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簡易検査キットによるSASの調べ方が分かる
自宅で手軽に睡眠時無呼吸を調べる方法とは
夜中に何度も目が覚める、日中の異常な疲れ、そして家族から指摘される大きないびき。これらの症状は単なる睡眠不足のサインではなく、睡眠時無呼吸症候群(SAS)が原因である可能性があります。
SASが疑われたときに、精密検査が病状を正確に判定できる方法であることは分かっています。しかし、まずは簡単にチェックしていみたいと思う人も多いでしょう。特に、職場での社員の健康管理を目的として、睡眠時無呼吸症候群の簡易検査キットを探す人もいます。
今回のブログ記事では、自宅で簡単に行える閉塞性睡眠時無呼吸症候群の簡易検査に焦点を当てます。この簡易検査を活用することで、あなた自身や大切な人の健康を守る第一歩になる可能性があります。SASの早期発見につながり、適切な治療へと進むことができれば良いですね。
なぜ睡眠時無呼吸症候群の簡易検査が行われるのか?
簡易検査は、閉塞型睡眠時無呼吸の早期発見と治療を促進し、病気の予防と生活の質を大幅に向上させることを目的として導入されています。この検査は、国内の病院やクリニック、健康診断を行う企業で広く実施されています。SAS検診という通称がありますが、企業検診の一つと言えます。
正確な診断には、終夜睡眠ポリグラフ検査が必要です。この評価方法はPSG検査とも呼ばれていますが、睡眠検査を受けるために病院への入院が必要になります。
仕事が忙しく入院できない、あるいは近くに終夜睡眠ポリグラフ検査を行っている病院がないという理由で精査を受けられない人も多いです。一方、大規模な企業では社員全員に精密検査を受けさせるのはコスト面でも課題があります。
これらの課題を解決するため、必要最低限のセンサーを用いた簡易検査キットが開発されました。これにより、旅客・運送業界など、さまざまな分野で簡易検査が定期的に利用されています。さらに、クリニックの外来においても、睡眠時無呼吸症候群の診断を行うために活用されています。
簡易検査とは何か?
簡易検査とは、睡眠時無呼吸症候群の診断を目的として、自宅で実施できる測定方法です。眠れているときの呼吸パターンを判定し、無呼吸および低呼吸の回数と長さを計測します。同時に、血中酸素レベルと心拍数の変化も記録することができます。
簡易検査キットには通常、鼻腔通気センサー、指先に装着するパルスオキシメーター、胸部の動きを感知するセンサーなどが含まれています。これらのセンサーを用いて、自宅での睡眠中の呼吸状態を計測します。記録されたデータは、後日、医師あるいは臨床検査技師が解析します。
検査結果は、睡眠時の無呼吸の頻度やその重症度、夜間の低酸素状態の程度に関する情報を与えてくれます。それらのデータをもとに、精密検査あるいは治療の方法が提案されます。
簡易検査は、その手軽さと低コストからSAS検診として受け入れられています。大規模なスクリーニング検査や中等度以上の睡眠時無呼吸症候群の診断に役立ちます。
出典:高崎 雄司 他; 睡眠時無呼吸症候群の診断における携帯用終夜睡眠呼吸グラフの臨床評価, 日呼吸会誌;42(9):794-802,2004
簡易モニターは、どんなメーカーの種類がありますが?
国内では、帝人、フィリップス、フクダ電子などが検査機器を供給しています。最寄りのクリニック、SAS検診施設で借り受けて検査を受けることが多いです。
簡易検査のメリットは?
入院せずに自宅で睡眠時無呼吸症候群の評価を受けられることです。専門医療施設から遠い場所に住んでいる人は、病院へのアクセスの心配が不要です。そして、精密検査よりも料金が安いことがあげられます。自分の家で検査を受けるので、プライバシーが守られるという心理的な安心感もあります。
簡易検査のデメリットは何ですか?
