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睡眠時無呼吸症候群が事故に及ぼす影響と対策
睡眠時無呼吸症候群と交通事故の実態に迫る
「夜しっかり眠っているはずなのに、なぜ運転中にこんなに疲れているんだろう?」そんな疑問を持ったことはありませんか?もしかしたら、睡眠時無呼吸症候群がもたらす日中の過度の眠気や疲労感のサインかもしれません。あなたは、家族やパートナーから、大きないびきをかいていると指摘されたとはありませんか。
十分に寝たはずなのに日中に集中力が起きているのは、熟睡できていないことは理解できます。しかし、自分のいびきが睡眠に危険な影響を及ぼすことに気付いていない人は、意外に多いのです。
閉塞型睡眠時無呼吸が原因になって運転中の事故が起きている事例が、国内および海外でも報告されています。つまり、この病気は、車社会の安全面において大きな影響を及ぼします。そして、何も対策しないと、取り返しのつかない事件になる恐れもあるのです。
今回のブログ記事では、睡眠時無呼吸症候群の基本情報から、その潜在的な危険、そしてあなたとあなたの家族が取るべき具体的な予防策と治療法、トラック運転手、バス・鉄道の運転士、タクシー運転手など、職業上、長時間運転を行う人々が知っておきたい知識について、詳しく解説します。
睡眠時無呼吸症候群と事故リスク
睡眠時無呼吸症候群は、眠っているときに呼吸が不十分になったり、停止したり、異常呼吸が繰り返される病態です。上気道の狭窄や閉塞により起こりますが、異常呼吸による脳の覚醒が睡眠の分断化を発生させます。それにより、睡眠の質が低下するので、日中の過度の眠気や集中力の低下が現れます。運転中にマイクロスリープが発生しやすくなるので危険です。
働き盛りの中年世代(40歳以上)の睡眠時無呼吸症候群の有病率を調査した研究があります。その結果によれば、無呼吸低呼吸指数(AHI)が5以上で、日中の過度の眠気(エプワース眠気尺度 > 10点)に該当する割合が、男性の有病率は12.5%、女性は5.9%でした。
眠時無呼吸症候群の有病率は高いと推測されており、男性に多いという傾向があります。しかし、診断されずに過ごしている人が少なくありません。睡眠外来で患者さんにお話を聞くと、職場のSAS検診を受けて初めて、その病気の存在を知ったという事例も多いです。
この病気が危険であるという理由の一つに、交通事故、特に自動車事故のリスクが高くなることがあげられます。睡眠時無呼吸症候群が発症させる日中の強い眠気は、運転中に危険な状態を生み出します。そして、認知処理の低下、瞬時の判断の遅れ、反応時間の遅延などが居眠り運転を誘引します。
このことは、睡眠時無呼吸症候群を持っている人は、病気の影響によって平均事故率が1.21~4.89倍高くなると統計データが裏付けています。
運転中に急に眠くるなる理由はさまざまですが、その中の一つとして、睡眠時無呼吸症候群の存在を忘れてはなりません。よくある病気であることを理解しましょう。
事故の事例について
睡眠時無呼吸症候群をもっている運転手が引き起こした事故の具体的な事例を紹介しましょう。
トラックドライバーが、首都高速道路で玉突き事故があり死傷者が発生しました。後の調査で、このドライバーは未診断の睡眠時無呼吸症候群であったことが明らかになりました。
別の事例では、夜行のツアーバスが未明に、防音壁に衝突事故を起こしたことも報告されています。自動車、バスだけではなく、新幹線、飛行機、船舶などでも多数の事例において、事故と睡眠時無呼吸症候群の関連が指摘されています。
出典:居眠り運転が増加!? – 睡眠時無呼吸なおそう.com
このように、睡眠時無呼吸症候群は、運転者自身が気づかないうちに事故リスクを高めることがあるため、早期の診断と治療が重要となります。本人の健康面への悪影響もあります。その一方、悲惨な交通事故を引き起こすので社会的な問題とも言えます。
出典:こんなに怖い睡眠時無呼吸症候群 3. 交通事故・労働災害 – 無呼吸ラボ
睡眠時無呼吸症候群と言えば肥満体型で眠気がある人という思い込みはありがちです。しかし、日本人の睡眠時無呼吸症候群の特徴として、約40%は肥満ではなく、約50%は日中の傾眠を感じていないと報告されています。つまり、体型と眠気の有無のみで、この病気の有無について判断することは早すぎると言えます。
出典:佐藤 誠; II.睡眠時無呼吸症候群(SAS)の疫学, 日本内科学会雑誌;109(6):1059-1065,2020
睡眠時無呼吸症候群による居眠り運転で発生する事故は、どのような状況で多いと考えられますか?
