクリーニングに適している。 | 睡眠の質、脳波、心電図など総合的な情報が得られる。高い精度と信頼性があり、確定診断に使用される。 |
再検査の必要性の有無 | センサー外れの問題、結果によっては精密検査が必要になる。 | 臨床検査技師が対応するので、通常は再検査の必要性は低い。 |
検査対象となる睡眠障害 | 中等症から重症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群。 | 睡眠時無呼吸症候群、レム睡眠行動障害、ナルコレプシーなど睡眠障害全般。 |
入院の有無 | 不要。 | 通常は1泊2日の入院が必要になる。 |
CPAP治療の適応 | AHI:40/hr以上 | AHI:20/hr以上 |
費用 | 比較的安価。 | 入院基本料がかかるので、高額になる。 |
保険適用 | あり。ただし、検診では自由診療になる。 | あり。 |
所要時間 | 1~2晩。自分の就寝時刻から起床時刻まで。 | 1晩。22時~6時のことが多い。夕方までの来院を要することが多い。 |
検査の快適性 | 自宅で測定が行われ、センサーが少ないため、比較的快適である。 | 医療機関で施行され、多くのセンサーを装着するので、若干の不快感がある。 |
結果が出るまでの時間 | 数日~1週間程度。 | 1~2週間程度。 |
小児への適用 | 精度の問題のため適用しないことが多い。 | 正確な診断のためには必須となる。 |
簡易検査と精密検査の比較のポイント
精密検査と簡易検査の最大の違いは、脳波の有無とセンサーの数です。つまり、精密検査は得られる情報が多く、診断能力が高いことが特徴です。
終夜睡眠ポリグラフ検査では、睡眠の深さ、ノンレム睡眠とレム睡眠の割合、夜間の覚醒回数が分かるだけではなく、下肢の動き、不整脈の評価、異常呼吸の区別(閉塞性と中枢性イベントの判定)ができることです。
PSG検査のときはビデオ撮影も同時に行うので、実際の睡眠の様子が分かります。そして、その映像データも、診断の精度を高めるのに役立ちます。筆者の経験では、結果説明の際に実際の映像を見せることで、患者さんの理解が深まると感じています。
簡易検査は、手軽で便利であること、そして、コストが安いことがメリットでしょう。大規模な人数に対して睡眠時無呼吸症候群のスクリーニングを行うときは、簡易検査キットによる評価が有利です。お住まいの地域に睡眠の専門施設がない場合についても、簡易検査を活用できます。
参考までに、簡易検査で得られる睡眠時無呼吸症候群の重症度の指標は、厳密に言うと、AHIではなくRDIあるいはREIです。臨床的には、終夜睡眠ポリグラフ検査で得られるAHIに近似したものとして解釈します。
出典:Standards for Accreditation of Out of Center Sleep Testing (OCST) in Adult Patients -AASM
注意点として、簡易検査は脳波を含んでいないので、総睡眠時間が分からないという欠点があります。したがって、覚醒反応による低呼吸の区別、総睡眠時間を正確に求めることができません。これらの問題点は、睡眠時無呼吸症候群の過小診断につながることがあります。
出典:藤田幸男 他; 睡眠時無呼吸症候群の診断, 日本内科学会雑誌;109(6):1066-1072,2020
どちらの検査を選ぶべきか
1.症状の程度による選択基準
軽度の症状や初期スクリーニングの場合は、簡易検査が適しています。日中の軽い眠気や時々のいびきなど、比較的症状が軽い症状のときは、まずは簡易検査を受けることをお勧めします。
一方、重度のいびきや頻回の呼吸停止、著しい日中の眠気があり、眠りの質を評価する必要があるときは精密検査を受けることが望ましいでしょう。他の睡眠障害が疑われる場合や、心臓病、脳卒中などの合併症がある場合も同様です。
子どものいびき、無呼吸の評価も、睡眠の状況を調べることができる精密検査が選択されます。なぜなら、上気道の手術適応を決めるときには、信頼できるデータが必要であるからです。
ここで、知っておきたいことは、睡眠時無呼吸症候群の症状だけではなく他の睡眠障害の合併があるケースに、どちらを選ぶべきかという知識です。
レム睡眠行動障害および周期性四肢運動障害の診断は簡易検査ではできないので、精密検査を選びましょう。簡易検査は、脳波と筋電図を含まないので、正確な病状を検出することができないことが理由です。
同様に、ナルコレプシーおよび特発性過眠症の診断を確定するには、脳波の情報が必須なので、終夜睡眠ポリグラフ検査と反復睡眠潜時検査の組み合わせが必須です。
睡眠時無呼吸症候群以外の病気の併発が疑われるとき、具体的には中枢性過眠症、睡眠関連運動障害、睡眠時随伴症の評価を要するときは、精密検査が必要です。
2. 生活スタイルによる検査の選び方
忙しい仕事や家庭の事情で時間的余裕がない方、または医療機関に泊まって検査を受けることに抵抗がある方には、自宅で行える簡易検査が適しています。一方、詳細な診断を希望する方や、他の睡眠障害の可能性も調べたい方には、精密検査がお勧めです。
また、小さな子どもがいる場合や、介護が必要な家族がいる場合など、睡眠障害の検査入院ができない事情を持っている人もいます。その場合は、自宅で行える簡易検査を選んだほうが、本人にとって都合が良いかもしれません。妊娠している場合、臨月に近づいているときは簡易検査による評価を勧めます。
3. 医師の推奨と患者の希望のバランス
最終的な検査方法の選択は、医師の専門的な見解と患者さんの希望や事情をバランスよく考慮して決定することが大切です。医師は患者さんの症状や既往歴、リスク因子などを総合的に判断し、あなたにとってベストな検査方法を提案します。
精密検査に対して、強い不安や抵抗感を持っている場合は、まず簡易検査から始めて徐々に理解を深めていく方法も考えられます。逆に、患者が最初から詳細な検査を希望しても、症状が軽度で簡易検査で十分と判断される場合もあります。日本では、健康保険制度のもと、保険適用のルールを守らなければなりません。