- ホーム
- アルコールと睡眠薬を一緒に飲むリスク
アルコールと睡眠薬を一緒に飲むリスク
飲酒をした後に睡眠薬を飲んで良いか?
日常生活において、ストレス発散のためにアルコールを飲む機会があります。リラックスさせる効果があるほか、入眠を促す効果もあります。一方、睡眠薬は不眠症で悩んでいる人の治療として使用されています。両者には睡眠を誘う作用がありますが、併用すると身体に悪影響を及ぼすことが知られています。
今回、アルコールと睡眠薬の関係性を解説します。このページの内容を理解することで、飲酒と睡眠導入剤の組み合わせが危険である理由、安全に使用するための知識について、学ぶことができます。
アルコールと睡眠薬の比較
アルコール | 睡眠薬 | |
---|---|---|
目的 | リラックス、ストレス解消 | 不眠症の症状を改善する |
作用機序 | エタノールがGABA受容体の働きを活性化させることで、中枢神経系を抑制する | ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、GABA受容体の親和性を高めて催眠と鎮静を促す。 |
副作用 | 吐き気、頭痛、不整脈、高血圧、肝機能障害、依存症 | 過度の眠気、混乱・もうろう状態、記憶障害、異常行動、依存症 |
睡眠に及ぼす影響 | 初期は入眠を促しますが、アルコールが分解されると、中途覚醒を引き起こします。 | 寝つきを良くしたり、睡眠を維持したり、眠りを安定させることができます。 |
依存性 | 高い | 高い(長期の内服により発症) |
アルコールと睡眠薬の相互作用と危険性
アルコールと睡眠薬は、どちらも脳の神経機能を抑える作用を持っています。そのため、同時に摂取した場合、作用が過剰になるので、体にとって有害です。
相互作用の種類について、以下に示します。
有害事象 | 具体的な内容 |
---|---|
呼吸抑制 | 中枢神経を抑制する働きが過剰になるため、呼吸が浅くなります。最悪の場合、呼吸が止まる危険があります。 |
意識障害 | 意識レベルが低下して、朦朧とします。そのため、状況判断が困難になります。呼びかけに対して、反応しない現象が現れます。 |
混乱 | 神経伝達物質のバランスが乱れることで、混乱状態や幻覚が発生することがあります。夢遊病の症状が現れる危険があります。 |
協調運動障害 | 平衡感覚を保つことができないので、歩行が困難になります。ふらふらして転倒したり、怪我をしたり、事故が起きやすいです。 |
アルコールと睡眠薬の併用は、無意識の状態で外に出たり、車を運転したりするなど、危険な行動を引き起こす可能性があります。つまり、夢遊病などの睡眠時随伴症のリスクが高くなり、事故のリスクが高まります。また、無意識で歩き回って食べる症状も起きやすくなります。誤って食品を飲み込むことによる窒息の危険性が増大します。
出典:Safe use of sleeping pills – healthdirect
飲み会の後に、睡眠薬を飲んで帰宅したところ、無意識の状態で車に乗ってしまい事故を起こしたという症例を経験したことがあります。飲酒後のアルコール摂取の危険性を示唆する事例と言えます。
ベンゾジアゼピン系の睡眠薬とアルコールを組み合わせて摂取すると、オーバードーズのリスクが高くなることが知られています。
アルコールと睡眠導入剤を一緒に摂取すると、それぞれの効果が増強されます。その結果、たとえ適量のアルコールでも過剰摂取になるリスクがあります。特に、飲酒の機会が増えるようになった大学生は、重大な事故が起きないように注意すべきです。
出典:Understanding the Dangers of Alcohol Overdose – College Drinking – Changing the Culture
アルコールに睡眠薬を混ぜると、色が出ることを聞いたのですが、その理由は何でしょうか?
