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SASの患者の受け持ちになったときの看護の要点
はじめに
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に繰り返し呼吸が止まる病気です。呼吸の異常が睡眠に影響することが特徴です。そして、生活の質の低下や、高血圧、心臓病、脳梗塞、脳出血などの合併症リスクを高めます。
注目すべきことは、睡眠に関わっている病気であるため、さまざまな診療科でも関わりがあります。そのことは、医療従事者、とくに患者さんに身近に関わる看護師によるケアの役割が、大切である所以です。
適切な看護ケアを行うことが、睡眠時無呼吸症候群の患者の「生活の質」の向上に直結します。今回のブログ記事では、看護師として知っておきたい睡眠時無呼吸症候群の基礎知識、看護アセスメントからケアを取り上げます。看護学生、新人看護師にも役立つ知識を語っていきます。
看護問題の種類:具体例
患者さんの主訴、臨床経過によって異なります。病棟や外来でよくある看護問題と看護目標の例になります。個別のケースに応じて、参考にしてください。実際には、患者の看護アセスメントに基づいて優先順位を決定し、患者さんが達成できそうな目標を設定することがポイントです。
よく使う文章は、テンプレートとして保存しておくと時短になります。
※スマホでこのページを見ている人へ。
上段が看護問題、下段が看護目標に該当する文章です。
看護問題 | 看護目標 |
---|---|
睡眠時無呼吸による日中の眠気や倦怠感、集中力の低下 | 夜間の無呼吸エピソードが減少し、睡眠の質が改善される。 日中の眠気や倦怠感が軽減し、日常生活の活動性が向上する。 |
肥満、体重増加に起因した上気道の狭窄と無呼吸の増悪 | 適切な食事管理と運動療法により、体重が5~10%が低下する。 BMI:25未満を目標にして、上気道の狭窄が改善される。 |
CPAP機器の不適切な使用に関連した伴う不十分な治療効果 | CPAP機器の適切な使用方法を把握し、毎晩4時間以上、週70%の使用を行う。 マスクに慣れて、リークや不快感なくCPAPを使用できる。 |
SASに関する知識不足による治療アドヒアランスの低下 | SASの病態、合併症、治療法を理解し、セルフケアの重要性を認識する。 CPAP療法、口腔内装具、生活習慣の改善など、治療計画を守る。 |
SASに関連した高血圧や心血管疾患の合併リスク | 定期的な血圧測定と服薬管理により、血圧が基準値範囲内に維持される。 心臓の負担が軽減され、心機能が改善される。 |
SASに関連した不眠、ストレスや気分の不調 | リラクゼーションや睡眠衛生の指導により、ストレスが軽減される。 気分障害の症状が改善し、心理状況が改善される。 |
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠の質を不安定にさせ、呼吸と循環に悪影響を及ぼします。前者の影響として、日中の眠気、集中力の低下などが現れます。ぐっすり眠れないことが長期に続くと、うつ症状を呈する場合があります。一方、後者については、血圧の上昇、動脈硬化の進行に影響が現れます。なぜなら、交感神経系が亢進するからです。
SASを治療せずに放置すると、高血圧から狭心症、心筋梗塞、脳卒中の発症につながります。
受け持ち患者が抱えている悩み、医学的な問題点によりますが、病態の改善を目的として目標を立てると良いでしょう。心不全患者が多い循環器病棟では、閉塞性のみならず中枢性睡眠時無呼吸症候群を併発している症例も多いです。
睡眠時無呼吸症候群患者の看護計画
看護問題および目標によって、内容を変える必要がありますが、代表的なものを紹介します。必要な内容のみ抜粋して、活用してください。
看護計画書に記載するときは、簡潔明瞭を心掛けると良いです。筆者が一般的に使っている例文です。
1.観察計画 O-P: Observation Plan
- 睡眠時の呼吸状態をモニタリングし、無呼吸の回数、持続時間、血中酸素飽和度の低下などを記録する。
- いびきの大きさ、頻度、特徴を観察し、記録する。
- 日中の眠気や倦怠感の程度を観察し、エプワース眠気尺度(ESS)などを用いて評価する。
- 睡眠の質や睡眠パターンを観察し、中途覚醒、早朝覚醒、寝付きの悪さなどの有無を確認する。
- 患者の体重、BMI、首の周囲径を測定し、肥満度を評価する。
- 口腔内の観察を行い、口蓋扁桃肥大、小顎症、下顎の後退、舌肥大などの解剖学的な問題について確認する。
- 歯の状態と顎の形態について評価する。
- 小児では、発育遅延、発達障害の有無、陥没呼吸、夜尿について確認する。
