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性的マイノリティが抱えている不眠の問題
LGBTとは
LGBTは、レズビアン(女性の同性愛者)、ゲイ(男性の同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、そして、トランスジェンダー(性自認が生まれたときに割り当てられた性と異なる人)の頭文字をとった言葉です。
自分の性自認および性的指向が定まっていない人は、クエスチョニングやクィアと呼ばれています。性的マイノリティの総称として用いられています。頭文字のQをとって、LGBTと合わせて、LBGTQという呼び方もあります。
性的マイノリティの中で、男性か女性かという枠組みをあてはめない考え方をもつ人をノンバイナリーと呼んでいます。
SOGIとは、どんなものですか?
性的指向と性自認は、多様性があります。少数派と多数派を区別せずに、誰もが「独自の属性」をもっているという観点から使われるようになった用語です。性表現の多様性も含んだ概念になると、SOGIEと表現されます。
LGBTQ+にある「+」は、何を意味していますか?
LGBTQ以外にも、さまざまな性があります。性の多様性をまとめた概念を示しています。
LGBTの人が抱えている問題
LGBTの人々は、日常生活のさまざまな場面で困っています。出生時の性別と性自認が一致しているシスジェンダーを主体とした社会の仕組み、家庭のあり方が長く続いてきた影響が、問題を引き起こしていると考えられます。
場面 | 具体的な悩み |
---|---|
学校 | 性別の違和感があり、心理的に不安になる。名前の呼ばれ方が気になる。制服の問題。着替え、体育と技術家庭の組み分け、健康診断、トイレのときに困る。教育現場での偏見がある。いじめ、異性との付き合い方など、ストレスがかかる。 |
職場 | カミングアウトをした後、他人からの視線が変わる。性的指向の話題を聞くと苦痛である。性別の件を人事に知られ、それとなく仲間外しになる。自認する性別とは違う性別での立ち居振る舞いを求められる。会社の制服、更衣室、トイレの問題。相談できない悩み。 |
家庭 | 家族にLGBTであることを伝えるカミングアウトで悩む。結婚、出産、将来のこと、パートナーの紹介など、理解してもらえない。出生時の性別で育てられるので、服装、習い事など、違和感を感じながら生活している。相談できる相手がいなくて孤立している。 |
医療 | 戸籍上の性別と自認している性別について、表記に戸惑うことがある。病院の待合室で名前を呼ばれると、他人の視線がつらい。プライベートな話、シスジェンダーが前提の話になるとつらい。入院するときに大部屋であると戸惑う。男女別のトイレと入浴が困る。 |
職場、学校など、LGBTの人にとって不快を感じてしまう環境が続くと、適応障害になる場合があります。SOGIハラ呼ばれる「性的指向や性自認による差別」が問題になっています。
家庭では、自分の家族から、ひどい扱いを受けたり、不十分な養育環境に置かれることもあります。
睡眠障害の特徴
LGBTの人は、不眠症が起きやすいです。寝つきが悪い、途中で目が覚める、熟睡感がない、朝早く目が覚めるなど、さまざな症状が現れます。不眠の影響によって、日中の眠気、集中力の低下などが出現します。
性的マイノリティに対する偏見、生活する上で差別を受けると、精神に負荷がかかります。度重なるストレスによって、睡眠の質に影響を及ぼしていることが、要因として考えられています。
国内で行われた性的マイノリティのメンタルヘルスを調査報告によれば、LGBTの人は、シスジェンダーと比較すると、深刻な心理的苦痛が有意に大きいことが判明しました。
LBGT自体によって、メンタルヘルスが不調になっているという理由よりは、生活する上での偏見、差別、そして、疎外感などの影響が指摘されています。
出典:大阪市における無作為抽出調査からみたセクシュアル・マイノリティのメンタルヘルス – 国立社会保障・人口問題研究所
ノンバイナリー、トランスジェンダーに属している人は、睡眠の質、睡眠時間に問題を抱えている場合が多いです。
睡眠障害が起きやすい理由として、家庭、職場、社会で過ごすのにストレスを感じていることが考えられます。それらの環境において、自認している性別と異なる性別でふるまわなければならないので辛いです。
