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睡眠時無呼吸症候群の簡易検査と結果の判断と次のステップ
睡眠時無呼吸症候群の簡易検査
閉塞性睡眠時無呼吸が疑われる場合、いきなり精密検査を行うことは少なく、まずは自宅で行える簡易検査を試すことが多いです。
日本において、終夜睡眠ポリグラフ検査を施行する場合は、簡易検査で疑いがあったときに保険適用になります。一方、運転業界では全数調査にしてしまうと、精密検査のコストがかかりすぎるので、SAS検診として簡易検査が活用されています。
簡易検査の最大のメリットは、精密検査と比較して、手軽で費用も抑えられることです。代表的な簡易検査の種類として、パルスオキシメーター、アプノモニター(携帯型簡易モニター)などがあります。
パルスオキシメーターは、指に装着するだけで血中酸素濃度を測定できる機器です。睡眠中の酸素濃度の低下は、無呼吸のサインである可能性があります。一方、アプノモニターでは、低酸素血症の程度だけではなく呼吸の状態も知ることができます。
もしも、あなたが簡易検査を受けたときに、結果を見てどうすべきか、判断に悩んでいるなら、最寄りの睡眠時無呼吸の外来の診察を受けることを勧めます、しかし、受診する前に、自分の検査結果でどうのような解釈がされるか、そして、想定される次のステップについて、知りたいと思うかもしれません。
そこで、今回のブログ記事では、睡眠時無呼吸症候群の簡易検査の結果の見方に焦点を当てます。
簡易検査:パルスオキシメーターの結果の見方
パルスオキシメーターによる評価では、体内の酸素不足がどのくらいあるか、分かります。シンプルな測定項目ですが、寝ているときの呼吸に関係する手がかりをつかむことができます。
睡眠専門医が注目している数値は、血中酸素飽和度です。SpO2という項目の数値に注目しましょう。トレンドグラフで血中酸素レベルの低下があれば、何らかの呼吸障害があると解釈します。そして、血中酸素濃度が90%以下になる時間が多いと病的であると判断します。
トレンドグラフにおいて、無呼吸発作があると酸素レベルの低下と心拍数上昇がみられます。すなわち、睡眠時無呼吸症候群の可能性があると予測します。
検査結果には、さまざまな数値がありますが、血中酸素飽和度が3%低下した1時間当たりの回数は、3%ODI(3% oxygen desaturation index)という指標です。3%ODIが5回以上であれば、SASの疑いがあり、15以上であれば、中等度から重症のSASの可能性があると判断されます。
出典:吉村 力; 労働者の睡眠時無呼吸症候群, 産業医学ジャーナル;47(1):67-72,2024
ただし、これらの基準はあくまでも目安であり、個人差が大きいことを理解しておく必要があります。簡易検査の結果が正常値であっても、眠気、集中力の低下、うつ症状がある場合は、医療機関での精密検査を検討すべきです。一方、簡易検査の結果が異常値であっても、必ずしも睡眠時無呼吸症候群とは限りません。なぜなら、測定誤差があるからです。他の睡眠障害や健康問題が関与している可能性もあるため、専門医の診断が不可欠です。
医療機関での精密検査が必要なケースとしては、次のような場合が挙げられます。
- 簡易検査で異常値がある
- 日中の強い眠気や集中力の低下がある
- 高血圧、心臓病、脳卒中などの合併症が疑われる
- SASが原因と考えられる交通事故が疑われる
- 他の睡眠障害の併発が考えられる
上記に該当する場合には、終夜睡眠ポリグラフ検査による確定診断と適切な治療方針の決定が必要です。睡眠の状況が詳しく分かる脳波を含む精密検査を受けましょう。
日本の健康保険の制度では、パルスオキシメーターの数値のみで、睡眠時無呼吸症候群に対するCPAP治療あるいはマウスピースによる治療を始めることはできません。
簡易検査:アプノモニターの結果の見方
