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いびき・無呼吸と狭心症・心筋梗塞の発症
胸が苦しい?睡眠時無呼吸が関係するか?
あなたが夜中に目覚めるときに、胸の痛み、息苦しさを感じたことはありませんか。もしかしたら、それらの症状は、狭心症や睡眠時無呼吸症候群が関わっていることもあります。病状が重いときは、心筋梗塞が発症している深刻なサインかもしれません。もちろん、胸が苦しい理由は心臓だけではなく、詳しい検査が必要になります。
今回のブログ記事では、心臓の病気の中で胸の違和感をもたらす病気である狭心症・心筋梗塞と睡眠時無呼吸症候群の関係について迫ります。
狭心症とはどんな病気か?
狭心症は、心臓の周りにある冠動脈への血流が不足して起こる症状で、特に胸痛および胸部圧迫感が現れます。これは心臓が必要とする酸素が十分に届かないときに生じます。
冠動脈の血液の流れが不足する主な理由は、冠動脈の動脈硬化による狭窄です。ただし、冠動脈の攣縮が関与するという異型狭心症というタイプもあります。ストレスや体の動きによって心臓がより多くの酸素を必要とした際に、狭くなった血管では血流が不足するので、胸痛を引き起こします。
狭心症は、ストレスや運動時に胸部の症状が現れ、休息や薬で症状が軽くなります。一方、突然、休息中でも胸の痛みが生じたり、発作の回数が増えたり、より病状が重いタイプは不安定狭心症と呼ばれています。この場合は、心筋梗塞に近い状況と言えるでしょう。
出典:狭心症・心筋梗塞などの心臓病(虚血性心疾患) – eヘルスネット
狭心症と心筋梗塞の違い
狭心症と心筋梗塞はともに、冠動脈の動脈硬化が関係している心臓病です。いずれも心臓に酸素と栄養を供給している血管が障害されて、発症します。総称して、虚血性心疾患とも呼ばれています。
狭心症は心臓への血流が一時的に減少する病態で、通常は、発作が起きると、胸が痛い、胸が締め付けられる感じがします。こららの胸の症状は、労作時に発生して、安静にしていると症状が楽になります。狭心症は、心臓への血流が狭窄した冠動脈を通じて不十分になるため発生しますが、この状態では心臓の筋肉へのダメージは一時的なものとなっています。
一方、心筋梗塞は、冠動脈の一部が完全に塞がれることにより、閉塞した冠動脈が支配している心筋の領域が時間の経過とともに、壊死していきます。心筋梗塞になると、心臓が痛いと感じるだけでなく、息切れ、吐き気、冷や汗など、他の症状も現れます。そして、心室頻拍、心室細動、完全房室ブロックなどの危険な不整脈および急性心不全を併発することもあります。緊急性の高い心臓病であり、一刻も早く治療をしなければなりません。
出典:Coronary Artery Disease – Cleveland Clinic
胸の違和感については、狭心症・心筋梗塞のほか、不整脈が関係していることもあります。病気の症状は必ずしも典型的ではないこともあり、自分の症状をうまく表現できない場合もあります。気になる症状があれば、かかりつけ医に相談して、検査を受けることを勧めます。
睡眠時無呼吸症候群とは何か?
睡眠時無呼吸症候群は、夜、眠っている間に繰り返し呼吸が止まる病態です。気道の一部が閉塞することによる閉塞型と脳の呼吸中枢が障害されて発症する中枢型の二つのタイプがあります。
狭心症および心筋梗塞と関係が深いタイプは、閉塞型睡眠時無呼吸症候群です。睡眠が何度も分断されるので、眠りの質が低下します。その結果、日中の眠気、集中力の低下が現れます。この病気があると、高血圧、心臓病の発症リスクが高くなることが分かっています。
大きないびき、呼吸が止まることが、パートナーに指摘されて、この病気に気付くことが多いです。
なぜ睡眠時無呼吸が狭心症・心筋梗塞を発症を高めるのか?