精密検査と比較するとセンサーが省いてあるので、睡眠の正確な判定ができないことです。その理由として、睡眠の状態を調べられる脳波が含まれていないことがあげられます。そのため、結果の解釈で悩む事例も問題となっています。ただし、その特性を理解した上では、典型的な睡眠時無呼吸症候群(中等症から重症)の診断には活用することができます。それに対して、他の睡眠障害の併発が疑われるときは、脳波が含まれている精密検査が必要になります。
出典:藤田幸男 他; 睡眠時無呼吸症候群の診断, 日本内科学会雑誌;109(6):1066-1072,2020
まとめると、簡易検査は精密検査と比べると手軽に実施できる利点がある一方で、いくつかのセンサーが省略されているので、睡眠の状態が評価できない欠点があります。そのため、睡眠時無呼吸症候群の診断とその後の治療方針を決定するときは、簡易モニターのメリットとデメリットを十分に理解しておきましょう。
検査のやり方について
簡易検査キットとして、主に使用されるのは「鼻腔通気センサー」と「指先パルスオキシメーター」の組み合わせです。
具体的なやり方を説明すると、あなたが寝るときに、鼻の下に呼吸センサーを装着し、指には酸素を計測するためのプローブを取り付けます。そして、翌朝になったらセンサーを取り外します。その後、医療施設でデータが解析されます。
鼻腔通気センサーは、鼻からの空気の流れを感知して、呼吸が一時的に止まっているかどうかを記録しています。一方、手の指先に装着されたパルスオキシメーターは血中の酸素レベルを測定しています。もし、無呼吸あるいは低呼吸が出現すると、呼吸センサーによって、異常呼吸の秒数が分かります。同時に、血中の酸素レベルの低下が計測されます。
検査キットは、経皮的動脈血酸素飽和度、気流、いびきの測定が基本ですが、オプションで呼吸努力(腹部)が追加されることもあります。
もっと簡単な検査はありませんか?
最も簡便なタイプの簡易検査は、夜間帯のパルスオキシメーターの連続記録です。酸素のみのデータですが、危険なことが起きているかは分かります。そのため、筆者は精密検査を施行する前に睡眠時無呼吸症候群の重症度を予想するのに活用しています。
出典:パルスオキシメータ知恵袋 基礎編 – KONICA MINOLTA
簡易検査キットのセンサーを指および鼻に装着して、眠れない人はいますか?
たしかに、センサーが気になって寝れないという場合が起こり得ます。けれども、2回の測定があるので、2~3時間の記録がとれていれば、ある程度の傾向が分かります。詳細は、担当医と相談してください。
測定に失敗して、記録がうまくとれていないことはありますか?
眠っている間にセンサーが外れる問題は起こり得ます。結果を解釈するのに支障がある場合は、再検が必要です。
検査結果で算出される数値と指標
簡易検査を受けることで、測定した時間帯での1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数(呼吸障害指数:RDI)を算出することができます。この指標は、睡眠時無呼吸症候群の重症度の目安として治療管理に用いられます。同時に、治療方法を開始するときに、保険適用の条件の一つになっています。呼吸イベント指数(REI)という用語が用いられることもあります。
ところで、精密検査である終夜睡眠ポリグラフ検査では、睡眠の判定が正確にできるので、睡眠時間の1時間あたりの無呼吸と低呼吸の回数(無呼吸低呼吸指数:AHI) が算出されます。
診断基準について
簡易検査では、詳細な睡眠の判定ができないので、RDIをAHIの代用としています。
RDIの数値を用いて正常と異常の区別を行い重症度を評価します。一般的は、RDIが5以上の場合に異常と判定され、数値が大きいほど重症度が高いと解釈します。ただし、精密検査の結果と比較すると精度の面で劣ることを理解しておきましょう。
外来では、RDIが5以上あり、日中の眠気などの自覚症状がある場合、睡眠時無呼吸症候群と診断しています。
結果が分かるのに何日くらいかかりますか?
簡易検査キットが手元に届き、二晩、自宅で自分の睡眠の呼吸状態を計測します。そして、医療施設に検査キットを返却します。その後、解析が行われます。一般的には、1~2週間あれば、検査結果が判明します。
検査データの活用:治療につなげる
簡易検査は睡眠時無呼吸症候群の評価に活用されます。しかし、最終的には、医師が患者さんの臨床症状と検査所見を総合して診断を行います。その上で、患者さんの治療の要望について汲み取り、治療方法を決定していきます。
一般的には、RDIが低い数値を示している睡眠時無呼吸症候群では、マウスピース治療が検討されます。この治療が選択された場合は、医科から歯科へマウスピース作成の依頼がされます。一方、RDI:40以上を有している重度の睡眠時無呼吸症候群に対しては、CPAP治療を考慮します。患者さんのRDIが40未満でCPAP治療を希望されている場合は、終夜睡眠ポリグラフ検査による評価を勧めることがあります。
パルスオキシメーターのみを測定した検査結果で低酸素血症が見られるときは、次のステップとして、終夜睡眠ポリグラフ検査を予定します。
検査費用はいくらですか?
簡易検査にかかる料金は、終夜睡眠ポリグラフィーの携帯用装置を使用した場合の保険点数をもとに計算されます。国が定める診療報酬の基準で算定されているので、どの医療施設においても検査自体の価格の差はありません。
検査自体が720点、そして、脳波検査判断料(180点)が加算されるので、保険点数は900点です。つまり、検査費用は、9,000円になり、3割負担の場合の窓口負担の金額は、2,700円です。
ただし、この金額に、初診料あるいは再診料などが別途発生します。