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睡眠不足・眠りが浅い問題がある看護師さんへ
はじめに

毎日患者さんのために懸命に働く看護師のあなた。夜勤明けの日中、どれだけ疲れていても、なかなか眠りにつけない日々が続いていませんか?
カーテンを閉め切った真っ暗な部屋で横になっても、頭の中は患者さんのことでいっぱい。「あの処置は合っていたのだろうか」「申し送りに抜けはなかったか」と思考が止まらず、気づけば就寝する時間が過ぎ去っている…。そんな悩みを抱える看護師は決してあなただけではありません。
夜勤と日勤を繰り返す不規則な勤務形態、昼夜逆転の生活、重い責任がある患者ケア、昨今になって問題となっている理不尽な要求や態度を示す患者からのハラスメント。これらの複合的な要因が、睡眠障害を引き起こしています。
「もう少し眠れたら、もっと良いケアができるのに」「この睡眠不足が続くと、いつか取り返しのつかないミスをしてしまうのでは」という不安も、さらなる睡眠の妨げとなっているのではないでしょうか。
この記事では、看護師において、睡眠の問題がなぜ起きているのか、どんな対処法があるかを紹介します。
看護師にみられる睡眠障害の割合

看護の現場では、睡眠の問題が深刻な広がりを見せています。国内研究によれば、看護職の70.5%が何らかの睡眠障害を抱え、37.3%が不眠症に該当していました。さらに驚くべきことに、30.2%、つまり約3人に1人の看護師が不眠症状に対して睡眠薬を使用している現状が報告されました。
勤務に関連した睡眠の問題も顕著です。4割を超える看護師(41.9%)が「勤務前の睡眠不足をときどき自覚している」と回答し、さらに深刻なのは、71.7%、つまり、約7割の看護師が「勤務中に睡魔をときどき感じた経験がある」と報告していることです。寝不足が続き、頭が働かない経験はありませんか。
これらの統計が物語るのは、患者ケアを担う看護師たちが、慢性的な睡眠の問題と日々向き合いながら仕事をしている厳しい現実と言えるかもしれません。
出典:齋藤 君枝 他; 看護職者のヒヤリハットに及ぼす睡眠障害とバーンアウトの影響, Jpn Psychosom Med;52:955-962,2012
総合病院の看護師の睡眠時間を調べた研究によると、およそ半数(45.3%)の看護師は「6時間」の睡眠で一日を乗り切っています。そして、平均の睡眠時間は6.05時間でした。さらに驚くことに、20人に1人(4.8%)の看護師は「5時間未満」という非常に短い睡眠時間で働いていることが明らかにされました。
出典:総合病院看護師の勤務条件と職業性ストレスおよび疲労蓄積との関連についての調査 – 鳥取産業保健総合支援センター
交代勤務の睡眠障害に関係する要因

ローテーション勤務や夜勤は体内時計を乱し、不規則な睡眠スケジュールへの適応を困難にします。睡眠覚醒リズム障害と呼ばれる病気が関係してきます。そして、頻繁で連続した夜勤は睡眠不足につながり、睡眠の質をさらに低下させます。
次に示すテーブルは、交代勤務による睡眠障害を悪化させる要因です。
要因 | 特徴 |
---|---|
シフトの種類 | 不規則なシフトパターンは体内時計を不安定にさせてしまう。 |
シフト間隔の短さ | 急速なローテーションがあると、体力の回復への時間が足りない。 |
シフトの不規則性 | 直前に予定が決まる、毎週異なるシフトであると、睡眠の計画を立てにくい。 |
夜勤の回数と時間 | 長時間の勤務、頻繁な夜勤があると睡眠負債が生じる。 |
夜勤中の仮眠の欠如 | 長時間に休憩なく勤務すると、体と心の健康に大きく影響する。 |
出典:Yu et al. Shift work sleep disorder in nurses: a concept analysis. BMC Nurs. 2025;24(1):18.