アルコール飲料に睡眠薬を入れると、薬が溶けます。その場合、飲み物が着色されるかどうかは、睡眠薬の種類によって異なります。ハルシオンおよびサイレースには青色の色素が含まれているので、アルコール飲料の色が青色に変わります。お酒にアルコールを混ぜて飲ませるという犯罪を防止するために、考案された仕組みと言えます。危険な行為であるので、絶対に行ってはいけません。
超短時間型の非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(マイスリー、ルネスタ、アモバンなど)およびベンゾジアゼピン系睡眠薬のハルシオンには、服用後の記憶が飛んでしまう副作用が知られています。これらの睡眠薬とアルコールを併用すると、一過性の健忘が起きやすくなるので、止めてください。
出典:北村正樹 他; ベンゾジアゼピン系睡眠薬の主な副作用および薬物相互作用, 耳鼻咽喉科展望;41(6):631-634
睡眠障害の発症が多くなる
睡眠薬の種類の中で、ベンゾジアゼピン系の薬剤は、筋弛緩作用があります。一方、アルコールにも同様の作用があります。アルコールと睡眠薬を同時に摂取すると、上気道の筋肉が緩み舌根が沈下しやすくなります。その結果、睡眠時無呼吸症候群が発症するリスクが高くなります。
睡眠導入剤とアルコールを同時に摂取することで、無呼吸発作の時間が長くなります。その結果、低酸素血症が重篤になるので、大変危険な状態となります。
アルコールと睡眠薬は、中枢神経系の睡眠と覚醒を調節している部分に影響を及ぼします。そのため、眠りを浅くしたり、異常行動を引き起こしたり、睡眠の質を低下させる原因となります。
これらの影響によって、具体的な睡眠障害、例えば、不眠症やレム睡眠行動障害などが引き起こされます。
睡眠外来で患者から、話を伺う機会があります。アルコールと睡眠薬を一緒に摂取するようになった人から、以下のような訴えを聞くことがあります。
- いびきをかく
- 呼吸が止まることがある
- 寝言が多くなった
- 寝ているときに怒鳴る
- 眠りが浅い
- 途中で目が覚めて、再び眠れない
これらの症状は、睡眠障害のサインと言えます。眠れないという悩みがあるときは、飲酒に頼らずに睡眠専門医に相談することを勧めます。実際に眠れない人を診察を行った印象では、不眠が解消されないと飲酒量が増えていく傾向があります。
市販の睡眠薬とアルコールを一緒に飲むと、どうなりますか?
ドラッグストアなどで販売されている睡眠改善薬には、ジフェンヒドラミン塩酸塩が含まれています。アレルギー反応を抑える効果がある抗ヒスタミン薬であり、睡眠を促す副作用があります。この仕組みを応用して、一時的な不眠に対して使われています。睡眠改善薬とアルコールの同時摂取は、中枢神経系を抑制する効果が増強されるので危険です。
対処法について
眠れないという理由で、睡眠薬とアルコールを併用することを止めて下さい。処方されている睡眠薬が効かなくて不眠が続いているときは、医師の診察を受けることが大切です。
寝酒がよいか睡眠薬がよいか悩んでいる人が、いるかもしれません。睡眠導入剤の種類には、依存性のない睡眠薬もあります。一度、相談してみましょう。
予防するためには
自分が飲むことができる飲酒量を守ることが必要です。依存症にならないために、休肝日も設けましょう。成人において、アルコールの適量は、ビールなら中瓶1本以下、日本酒1合以下が目安です。
女性、高齢者はアルコールの許容量が少なく、肝臓でアルコールが分解されるのに時間がかかります。そのため、摂取量に注意しなければなりません。
アルコールを飲んだ後、どのくらいの時間が経過すれば、睡眠薬を飲んでも大丈夫ですか?
一般的には、アルコールが体内で完全に代謝されるまで待つことを勧めます。1時間で分解されるアルコールの量は「体重×0.1g程度」の式を用いることができます。適量のアルコール摂取なら、3~4時間前までに済ませましょう。個人差はあるので、飲酒と就寝時刻の間隔について、医師に相談しましょう。
まとめ
アルコールと睡眠薬は、同時摂取によって、身体に有害な影響が起きるばかりではなく、依存症になるリスクがあります。眠れない悩みがあって、自己判断でお酒と睡眠薬を併用することは、止めましょう。寝酒の習慣がある人は、注意しなければなりません。
セルフケアをしても、眠れない日々が続いており、日常生活に支障が出ているときは、睡眠外来の医師に相談して睡眠障害に対する適切な指導を受けましょう。