- 終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)の結果を確認し、無呼吸低呼吸指数(AHI)、低酸素血症の程度、睡眠の質などを把握する。
2.援助計画 T-P: Treatment Plan
- 睡眠時の体位について、仰臥位を避けて側臥位を勧める。
- 枕の高さや硬さを調整し、上気道の開存性を改善する。
- 口腔内装置(マウスピース)の装着を歯科衛生士と連携して、下顎の前方移動による上気道の狭小化を防ぐ。
- 枕の高さや硬さを調整し、上気道の開存性を改善する。
- CPAP治療の使用を援助し、マスクのフィッティングやリークのチェック、設定圧の調整などを行う
- 日々の食事療法、運動療法に関する助言を与えて、肥満の改善や全身状態の向上を図る。
- リラクゼーションや睡眠衛生指導を行い、睡眠の質の改善を支援する。
- 鼻づまりがあれば、耳鼻咽喉科への受診を提案する。
3.教育計画 E-P: Education Plan
- 睡眠時無呼吸症候群の病態、症状、合併症などについて説明し、患者の理解を深める。
- 精密検査の目的、方法、結果の解釈などを説明し、患者の理解と協力を得る。
- CPAP療法の仕組み、効果、適切な使用方法などを説明し、アドヒアランスの向上を図る。
- 歯科衛生士と連携して、口腔内装具の使用方法、注意点、手入れ方法などを案内して、継続使用を促す。
- CPAP治療の使用を援助し、マスクのフィッティングやリークのチェック、設定圧の調整などを行う
- 生活習慣の改善(減量、禁煙、アルコール制限など)の重要性を納得させて、患者の行動変容を支援する。
- 睡眠衛生(規則正しい睡眠リズム、寝室環境の調整など)の具体策を解説して、実践するよう諭す。
- 合併症(高血圧、心不全、および不整脈)の予防や管理の必要性を説明し、定期的な検査と治療の必要性を理解してもらう。
- 家族や介護者に対して、SASの基礎知識や治療法、注意点などを伝えて、在宅での患者サポート体制を整える。
看護師が果たすSAS発見のポイント
睡眠時無呼吸症候群とは一見関係なさそうにみえる患者さんがいるときも、睡眠時無呼吸症候群が潜在しているケースがあります。早期発見によって、患者さんの病状の改善につながるきっかけになります。
一般的にSASは、肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病と関係が深いです。しかし、やせ型の人でも発症することがあるので注意しましょう。
以下に示すヒントを手がかりに、外来あるいは病棟で患者の観察や問診を行うと良いでしょう。観察項目をチェックリストにしておくことも、良いアイデアです。
症状と所見 | 特徴 |
---|---|
いびきの聴取 | 大きないびきや、不規則ないびき、呼吸停止を伴ういびきは、SASを疑うサインです。夜間巡視のときに、いびきの有無に注意を払うことが大切です。 |
日中の眠気や倦怠感の観察 | SASによる睡眠の分断化は、日中の眠気や疲労を引き起こします。患者の日中の様子を観察し、眠気の程度や日常生活への影響を確認します。 |
起床時の頭痛 | SASでは、上気道が閉塞していることによって、朝方から午前中にかけて、体内に二酸化炭素が貯留します。その結果頭痛や頭重感を訴えることがあります。 |
胸やけの有無 | 消化器内科領域では、逆流性食道炎とSASの関係について忘れずに聞きましょう。胸腔内圧が陰圧になるので、胃酸が夜間に逆流しやすい傾向があります。 |
肥満や太い首周りの観察 | 上気道の閉塞は、首回りの脂肪組織の影響を受けます。肥満、太い首周りは、SASのリスク因子です。患者の体型や首周りの太さに注目しましょう。 |
高血圧や心疾患などの合併症 | SASは、高血圧、心不全、心房細動などの心血管疾患を合併しやすいです。これらの病気を有する患者を受け持ったら、SASの可能性を念頭におきます。 |
パートナーからの情報収集 | いびきの頻度や大きさ、無呼吸の有無は、ベッドパートナー、家族、養育者などが知っていることが少なくありません。患者の睡眠状況について、情報を収集します。 |
睡眠の質に関する問診 | 患者に睡眠の質について聞いてみましょう。熟眠感の乏しさや中途覚醒の回数、夜間にトイレに行く回数などを確認します。寝言と歯ぎしりについても確認します。 |
出典:What nurses need to know about sleep apnea – Nursing made Incredibly Easy!
看護師によるSASの発見は、患者のQOL改善の糸口になることが少なくありません。したがって、SASの基礎知識を持つことで、あなたの看護ケアのスキルが上がることを期待しています。