看護師に多い睡眠の悩みとは
1. 夜勤明けなのに眠れない入眠障害
夜勤が終わり、疲労感で身体が重く、「やっと眠れる」と思って帰宅しても、ベッドに横になった途端に眠気が消えてしまう「あの感覚」があります。多くの看護師が抱える悩みです。
体が疲れきっているのに、頭の中では「あの患者さんの点滴、本当に大丈夫だったかな」「申し送りで言い忘れたことはなかったか」と頭が休まらない状況が続き、なかなか寝付けません。眠いのに寝れないという経験はありませんか。
完全遮光カーテンを引き、アイマスクと耳栓まで用意しても、わずかな光や生活音が気になって、浅い睡眠になってしまいます。
家族からは「夜勤明けなんだから、すぐ眠れるでしょう?」と言われ、理解を得られないことも辛いものです。次の勤務があるので焦ってしまい余計に目が冴え、眠れないまま朝になった体験談を語ってくれた事例もあります。「今日眠れないと次の仕事に影響する」という不安から、さらに入眠できなくなる悪循環に陥ります。
もともと、私たちの体には夜は眠くなり、朝は覚醒するように調節する体内時計があります。しかし、夜勤、準夜勤、早出という体内リズムに反する勤務シフトが、どれだけ疲れていても自然な睡眠への移行を妨げているのです。つまり、睡眠サイクルが安定しないので、眠いのに眠れないという状況が起こり得るのです。
少しずつの時間でも睡眠が足りない状況が続くと、睡眠負債という目に見えない睡眠時間の借金を背負っていきます。睡眠負債があると、疲労感だけではなく、眠気、集中力の低下が現れます。そればかりか、女性の看護師にとって、睡眠負債と月経に伴う眠気が重なる時期は、二重の負担になります。
2. 慢性の睡眠の質の低下と疲労感がとれない
「ちゃんと8時間寝たのに、なぜこんなに疲れているの…」、医療従事者なら、そのような感覚になった人もいるのではないでしょうか。疲労がたまった状態では、憂うつな気分になって出勤しているケースがあります。
カレンダーの日勤・夜勤のマスは不規則に塗り分けられ、体内時計が追いつく暇もないまま次のシフトに入ってしまう。深い眠りに入るべき時間帯に起きていたり、起きていなくてはならない時間に無理に眠ったりを繰り返すうちに、いつの間にか深いノンレム睡眠が減り、「ぐっすり寝た」という感覚そのものが薄れてゆきます。翌日、眠気と戦いながら、出勤する経験を語る看護師さんの事例を経験したことがあります。
国内の大学病院で働く看護師を調査した研究によって、50%以上の看護師が「夜中に何度も目が覚めてしまう」あるいは「朝、すっきり目覚められない」と感じていることが明らかになりました。つまり、看護師2人に1人は、十分な睡眠が取れないまま仕事をしている可能性があります。
出典:岩下 智香; 看護師の勤務体制による睡眠実態についての調査,九州大学医学部保健学科紀要;8:59-68,2007
休日は「今日こそ疲れを取ろう」と10時間以上寝てみるものの、かえって頭が重くなり、だるさが増すという体験談を聞いたこともあります。「次の勤務で病棟の薬剤を確認するとき、ヒヤリ・ハットにならないだろうか」という不安がつきまとい、より質の良い睡眠を求めて早めにベッドに行っても、頭が休まらない・・・
シフト勤務によって、睡眠リズムが不安定になったり、睡眠の質が低下したり、眠りに関する悩みは、昼間の勤務が主体である職業の人には理解されにくいです。その一方、看護師にとっては「あるある」なのかもしれません。
夜勤で働く看護師を対象とした国内の研究によれば、朝方(特に6時〜7時頃)になると、最も眠気を感じる時間を迎えます。これは体内時計の乱れによるものです。ところが、この時間帯は、病棟患者の朝の処置や検査、朝食の準備など、病棟が最も忙しくなる時間と重なっています。
研究では、「眠ければ眠いほど、疲れも強く感じる」「活動量が増えれば、増えるほど疲労感も増す」「時間が朝に近づくにつれて疲労感が増す」という3つの関係が確認されました。
看護師は生理的に最も眠い時間帯に、逆に最も忙しい業務をこなさなければならないという、とても厳しい状況で働いています。
出典:折山 早苗 他; 深夜勤務労働が看護師に及ぼす影響 —深夜勤務中の活動量,眠気,疲労感および生理学的指標の変化—, 日本医療・病院管理学会誌;48(3):147-156,2011
3. 職場ストレスで眠れない不眠