睡眠時無呼吸症候群が虚血性心疾患を引き起こす要因は、いくつかあります。
睡眠中に繰り返し呼吸が停止することで、体内の酸素レベルが低下します。そして、心筋に必要な酸素供給が不足することで、心臓病のリスクが高くなります。
夜間の頻回の無呼吸発作と低酸素血症が生じると、自律神経の調節が乱れます。特に、血圧および脈拍の上昇を引き起こす交感神経が亢進します。その結果、高血圧を引き起こし、冠動脈の動脈硬化を助長させてしまいます。さらに、夜間の不安定な睡眠と酸素不足が長期に続くこととで、血管の内皮細胞の働きが低下したり、全身の炎症反応が高くなったり、冠動脈の閉塞が起きやすい病態になります。
その他の要因として、インスリン抵抗性が高くなることも知られており、心臓病が発症しやすくなる理由の一つになります。
ヨーロッパで行われた医学研究によれば、閉塞性睡眠時無呼吸症候群を持った人で治療を効果的に受けたグループは治療が不十分であったグループよりも、冠動脈疾患の発症頻度が少なかったという結果が報告されています。この研究成果からは、睡眠時無呼吸症候群がある人は、適切に治療されなければ、狭心症あるいは心筋梗塞などの虚血性心疾患を発症するリスクが高いことが高いということが分かります。
筆者の外来での経験では、睡眠時無呼吸の人を診察すると、すでに高血圧、糖尿病、高尿酸血症などの生活習慣病が併発している場合が少なくありません。国内の研究報告からも、睡眠時無呼吸のある人ではメタボリックシンドロームの合併が多いことが分かっており、心臓の病気があるときは、睡眠時無呼吸が隠れていないか調べることが大切です。
自分の睡眠について、いびき、無呼吸がないかベッドパートナーに聞いてみることは睡眠時無呼吸症候群を発見する手がかりになります。そして、早期に治療を受けることで、心臓病を予防することにつながります。
診断の方法
狭心症と心筋梗塞、および睡眠時無呼吸症候群の診断には、それぞれ特有の検査が用いられます。
狭心症と心筋梗塞の診断には、まず心電図が一般的に用いられます。この検査によって、心臓の電気活動が記録され、不整脈や心臓の虚血の兆候が検出されます。安定型の狭心症には、運動負荷の心電図を行うこともあります。心筋の損傷の程度によって、特定の酵素が放出されるので、血液検査によって調べることができます。心筋の動き、弁膜症の程度をみるためには、心臓超音波検査が施行されます。
確定診断をするためには、冠動脈造影検査を行って、冠動脈の狭窄や閉塞部位の特定と程度を評価します。特に、心筋梗塞、不安定狭心症が疑われるときは、緊急のカテーテル検査が行われます。
睡眠時無呼吸症候群を診断するためには、患者本人や家族からの睡眠時のいびきや呼吸停止、昼間の過度の眠気に関する聞き取り、そして、詳細な診断のために終夜睡眠ポリグラフ検査が行われます。通常、病院に宿泊して検査を受けることが多いですが、自宅で行う簡易検査キットもあります。しかし、検査の精度、閉塞型と中枢型の鑑別を行うためには、終夜睡眠ポリグラフ検査のほうが有利と言えます。
これらの診断方法により、狭心症と心筋梗塞の存在および重症度、睡眠時無呼吸症候群の有無と重度を正確に判定することが可能となります。どちらかというと、前者のような心臓の検査は緊急性を要することが多く、後者のような睡眠時無呼吸症候群の評価は、病状が落ち着いてから行われることが多いです。
治療管理について
狭心症と睡眠時無呼吸症候群は、互いに影響を及ぼす関係であることを知っておきましょう。治療には両方の状態を考慮したアプローチが必要です。
狭心症・心筋梗塞の治療には、心臓の負担を軽減する薬物を使ったり、併発する生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症、高尿酸血症など)を治療をしたり、狭窄した冠動脈の血管を拡げるための対処法を進めます。また、虚血性心疾患の根本的な治療として、カテーテルによる手術も検討されることがあります。
一方、睡眠時無呼吸症候群に対しては、CPAP治療(持続陽圧呼吸療法)が、効果的です。特に、中等症から重症の閉塞型睡眠時無呼吸が見つかった場合は、治療をすることで狭心症および心筋梗塞、突然死の発症リスクを抑えることができます。
軽症の場合には、口腔内装置による治療を考えます。特に、下顎が小さい、あるいは後退している場合には、良い適応となります。この治療法は、歯科との連携で行われます。
睡眠時無呼吸症候群を治療することで、血圧と血糖のコントロールが改善される効果があります。もちろん、心臓の病気と睡眠時無呼吸に共通して大事なこととして、肥満に対する減量指導があります。