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睡眠不足・眠りが浅い悩みを抱える警察官
はじめに

深夜の勤務を終えて帰宅しても、目が冴えてしまって眠れず、日中は立っていられないほどの眠気に襲われていませんか。慢性的な寝不足で疲労感が全く取れず、朝起きても「まったく眠った気がしない」と感じているなら、要注意です。
警察官は24時間体制の勤務に従事することが多く、睡眠リズムが安定しない場合があります。眠いのに寝れない状況や、ボーッとした状態で職務に当たっている経験はありませんか?
もし、これらの症状に心当たりがあるなら、治療が必要とされる睡眠障害を患っている可能性があります。交替制勤務に従事している警察官が抱える不眠と眠気の問題は、単なる疲労ではありません。
睡眠の時間と質、そして、睡眠リズムの問題などの複数の要因が絡み合って、あなたの判断力と健康を脅かしているかもしれません。慢性的な睡眠不足があると、現場での反応速度を低下させ、重大な判断ミスのリスクも高くなってしまいます。そればかりか、十分な睡眠時間をとっていない状況を長期に放置すると、体の不調につながることがあります。
このページでは、警察官が抱えがちな睡眠障害の特徴と対応について詳しく解説します。
警察官の睡眠の実態と課題とは何か

警察官の睡眠に関する問題と事件が、ニュースで報道されることがあります。24時間体制で市民の安全を守る警察官は、一般的な職業とは大きく異なる勤務体系です。そして、職業特有の事情が睡眠に深刻な影響を与えています。具体的には、交代制勤務、長時間労働、緊急出動への対応、事件現場でのストレスなどがあります。
ハーバード大学の研究チームが約5,000人の北米の警察官を対象に実施した大規模調査で、興味深い事実が明らかになりました。調査された警察官の40%近くが何らかの睡眠障害を抱えているにも関わらず、そのほとんどが適切な診断を受けていなかったのです。
具体的な睡眠障害の内訳を見ると、最も多かったのが閉塞性睡眠時無呼吸症候群で33.6%、続いて中等度から重度の不眠症が6.5%、交代勤務睡眠障害:全体で5.4%、夜勤従事者では14.5%という結果でした。
さらに深刻なのは、これらの睡眠障害が警察官の職務に悪影響を与えていることです。勤務中のミスが増加し、運転中や会議中に強い眠気に襲われる警察官の割合が高いことが判明しました。つまり、睡眠障害は警察官の健康面だけではなく、公共の安全上の悪影響のリスクとなっているのです。
他の研究者による警察官の睡眠の質に関するメタ分析によれば、警察官の51%が睡眠の質に問題がある実態が明らかになりました。ピッツバーグ睡眠質問票では、警察官全体の平均スコアが5.6点(95%信頼区間 5.0~6.3)となりました。この数値の解釈として、「睡眠の質が悪い」とされるカットオフを上回っていることを意味しています。
警察官特有の睡眠問題について

警察官が直面する睡眠問題の最大の特徴は、不規則な勤務時間によるの乱れです。日中は活動し、夜間は眠るというヒト本来の体内時計が、夜勤や変則的なシフトによって混乱することで、入眠困難および中途覚醒の問題が生じやすくなります。
特に深夜帯から早朝にかけての勤務後、日中に眠ろうとしても、光や騒音といった外的な要因も関わって、質の良い睡眠を得ることが難しいのです。
また、緊急出動や事件対応といった高いストレスの職務も、警察官の睡眠に大きく影響します。アドレナリンが出る緊張状態から切り替えて休息モードに入ることの難しさから、精神的な高揚状態が続き、眠いのに寝れないケースも少なくありません。
さらに、夜勤や交代制勤務を長期間続けることで「体内時計の乱れによる睡眠障害」が発症します。専門用語では、睡眠覚醒リズム障害と呼ばれています。これは単なる一時的な不眠とは異なり、睡眠薬などでは改善が難しい、警察官の職業病とも言える問題です。
警察官に多い睡眠の悩みとは
1. 夜勤・24時間勤務明けの入眠困難
深夜パトロールや事件対応を終えて帰宅しても、体内のアドレナリンが収まらず眠りにつけない職種特有の症状があります。署内においても、一般の夜勤とは異なり、緊急出動や事件現場での緊張状態が長時間続くと、脳の興奮状態がなかなか収まりません。
朝の通勤ラッシュの騒音と明るい日光の中で無理やり眠ろうとしても、2〜3時間の細切れ睡眠しか取れず、眠りが浅いと自覚するケースがあります。その結果、次の勤務で判断力が落ちてしまうという悪循環に陥る事例もあります。
