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睡眠時無呼吸症候群でトラック・バスの運転禁止?
職業ドライバーが睡眠時無呼吸なら運転できない?
長距離を運転し、日々の業務に従事している職業ドライバーの皆さんにとって、睡眠は体を回復させるために大切なものです。しかし、夜間の不安定な睡眠や寝不足があると、日中の抑えがたい眠気が現れます。その結果、運転中の集中力低下および注意散漫など、仕事に悪影響を及ぼします。これは、長時間運転や夜間運転が求められる運転業務において、重大な事故のリスクをもたらします。
睡眠の病気の中で、睡眠時無呼吸症候群は、睡眠の質を大きく低下させ、日中の過度の眠気を引き起こす特徴をもっています。そのため、この病気を抱えるドライバーの方々は、健康状態が運転業務の続行に影響を及ぼすこと、そして、それが就業制限につながるかもしれないという疑念を持っています。
ドライバーの中には、睡眠時無呼吸症候群が発症していることに気付かずに仕事を続けている場合が少なくありません。もし、会社の指示によって、自分が乗車できない状況になったら、「仕事を辞めなければならないのか?」という解雇の不安もあるかもしれません。
今回のブログ記事では、睡眠時無呼吸症候群という病気が及ぼす運転への影響、病気の診断と治療方法など、職業ドライバーが知っておきたい情報を紹介します。そして、あなたの悩みに答え、安全で健康的な運転生活への道筋を示します。
睡眠時無呼吸症候群が運転に与える影響
睡眠時無呼吸症候群があると、夜間の断続的な呼吸停止が起きて、眠りが浅くなります。この結果、日中の強い眠気や集中力の低下が生じます。このことは、運転手にとって、深刻なリスクをもたらします。
車両の走行中に生じる眠気は、反応速度の遅れ、注意散漫、判断力の低下を引き起こします。このことは、交通事故のリスクを著しく高めます。仕事の上で、長時間、単調な道路を運転したり、夜間帯に走行したりすると、さらにリスクが高くなります。
マイクロスリープも発生しやすくなります。数秒間意識が途切れる現象を意味しており、微小睡眠と呼ばれています。運転中に無意識のうちに瞬間的に眠ってしまうと、とても危険です。
国内では、大型トレーラー、トラック、バスなどの事故が、睡眠時無呼吸症候群と関連があると判断された事例が数多く報告されています。
出典:居眠り運転が増加!? – 睡眠時無呼吸なおそう.com
海外で行われた研究によれば、睡眠時無呼吸症候群を持つ運転手は、自動車事故を起こすリスクが約2.5倍に上昇する と報告されています。
以上のことから、睡眠時無呼吸症候群が運転リスク及ぼす影響は軽視できないので、早期の発見と治療が必要です。
睡眠時無呼吸症候群と運転業務に関する法的な規制
職業ドライバーが病気によって、運転を継続できなくなった事故が起きたときは、「自動車事故報告書等の取扱要領」に従って、30日以内に所轄の運輸支局長に報告書を提出しなければなりません。
令和4年3月に、その取扱要領の一部改正がありました。SASに関連した部分を解説すると、睡眠時無呼吸症候群が疑われる居眠り運転、漫然運転を伴う事故の場合に病名の報告が求められるという概要です。
ところで、睡眠時無呼吸症候群の疑いとは、どのような解釈なのでしょうか。
具体的には、過去に睡眠時無呼吸症候群と診断されたことがあり、治癒していないもの、あるいは、「自動車運送事業者における睡眠時無呼吸症候群対策マニュアル」(平成27年8月国土交通省 自動車局)に記されているSASの症状があるものという当局の見解が公表されています。
もしも、あなたが下記の事項に該当すれば、自動車の事故が発生したときに「睡眠時無呼吸症候群が推定原因である」ことを、事業者は調査書に記載しなければらないのです。
具体的なチェックリストを示します。一つでも合致するものがあれば、対象になります。
- 大きないびき
- 眠っているときに苦しそうな呼吸がある
- 睡眠中の無呼吸がある
- 起床時に頭痛または頭重感がある
- 昼間に強い眠気を感じる
- 起床時に頭痛または頭重感がある
- SASと診断されたが治っていない
運転業務に従事する人々の自動車事故の一因として、睡眠時無呼吸症候群の影響が指摘されています。
政府が事業者や運転者に対して、しっかりとしたSASの診断と治療を受けるよう勧告していると読み取れます。筆者は、運輸に関わっている産業事故を未然に防ぎ、働く人の病気の予防を強化することが狙いであると推測しています。
どんな業界の団体に向けて通達が出されているのでしょうか?
バス、タクシー、ハイヤー、自家用自動車、霊柩自動車、レンタカー、自動車整備事業などです。
出典:自動車事故報告書等の取扱要領」の一部改正について – 国自安第181号、国自整第296号
運転免許の拒否または停止になる病気として、睡眠関係の疾患は含まれていますか?
重度の眠気を呈する睡眠障害が、内閣の政令によって定められています。
具体的には、日常生活に支障をきたすような眠気を引き起こす睡眠障害として、どのような病名がありますか?
睡眠時無呼吸症候群、特発性過眠症、ナルコレプシーです。
職業ドライバーが日中の眠気と集中力の低下を引き起こす睡眠障害を把握しながら、運転免許の申請または更新のときに告知しないとどうなりますか?
申請書に虚偽の記載があると、1年以下の懲役の処せられたり、30万円以下の罰金を命じられたり、処罰されます。公安委員会の判断によっては、車両の安全な運転適性に及ぼす病気があり、未治療の状況が続くと、運転免許の取り消しまたは停止になります。
自分には未治療の睡眠時無呼吸症候群があることを理解した上で、重度の眠気があり、運転事故を起こすとどんな法的な処罰がありますか?