ベッドに横になって目を閉じても、先輩看護師からの厳しい指摘や医師との些細な行き違いが頭の中でリプレイされ続けることがあります。自宅でほっとするつもりの時間が、病棟や救命外来、申し送りでの出来事で埋め尽くされています。
暴言を吐いた患者さんのことが突然フラッシュバックして、心臓がドキドキしてしまう経験はありませんか。重症患者さんを担当した夜は特につらく、「酸素の設定、本当にあれで良かったのかな」「観察項目を見落としてはいないだろうか」と、何度も確認した記憶が頭から離れません。
病棟の引継ぎが終わって帰宅してからも、ナースコールが鳴ったような気がする場合もあるようです。家族と会話していても、「今、なんか音がしなかった?」と何かと着信音に反応してしまう職業的な責任感。休日の前夜でさえ「明日は休みだから」と自分に言い聞かせても、理不尽なクレームや急変時の混乱した状況を思い出してしまうこともあるでしょう。
職業柄、仕事のプレッシャーによって交感神経が優位になることが多く、本来リラックスして眠るべき時間にもなかなか副交感神経に切り替わらない理由が考えられます。チームで働くという医療の特性上、人間関係のもつれ、軋轢、部署間の壁は眠れない要因の一つになっています。場合によっては、離職につながることがあります。
ペイシェントハラスメントの影響

勤務が終わって、自宅でほっとしているのに、あの患者さんの言葉や行為が頭から離れない夜。「いつまで、待たせるんだ」「笑顔が足りない」「もっと若い看護師に代わって」という心ない言葉から、明らかな性的言動まで。看護学生の頃とは異なり、看護師として受け持ちの患者さんを担当したときに、病棟の対応にストレスを感じる人もいるでしょう。
患者および家族から受ける、医療従事者に対する自己中心的な要求、過度に理不尽なクレームなどの迷惑行為はペイシェントハラスメントと呼ばれています。性的な冗談や発言、特定のスタッフだけを指名して身体的ケアを要求する行為はセクハラに該当します。
出典:ペイシェントハラスメントへの対応方針 – 九州労災病院
看護師が経験するセクハラは、さまざまです。バイタル測定や処置中に「君みたいなかわいい子と結婚したかった」と耳元でささやかれたり、体位の変換時にわざと胸や臀部に触れようとする行為、「男性看護師は嫌だ、若い女性に身体を拭いてほしい」といった露骨な要求を受けることもあります。中には、処置中にスマホで撮影されるケースもあるようです。事例によっては、性被害に該当するケースもあると推察され、これは氷山の一角かもしれません。
点滴の確認に行くと「今日は下着何色?」と尋ねられたり、夜間巡回時に「一緒に寝てよ」と言われたり。こうした言動に日中は表情を変えずに対応していても、毎日のように続くと嫌な気持ちになります。そして、看護師長に相談しても、あいないま対応を受けることも。毎日がストレスになる可能性があります。
特に夜勤のときに経験したセクハラは、帰宅後すぐの睡眠にも影響し、「また明日」という不安と恐怖から、眠れない状況になります。
一方、患者さんのご家族からのハラスメントも深刻です。「なぜ家族に先に連絡しなかったの?」「他の病院ではもっと丁寧に対応してくれた」「あなたの対応が悪いから、こんな状態になった」—こうした言葉は、看護師としての自信を根本から揺るがしてしまいます。
ペイハラは看護師の睡眠に深刻な影響を及ぼします。医療現場で受けたつらい体験は、交感神経の持続的な亢進を引き起こし、入眠困難や中途覚醒の原因となります。また、ハラスメントの記憶がよみがえる「フラッシュバック」により、悪夢や睡眠の質の低下を引き起こすことも少なくありません。ひどい体験を受けると、PTSDを発症するリスクが高くなります。
カリフォルニアから来た娘症候群とは
終末期の医療の現場において、突然現れた遠方の家族が、これまでの医療方針に激しく異議を唱える場面を経験したことはありませんか。
チームが何度も話し合いをして、ようやく方針に決まったのに、ひょっこり現れた遠方の家族の主張によって、また一からやり直しという事例です。ちゃぶ台返しによって、現場は大混乱になります。
出典:Unger KM. The Daughter from California syndrome. J Palliat Med. 2010 ;13(12):1405.