アプノモニターは呼吸センサーを内蔵しているため、パルスオキシメーターとは異なり、血中酸素レベルだけでなく呼吸の状態も把握することができます。これにより、睡眠時無呼吸症候群の診断に必要な情報を提供してくれます。
睡眠中の呼吸パターンを記録し、無呼吸や低呼吸のエピソードを特定することができます。ただし、終夜睡眠ポリグラフ検査と比較すると、脳波が含まれていないので、睡眠の状況までは判断できないという欠点があります。
睡眠時無呼吸症候群の重症度の指標として、計測された期間の1時間あたりの呼吸イベント(無呼吸および低呼吸)の回数が算出されます。この数値は、RDI(Respiratory Disturbance Index、呼吸障害指数)と呼ばれており、臨床上、AHI(Apnea-Hypopnea Index、無呼吸低呼吸指数)に近似した数値として扱われています。
同様な考え方で、呼吸イベントの総数を計測時間で割ったものは、 REI(Respiratory Event Index、呼吸イベント指数)と呼ばれています。最近では、検査施設外で施行された簡易検査の結果では、REIが使われるようになっています。
SAS検診や最寄りのクリニックで受けた簡易検査では、REIの数値と臨床症状の重症度を考慮して、次のステップが判断されます。
アプノモニターで算出される数値の見方として、REIが5以上の場合に異常と判定します。そして、数値が高いほど、睡眠時無呼吸症候群の重症度が高いと評価されます。
本来は、終夜睡眠ポリグラフ検査で算出されたAHIによる重症度分類ですが、簡易検査で算出されたREIにおいても、便宜的に下記のように分類されています。
重症度 | REI(/hr) |
---|---|
軽症 | 5~15未満 |
中等症 | 15~30未満 |
重症 | 30以上 |
日本の医療制度では、アプノモニターで算出されたREIが40以上の場合に、CPAP治療の保険適用が認められています。つまり、重症の睡眠時無呼吸症候群として良いという判断基準になっています。
たしかに、REIが5以上であれば病的な基準であるということで、睡眠時無呼吸症候群の診断ができます。ところが、REIが40未満の場合、口腔内装置による治療しか認められてません。その点、アプノモニターの評価によるCPAP適用の基準は終夜睡眠ポリグラフ検査よりも、厳しくなっていると言えるかもしれません。
アプノモニターを使用する際には、閉塞性睡眠時無呼吸の重症度を過小評価してしまう可能性があることに注意しましょう。
出典:What Are At-Home Sleep Apnea Tests? – Cleveland Clinic
上記のことから、適切な治療方針が定まらないときに、終夜睡眠ポリグラフ検査を検討することになります。さらに、睡眠時無呼吸症候群の手術(耳鼻科)、舌下神経電気刺激療法を検討するときは、手術適応の決定に終夜睡眠ポリグラフ検査のデータが必要です。
よくある質問と回答
簡易検査の結果が正常でも、症状がある場合はどうすればよいですか?
医療機関での精密検査を検討することをお勧めします。簡易検査では検出できない軽度の睡眠時無呼吸症候群、上気道抵抗症候群、他の睡眠障害が潜んでいる可能性があります。
SAS検診で受けた簡易検査の結果が境界値の場合、どのように対処すべきですか?
あなたが抱えている症状の程度や病気の危険因子の有無を考慮して、医療機関での精密検査を検討してください。定期的に簡易検査を行い、経過を観察することも大切です。
慢性心不全、脳卒中に併発することが多い中枢型睡眠時無呼吸症候群、チェーンストークス呼吸の診断に、簡易検査を用いることはできますか?
簡易検査では、閉塞型と中枢型イベントの鑑別を正確に行うことができません。そのため、終夜睡眠ポリグラフ検査による評価が適切です。
出典:Home Sleep Apnea Testing – AAST Technical Guideline