長距離運転や高速道路での運転があります。なぜなら、長時間運転による疲労の蓄積、単調な運転が続くと眠気を誘発しやすいからです。次に、夜間や早朝に運転すると事故の危険度が増えます。ところで、私たちの脳には睡眠と覚醒を調節する体内時計があります。自然な眠気がピークに達する夜間や早朝の時間帯の走行は事故を誘因します。最後に、不規則な勤務、夜勤のある人は、睡眠時無呼吸症候群があると、事故の発生が高くなります。その理由は、病気がもたらす影響に加えて、不安定な睡眠リズムと睡眠不足が運転中の居眠りを引き起こしやすくするからです。
睡眠時無呼吸症候群はよくある病気です。したがって、人口の高齢化と肥満の増加という背景を考慮すると、事故への影響も大きいので早期発見が必要と考えます。職業ドライバーの場合は、走行距離が多いので特に注意したいですね。
自分が肥満でないこと、あるいは、眠気がないので他人事であると決めつけないことが大切です。筆者の睡眠外来の経験では、睡眠時無呼吸症候群の患者さんが、やせ型の人が少なくない印象です。肥満というよりは、顎の問題がSASの要因として考えられる場合が多いようです。
日常生活における予防策
睡眠時無呼吸症候群による事故リスクを減らすために、日頃から取り入れるべき予防策と睡眠に関する良い生活習慣の心がけを紹介します。
まず基本となるのは、規則正しい睡眠習慣を確立することです。夜遅くまでの飲食やカフェインの摂取を控え、就寝前はリラックスできる環境を整えましょう。また、適度な運動は睡眠の質を向上させる効果があります。その一方で、就寝時刻の直前に激しい運動を避けましょう。体が興奮してしまい、交感神経が優位になってしまうからです。
運転時の安全対策としては、長距離運転を避け、2時間ごとに休憩をとることを勧めます。疲労感を自覚したら、安全な場所で休憩して短い仮眠を含めることが効果的です。運転前に眠気覚ましのためのカフェイン摂取も一時的な対策としては効果がありますが、急場しのぎという側面があります。そのため、長期的な視点からみると、睡眠時無呼吸症候群の治療や生活習慣の見直しが大切です。
車両の運転免許を更新するときに、重度の眠気の症状を示す睡眠障害が認められる場合、運転免許の更新が保留されます。安全運転を継続するためにも、SASの症状に心当たりがある方は、早めに医師の診察を受けることをお勧めします。
職場での安全対策については、特に睡眠時無呼吸症候群を抱える従業員をサポートする環境作りが大切です。特に、運送、旅客に関わるドライバーには、適切な休憩時間の提供、眠気を感じたときの短時間の仮眠スペースの確保などがあげられます。
健康管理の一環として、睡眠時無呼吸症候群のスクリーニング(SAS検診)を行ったり、研修セミナーを定期的に実施したり、病気の早期発見と病気に対する知識を深めることが大切です。最近では、睡眠時無呼吸症候群の簡易検査を行っている病院、クリニックが増えています。
以上のような施策は、車両の事故予防に役立ちます。
睡眠時無呼吸症候群の治療法
睡眠時無呼吸症候群の治療方法は、病状の重症度および原因によって異なりますが、さまざまな治療法の種類があります。適切な対処を決めるために、終夜睡眠ポリグラフ検査のデータが活用されています。
最も一般的な治療手段の一つがCPAP治療(持続的気道陽圧療法)です。これは睡眠中に鼻にマスクを装着して、一定の圧力の空気を送り込むことで、気道が閉塞するのを防ぐ方法です。この治療法は重症の睡眠時無呼吸症候群に効果的で、睡眠の質の改善、日中の眠気の減少、そして事故リスクの低下につながります。
軽症の場合は、マウスピースを検討します。特に下顎が後退している顔立ちの人には良い適応です。マウスピースを装着することで、下顎を前方に誘導します。そうすると、気道を拡がり、睡眠中の換気が改善します。
その他の方法として、外科手術が選択肢となることもあります。鼻あるいは喉の閉塞部位を手術によって物理的に拡大させることで、無呼吸発作を防ぎます。術式の選択は患者の状態によって異なりますが、睡眠時無呼吸症候群の手術は入院を要することが一般的です。
よくある質問と回答
なぜ睡眠時無呼吸症候群は、車の事故を起こしやすいのですか?
睡眠時無呼吸症候群がある人は、過度の日中の眠気や集中力の低下により、車両の事故を起こしやすいとされています。特に運転中の居眠り、とっさの判断力の低下が事故の発生に関わっています。
睡眠時無呼吸症候群の事故率は?
睡眠時無呼吸症候群の患者は、一般の運転者に比べて事故を起こす確率が高く、さまざまな研究によると事故率が2~3倍になること推定されています。
睡眠時無呼吸症候群があると、死亡することはありますか?
病気自体による直接的な死亡は稀です。しかし、治療を受けない場合、高血圧、心疾患、脳卒中などのリスクが高まり、それらが原因での死亡リスクが上昇します。その一方、睡眠時無呼吸症候群がある人で重度な眠気があると、交通事故によって命を落とすこともあり、間接的な死因になる可能性があります。
タクシードライバーは、睡眠時無呼吸症候群になりやすいですか?
タクシーの運転手はシフトワークのことが多く、不規則な勤務時間による食習慣の変化、運動不足によって、肥満になりやすい背景があります。これにより、体重コントロールに注意しないと、睡眠時無呼吸症候群を発症しやすい可能性があります。
運転事故の発生ランキング1位の原因は何ですか?
一般的に交通事故の最も一般的な原因は、注意散漫運転や速度違反、飲酒運転などがあげられます。睡眠時無呼吸症候群があると、走行中の集中力が落ちて事故が発生する危険が高くなります。