人を負傷させると12年以下の懲役に、人を死亡させた場合は15年以下の懲役に処せられます。
出典:自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律 – eGoV
運転業務の就労制限について
睡眠時無呼吸症候群が引き起こす眠気が放置されまま運転を続けると、事故リスクを高めます。ブレーキの反応速度が遅れたり、短期間の睡魔に襲われたりすることで適切なハンドル操作ができなったり、一瞬の判断ミスが重大な事故につながります。
職業ドライバーがこのような状態で運転業務に従事することは、自身の安全だけでなく他の道路利用者にも重大なリスクをもたらします。また、事業者にとっては産業事故の発生リスクが高まることが懸念されます。
上記のような背景があることから、事業者は産業医の意見を聞きながら、病状に応じてドライバーに対して睡眠時無呼吸症候群の治療を促したり、治療が完了するまでの乗務停止を指示します。眠気を持ったドライバーによる産業事故を未然に防ぐことが目的です。
一般的には、運送業、旅客業において、睡眠時無呼吸症候群の診断を受けた運転手には就労制限が課せられることが多いです。そして、運転業務に従事する前に、医師による適切な診断と治療が求められます。症状が改善されていることが証明されなければ、運転業務を行うことができません。
職場の産業医が、睡眠時無呼吸症候群の診療を担当する医師(睡眠専門医)と連携して、事業者に伝えます。最終的には、事業者が就業の管理について決定を下します。
具体例を紹介すると、SASのスクリーニング検査あるいは終夜睡眠ポリグラフ検査の結果をもとに就業制限をしたり、睡眠時無呼吸症候群に対する治療状況を解除の判定基準にしたり、会社によって管理基準が設けられています。
出典:横山和仁 他; 厚生労働省労災疾病臨床研究事業費補助金報告書 「主治医と産業医の連携に関する有効な手法の提案に関する研究」 平成27年度総括・分担研究報告書,2016.
雇用主による職員の運転業務への対応
事業者は、運転の仕事を従事させる職員に対して、睡眠時無呼吸症候群のスクリーニング検査をしたり、専門医療機関への受診と治療を促したり、安全に運転できる状態になるために管理しなければなりません。
病状と治療経過によって、乗務スケジュールの調整、運転時間の制限あるいは乗務停止などを指示しています。
定期的なSAS検診を行うことは、病気の早期発見に役立ちます。なぜなら、睡眠時無呼吸症候群によって、人は必ずしも眠気を感じることがないからです。そして、運転に支障をきたす疲労感や倦怠感が続く要因を見つけられるからです。
全国のトラック運転者5000人程度を対象として、「SAS スクリーニング検査と自覚的な眠気の問診票」を実施した疫学研究があります。その研究報告によれば、重症の睡眠時無呼吸症候群であるのに、自覚的な眠気は正常範囲と判定された人の割合が76%にも上っていました。
出典:三好規子 他; 職域における睡眠時無呼吸症候群(SAS)の早期発見・早期治療の意義, 日本職業・災害医学会会誌;66(1):1-10,2018
睡眠時無呼吸症候群があっても自覚的な眠気が高くないため、過信して事故を繰り返す事例もあります。したがって、事業者と従業員が正しい病気の知識を共有することが大切です。そのためには、職業ドライバーのSAS検査と治療の必要性について、開かれたコミュニケーション、継続的な教育、そして相互の協力が不可欠と言えるでしょう。
出典:富田康弘 他; 睡眠時無呼吸症候群と交通事故, 日本内科学会雑誌;109(6):1095-1100,2020
運転業務の就労制限:現場復帰への道筋
睡眠時無呼吸症候群の診断と治療を受けた後、運転業務への復帰の判定は慎重に行われています。
職場の管理基準によって異なるので、筆者が関わった事例を交えて紹介します。具体的には、終夜睡眠ポリグラフ検査を受けてもらい、睡眠時無呼吸症候群の重症度を判定します。もちろん、本人の主観的な眠気の程度についても評価します。
その後、CPAP治療あるいはマウスピースによる治療介入をします。そして、治療が効果的であったことを証明するために、医師が診断書を交付します。睡眠時無呼吸症候群の重症度の指標である無呼吸低呼吸指数(AHI)が概ね5未満であること、および主観的な眠気がないことを確認します。医師の診断書をもとに、職場内で産業医の意見書が作成され、事業者が就労制限の解除を判断します。
再就労後も、運転手は継続的な健康管理と定期的な診察の重要性を理解し、実践する必要があります。職場と医療施設において、CPAP装置の使用状況のモニタリングをしていきます。
安全運転管理者による指導を受けることも大切です。さらに、肥満、アルコール摂取が睡眠時無呼吸症候群の要因に関わっている場合は、保健師によって生活習慣の改善と減量の指導などが行われます。
出典:白濱 龍太郎 他; 閉塞性睡眠時無呼吸とこれからの在宅陽圧呼吸療法 ~アドヒアランスと患者意識~, 行動医学研究;23(2):63-69,2018
運転業務再開の許可が出された後も、職場によっては、毎月のCPAP治療のコンプライアンスに関するデータの提出を義務付けている場合もあります。その一方、終夜睡眠ポリグラフ検査によるCPAP治療あるいはマウスピースの治療効果の証明を書面で提出させる場合もあります。
より厳格な運転適性を要求される職種もあります。その場合は、覚醒維持能力を客観的に評価するために、覚醒維持検査を受けるよう指示があります。