トランスジェンダーは、うつ症状、自殺企図、心的外傷、薬物依存、不安障害が現れる人が一般人口と比較すると多いことが報告されています。
トランスジェンダーとしての自己肯定感を高めていけないストレスが続くと、不眠からうつ病への発症につながります。
自認する性別と異なる性別を確認されたり、意識させられる場面があると、トランスジェンダーにとって、とても苦痛です。
LGBTの人に睡眠障害が現れる割合
韓国で行われた疫学調査によれば、ゲイ、レズビアン、バイセクシャルの3人に1人が、睡眠の質が低下していると自覚しています。半数の人が熟睡した感じがしないという問題を抱えています。30%程度の人は、寝つくまでの時間が長いと感じています。
睡眠の悩みは、性的マイノリティに関連して受けた差別があると起きやすいことが分かっています。マイノリティ・ストレスによる不眠と言えます。
性的指向、性自認などのプライベートの話をしにくい状況があること、そして、LBGTに対する理解が不十分である人々の嘲笑、ハラスメント、アウティングなどがストレスになります。ショックを受けて、こころの状態が悪化します。
トランスジェンダーと睡眠の問題について調べた研究報告によれば、トランスジェンダーの3人に2人の割合で、性自認に関する差別を経験しています。そして、差別を受けたトランスジェンダーの人は、睡眠障害になる確率が1.5倍高いことが概算されています。
この傾向は、トランスジェンダーに対する家族のサポートがないときに現れるようです。
日本において、働いている世代では、LGBTの人が職場で不快な思いをすることがあります。厚生労働省が性的マイノリティとシスジェンダーの異性愛者を比較した調査した報告書によれば、LBGTの人は、メンタルヘルス不調である割合が高い傾向です。さらに、転職回数が多いことも判明しました。
出典:令和元年度 職場におけるダイバーシティ推進事業(労働者アンケート調査) – 厚生労働省
LGBTの人に不眠が現れる理由として、働きにくい職場の環境が精神面に影響して、睡眠障害が発症している可能性があります。
睡眠外来で相談されるLGBTの人に話を聞くと、職場の人間関係で眠れないという悩みを持っている人が多い印象です。
子どものLGBTと睡眠障害の関係
米国において思春期の性的マイノリティ(トランスジェンダー、ノンバイナリー)について調査した論文によれば、思春期の世代において、11.5%の割合で性的マイノリティを自覚している人がいることが判明しました。
いじめ、嫌がらせを経験することが多く、差別を受ける機会が多い現状があります。そのため、アルコール摂取、大麻・違法薬物の使用が多い傾向があります。
10代のLGBTでは、学校での嫌な経験を受けること多く、誰にも相談できずにストレスを抱えている可能性があります。そのため、こころの状態が不安定になり、不眠が現れるようになります。
出典:寺田 千栄子; LGBTQの子ども達へのエンパワメント視点に基づく学校ソーシャルワーク実践の必要性 ―養護教諭へのアンケート調査結果からの考察―, 社会福祉学;59(4):67‒79 2019
子どもは、養育者、周囲の大人に性自認、性的指向の話をすることを躊躇している可能性があります。本当の自分の生き方を心の中にしまいこんで、ストレスが溜まっているかもしれません。
思春期のLGBTについて、家族のネグレクトがあると、うつ病、アルコール、薬物の使用につながることが分かっています。家族から虐げられた状況で生活することで、メンタルヘルスの不調、睡眠障害のリスクが高くなる可能性があります。
睡眠時無呼吸との関係
LGBTの人が、自分がなりたい思う容姿を求めて、性ホルモンによる治療を受ける場合があります。エストロゲンあるいはテストステロンが用いられます。これらの性ホルモンは睡眠の調節にも、影響します。
男性ホルモンであるテストステロンが用いられると、睡眠時無呼吸が悪化するという報告があります。
LGBTの中でトランスジェンダーの人がテストステロンによる治療を受けている場合は、大きないびきの有無について、パートナーに確認してもらうと良いです。セルフケアとして、スマホのアプリで夜間の様子を評価する方法があります。
一方、トランスジェンダー人が女性ホルモンの投与を受けている場合でも、睡眠の質に影響する可能性があります。