2. 職務質問・取り調べ中の制御不能な眠気
市民の安全に関わる重要な場面にあっても、我慢できないくらいの眠気に襲われる。これは、警察官の職務遂行の妨げになります。
長時間の取り調べや事情聴取中、容疑者を前にしても意識が朦朧とし、重要な供述を聞き逃すリスクが高くなります。特に、明け方になると、疲れが蓄積しているので注意力も落ちてしまいます。
国内では、警察署の取調室で警察官が居眠りし、覚醒剤取締法違反の容疑者が腰縄をほどいて逃走する事件が報告されています。
出典:警官居眠り、覚醒剤所持容疑の男が一時逃走…川崎署 – 読売新聞
睡眠が安定していないと、パトカー運転中のウトウト、職務質問で相手の不審な動きにすぐに反応できない状況も現れやすくなります。コーヒーや短時間仮眠では覚醒を保てることが難しい経験はありませんか。
例えば、15分から30分ほどの時間でも、その人が必要としている睡眠時間がとれていない状況が続くと、睡眠負債という目に見えない睡眠時間の借金が蓄積していきます。睡眠負債は、疲労感だけではなく、眠気、集中力の低下が現れます。
女性の警察官にとって、日頃の睡眠不足に加えて生理周期による眠気が重なる時期は、体調管理がより大変になります。
3. 宿直室でのいびき・呼吸停止の問題
仮眠のときの睡眠のトラブルを経験した人もいるかもしれません。警察署の宿直室で、同僚から「うるさくて眠れない」と苦情を言われるほどの大きないびきや、睡眠中の呼吸停止を指摘されたことはありませんか。
交代制勤務による不規則な食生活、早食い・高カロリーの食事などの習慣があると、肥満を招きます。その結果、上気道が狭くなるので、いびきが発生しやすくなります。
自分の大きないびきの音で同僚に迷惑をかけてしまい、申し訳ない気持ちになることがあります。実際に、いびきの音が同僚の不眠を引き起こす事例は少なくありません。
場合によっては、宿直室での睡眠環境をめぐって同僚との関係に影響が出てしまうこともあるでしょう。つまり、いびき問題は、本人の健康面だけではなく同僚の睡眠を守るためにも、対策を立てる必要があります。
いびきは単なる音の問題ではなく、実は睡眠時無呼吸症候群という病気のサインかもしれません。この病気は気づかないうちに進行し、集中力や判断力の低下を引き起こすだけでなく、高血圧や心疾患などの深刻な健康問題につながるリスクがあります。
4. 24時間勤務後も回復しない疲労感
普通の「疲れた」とは異なる、重くてどんよりとした疲労感が続くことがあります。事件現場で目にしたショッキングな光景、被害者のご家族に向き合う精神的な負担、犯人を逮捕する時の強い緊張感。こうした業務に関連したストレスが重なり合って、一晩ぐっすり眠っても疲れがなかなか取れない状態になってしまいます。
せっかくの休日なのに「体が鉛のように重くて動けない」「家族と過ごしていても楽しめない」と感じる人もいます。また、同僚も同じ状況で仕事をしているので、「これくらいの疲れは普通」と感じてしまい、本当は深刻な状態なのに気づかない警察官の方もいる可能性があります。
都市部の警察官を対象とした論文によれば、夜勤警察官の69%、夕方勤務の60%、日勤でも44%が睡眠の質に問題を抱えていることが判明しました。特に夜勤では10人中7人が睡眠に悩んでいる計算になります。
5. 緊張感による中途覚醒
眠っている間も「いつでも出動できるように」と体が警戒モードのままになってしまい、どうしても浅い眠りしかできなくなる症状です。これは当直のある医師や看護師の方にもみられる、責任感の強い職業ならではの体の反応とも言えます。
やっと眠りについても、遠くから聞こえるサイレンの音やスマホの着信音で目がパッと覚めてしまい、その後なかなか眠れずに30分以上ベッドの中でモヤモヤすることもあります。
特に大きな事件を担当しているときや、裁判で証言する予定があるときは強いストレスがかかります。事件の場面が頭に浮かんできて、夜中に何度も目が覚めてしまいます。中には、悪夢を見ることもあります。休みの日でさえ「何かあったら駆けつけなくては」という気持ちが抜けないという刑事さんの事例を経験したことがあります。
これまでに紹介した眠りに関わるトラブルが2つ以上当てはまり、3ヶ月以上継続している場合、単なる「仕事の疲れ」ではなく、治療が必要な睡眠障害の可能性が高いと考えられます。