海外では「シカゴから来た娘」、国内では「ぽっと出症候群」などと呼ばれることがあります。看護師にとって大きな心理的負担となり、不眠が現れることがあります。そして、睡眠の質に影響を及ぼします。
患者さんとご家族の意向を尊重してきた終末期ケアの方針が突如現れた親族によって覆されてしまうと、看護師は深い葛藤に陥り、心理的なストレスが高くなります。そして、こころの病気、不眠症が現れます。筆者は、終末期のケア、訪問看護に関わっている看護師の不眠を経験したことがあります。
患者さんとご家族の意向に沿った終末期ケアの方針について、突如、遠方から現れた親族によって一方的に覆されたとき、看護ケアに関わっている医療従事者の心には深い葛藤が生まれます。
「これは本当に患者さんの望みなのだろうか」「家族間の複雑な関係に巻き込まれているのではないか」という思いが、夜になっても頭から離れず、心の負担となって積み重なっていきます。
このようなストレスが蓄積すると、眠れない夜が増え、不眠症へと発展することも少なくありません。患者さんのためを思う気持ちが強い看護師にとって、心の板挟み状態による睡眠障害のリスクが高まることがあります。
質の高い睡眠をとるための工夫
1. 夜勤に負けない質の高い睡眠法
夜勤明けは、睡眠の質を少しでも高めることが大切です。帰宅後すぐ眠ろうとせず、15分程度のクールダウンタイムを。入浴で深部体温を上げた後の体温低下が入眠を促します。寝室は完全遮光し、アイマスクと耳栓を併用することを勧めます。
交感神経が高ぶった状況が続くなら、自分が好きな睡眠BGMを聴くのも一案です。スマホのタイマー機能を使うと良いでしょう。
一方、現場においては、夜勤中の仮眠は可能なら深夜2~3時の間に2時間確保をしてください。なぜなら、仮眠は倦怠感とぼやけ感などの自覚症状の改善に効果が必要であるからです。それが難しい場合は15~20分の仮眠をとりましょう。
出典:永田 亜希子 他; 夜勤・交代制勤務に従事する看護師の疲労と対処, 千葉看会誌;29(2):67-75,2024
カフェインは仕事が始まる時刻から6時間以内に控えめにしましょう。反対に、夜勤の後半はカフェイン摂取を避けることが大切です。シフトでは「前進ローテーション」(日勤→準夜勤→夜勤)が体への負担が少ないです。
出典:夜勤・交代勤務による睡眠障害と生活リズムの改善方法 – 相談e-眠り
勤務と勤務の間に11時間以上のインターバルを確保できるよう職場と相談することが推奨されます。
出典:夜勤・交代制勤務に関するガイドライン – 日本看護協会
2. ストレスから心と体を守る睡眠のヒント
看護の現場でのストレスは避けられませんが、少しでも良い眠りをとることで体と心を休めましょう。就寝1~2時間前からはブルーライト対策をしましょう。寝室にスマホを持ち込まず、職場の悩みを持ち込まない「心の切り替え」も大切です。
入眠前のルーティンとして、ストレッチ、ヨガなどを取り入れることも良いです。また、簡単に気持ちを落ち着けさせる方法として、5分間、呼吸に集中する簡易瞑想があります。一度、試してみてはいかがでしょうか。
現場で働く看護師さんから頂いた経験談として、ペイシェントハラスメントや人間関係のストレスで眠れないときは、就寝前に「心配事ノート」に書き出し、心の整理をするというエピソードもありました。
あなたの悩みを書き出すことも良い方法ですが、休日には家族や友人に思い切って話を聴いてもらうことで、長期的なストレス軽減につながります。外来で、不眠症に悩む看護師さんの診察を行うことがありますが、やはり、傾聴には心理的負担を軽くす効果があると思います。
ベッドに入っても、入眠困難が続くときは、いったん起き上がって別室で15分ほど軽い読み物をするのも良いでしょう。カフェインが入っていない温かい飲み物、例えば、カモミールやバレリアンなどのハーブティーでリラックスする方法があります。
どうしても睡眠薬が必要な場合とは?

不眠に対して非薬物的アプローチを優先すべきですが、どうしても眠れない、あるいは疲れがとれないときに、短期間に限り睡眠導入剤を使用することが適切なケースもあります。 特にシフトワークによる睡眠障害が、日常生活に支障をきたす場合には、睡眠薬による治療が選択肢になります。
特に夜勤の連続や不規則シフトで体内時計が大きく乱れ、夜勤明けに全く眠れず次の仕事に影響する場合は、医師に相談しましょう。
睡眠薬にはさまざまな種類がありますが、依存性のない睡眠薬としてオレキシン受容体拮抗薬(クービビック、デエビゴなど)を検討します。 従来の睡眠薬と違い依存性が低く、自然な睡眠を促す効果があります。効果が不十分であれば、屯用として非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬(ルネスタ、マイスリーなど)を検討します。
どんな睡眠薬を使うのか、どの用量が適切であるかは、外来で医師と相談しながら、副作用の発現に注意しながら決めていきます。
精神的に参ってしまって、不安、緊張感をとる目的のために、短期的に精神安定剤(ソラナックス、リーゼなど)を併用する事例もあります。希望によっては、不眠症に対して効能がある漢方薬を活用することがあります。