睡眠時無呼吸症候群のリスク
警察官の間で見過ごされがちな健康リスクとして、睡眠時無呼吸症候群の問題があります。
愛媛大学の研究チームが1,193人の警察官を対象に実施した調査で、中等度以上の睡眠時無呼吸症候群の罹患率が約20%、肥満率が過半数に達することが判明しました。年齢や肥満度が高くなると重症度が増し、睡眠障害との関連が確認されました。この結果は、警察官の肥満と睡眠障害が深刻な健康問題であることを意味しています。
出典:警察官における睡眠呼吸障害の実態と客観的指標を用いた注意力に関する疫学研究 – KAKEN 23659330 研究成果報告書
深夜勤務による代謝の乱れや、不規則な時間帯での食事摂取、忙しいときのコンビニ食といった食生活の問題が、体重管理の難しさに関与している可能性があります。
肥満傾向がいびきや睡眠時無呼吸症候群のリスクを高めますが、多くの場合、本人は自覚症状がないまま進行します。日中の過度の眠気や集中力低下を単なる疲れと思い込み、健康に影響している警告サインを見逃してしまうことが少なくありません。放置すれば高血圧、心筋梗塞や脳卒中といった生命に関わる合併症のリスクが高くなります。
夜勤のある警察官が睡眠時無呼吸症候群も併発している場合、睡眠の質が著しく悪化し、脳の覚醒反応が異常に増加することが研究で判明しました。
「疲れが取れない、眠気がなくならない」という症状は、治療が必要な病気のサインであることを理解しましょう。夜勤による睡眠の問題に加えて、いびき、無呼吸発作がある場合は、睡眠時無呼吸症候群の評価を受けるべきです。
睡眠不足が警察官のパフォーマンスに与える影響
慢性的な睡眠不足は、警察官の職務遂行能力に直接的な影響を及ぼします。十分な睡眠が確保できていない状態では、判断力や集中力が著しく低下し、現場での迅速かつ適切な意思決定が困難になります。
睡眠不足に関する研究によれば、17時間、覚醒したままの状態を続けると血中アルコール濃度0.05%に相当する認知機能の低下を引き起こします。これは、警察官の業務においては致命的な判断ミスにつながりかねないことを意味します。
出典:National Institute of Justice, “Impact of Sleep Deprivation on Police Performance,”January 5, 2009
ある調査結果によれば、勤務中に事故や怪我をした警察官8人のうち4人が、疲労によって判断力や反応力が低下していたことが報告されています。
特に緊急時の初動の遅れは、警察官自身や市民の安全を脅かす要因になります。睡眠不足によって仕事のスピードに悪影響を及ぼすことは、事故や重大事案につながる可能性があります。実際に、米国において、公務中に警察官がパトカーで追跡しているときに、疲労、眠気によって交通事故で死亡するケースがあります。
一般的に、寝不足が長く続くと慢性疲労による免疫機能の低下を招き、感染症にかかりやすくなるだけでなく、うつ病や不安障害などの精神疾患のリスクも高くなります。また心臓病や高血圧、糖尿病といった生活習慣病の発症率も上昇します。
つまり、慢性的な睡眠不足は「ちょっと疲れているだけ」の問題ではありません。警察官として長く健康に働き続けるためには、睡眠をしっかり取ることが大切な健康管理の一つと言えます。
警察官のための快眠ヒント

交代制勤務に従事している警察官の皆さんは、不規則な勤務やストレスで睡眠に悩むことが多いかと思います。良い睡眠は心身の健康、そして公務中のパフォーマンスを維持するのに不可欠です。
質の良い睡眠のために、まずは寝室環境を整えましょう。 自宅の部屋を暗く静かに保ち、快適な温度に設定してください。寝る前のスマホやパソコンの使用は避け、リラックスできる読書や音楽鑑賞に切り替えるのがおすすめです。最近では、YouTube、spotifyなどのメディアが提供する睡眠BGMを無料で聴くこともできます。
睡眠の質を悪化させる作用のあるカフェインや中途覚醒の原因になるアルコールの摂取は控えめにし、軽いストレッチなど、心身を落ち着かせる習慣を取り入れてみてください。
上記のような工夫をしても睡眠が改善しない、日中の眠気がひどい、集中できないなどの症状がある場合は、睡眠専門医に相談することをお勧めします。 睡眠時無呼吸症候群など、背景に病気が隠れている可能性もあります。一人で眠りの問題を抱え込まず、医療機関にあなたの悩みを聞いてもらうと良いでしょう。