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布団に入っても眠れないのはなぜ起こる?
はじめに
「なかなか寝つけない…」「布団に入ってもすぐに眠れない…」そんな夜を何回も過ごしていませんか?
眠れない時間が長くなればなるほど、「明日の仕事は大丈夫だろうか」「このまま慢性的な不眠になってしまうのでは」と不安な気持ちが募っていきます。
スマートフォンで時間をチェックするたびに焦りが強まり、ますます寝つきが遠のいてしまう…。そんな悪循環に悩まされている方も多いのではないでしょうか。中には、眠れないまま朝になってしまったという人もいるかもしれません。
不眠症の原因は、生活習慣の乱れ、環境要因、体の病気、睡眠障害、ストレスまで千差万別です。まずは、寝付かれない理由を知ってセルフを行うことが大切です。
今回の特集では、睡眠専門医が、寝つきが悪くなる要因を解説します。
精神状態の影響はありますか?
ストレスは寝つきの悪さの最も大きな原因の一つとなっています。特に、仕事、家庭、プライベートに関連する精神的なプレッシャーはありませんか。
仕事面では、締め切りに追われる焦りや、増え続ける業務量への不安が心を占めます。また、職場での人間関係の悩みや、長時間労働による生活リズムの乱れも、質の良い睡眠を妨げる要因となっています。夜になっても、明日の仕事のことが頭から離れません。
家庭生活の悩みはありませんか。育児や介護といった家族への責任、日々の生活費や将来の経済的不安、子どもの成績と進路の問題、家族間での意見の違いなど、様々なストレス要因があります。これらの心配事は夜になるほど大きく感じられ、布団に入っても考え事が続いてしまいます。
プライベートの問題も緊張感を生み出します。彼氏、彼女との関係の悪化、婚活のプレッシャー、二人のコミュニケーションの齟齬など、夜になっても心身の緊張として残り続け、スムーズな入眠を妨げてしまいます。
寝つきが悪い症状は、さまざまな精神疾患で見られます。特に、うつ病では寝つきの悪さが初期症状として現れることが多く、不安障害でも就寝時の過度な心配や緊張から入眠困難が生じやすくなります。
出典:Insomnia – Cleveland Clinic
寝つきの悪さを引き起こす身体的な要因
良質な睡眠には、体のさまざまなシステムが正常に働く必要があります。とりわけ大切なものは、自律神経系とホルモンバランス、そして体温調節機能です。
自律神経は、興奮を促す「交感神経」とリラックスをもたらす「副交感神経」のバランスをとって、体をコントロールしています。普通なら夜間は副交感神経が優位になり、眠気を誘うはずですが、ストレスや不規則な生活により、交感神経が活発な状態が続くと寝つきが悪くなります。
睡眠にはいくつかのホルモンが関係しています。体内時計の調節に役割を果たしているメラトニン(睡眠ホルモン)の影響があります。メラトニン分泌は寝る前に光刺激を受けると低下してしまい、年齢とともに減少するという特徴があります。一方、ストレスホルモンのコルチゾールが夜間に高くなると、寝つきを妨げます。
さらに、体温調節も入眠に関わる要因の一つです。夜間の適度な体温低下が、入眠のしやすさに影響します。夜遅い運動や熱いシャワー、暑すぎる部屋の温度設定は、この自然な体温低下を妨げ、寝つきを悪くします。
生活習慣の要因
私たちの生活において、気づかないうちに睡眠を妨げる習慣が身についていることがあります。睡眠外来を受診される多くの患者さんに共通する入眠困難の原因を、実際の診療経験をもとにご紹介します。
不適切な生活習慣 | 具体的な内容 |
---|---|
不規則な生活リズム | 毎日決まった時間に起きたり寝たりせず、睡眠リズムがバラバラであると、体内時計が乱れます。休日に平日と異なる生活リズムになる「社会的時差ぼけ」も要注意です。体内時計が不安定になると、メラトニンの分泌に悪影響を及ぼし、寝つきを悪化させます。 |
夜間のブルーライト影響 | スマートフォンやパソコン、テレビなどから発せられるブルーライトには、脳を覚醒させる作用があります。就寝直前までこれらの機器を使用すると、メラトニン分泌を低下させ、睡眠リズムの乱れにつながります。その結果、入眠困難になります。 |
カフェインの過剰摂取 | コーヒー、紅茶、緑茶、エナジードリンクなどに含まれるカフェインには、覚醒作用があります。個人差はありますが、夕方以降にカフェインを摂取すると、寝る時間になってもカフェインの効果が残ってしまい、目が覚めた状態が続いてしまいます。 |
運動不足 | 日中の適度な運動は、夜間の良質な睡眠を促進します。しかし、デスクワークが主体で、自動車通勤のためあまり歩かない生活での場合、十分な運動量を確保できない人が多くいます。運動不足により体が適度に疲れていないと、就寝時に眠気を感じにくくなります。 |
睡眠障害の影響
原発性不眠症
身体や精神の病気が原因ではないのに、寝つきが悪い状態が続きます。若い頃から不眠が見られる傾向があります。「眠れない」という不安や焦りが強くなり、そのことが不眠症につながるという悪循環に陥ります。
概日リズム睡眠障害(睡眠相後退型)
体内時計のリズムが後ろにズレ込んでおり、メラトニンの分泌開始が通常より2~3時間以上遅れている状態です。そのため、周りの人が眠くなる時間帯に眠気が来ないので、深夜遅くまで寝つけないことが特徴です。
むずむず脚症候群
夜になると脚に不快な感覚が現れ、じっとしていられなくなる病気です。安静時に下肢の症状が悪化するので、寝つきを妨げる原因となります。周期性四肢運動障害の併発が多いことが知られています。
寝つきが悪くなる環境要因
良い眠りのためには、快適な睡眠環境が不可欠です。外部環境による寝つきの悪さは、以下のような状況で引き起こされることが多く見られます。
寝室の室温と湿度が適切でないと、眠れない原因になります。暖房の設定温度が高すぎたり、逆に寒すぎたりすると、体がリラックスできません。冬場の乾燥や、夏場の蒸し暑さは要注意です。
次に気を付けたいのが、光と音の影響です。街灯やLEDランプなどのわずかな光でも、メラトニンの分泌を低下させてしまいます。また、寝室の内外に発生している騒音も、あなたの寝つきを妨げます。
そして、意外と見落としがちなのが寝具の状態です。体に合っていないマットレスや枕は、筋肉の緊張を引き起こし、寝返りを増やす原因となります。特に、古くなったマットレスや高さの合わない枕は見落としやすい注意点です。
寝つきが悪い人の特徴:年代別による違い
外来での診療経験をもとに、多くの患者さんから見られる一般的な傾向をまとめたものです。症状や原因は個人によって大きく異なる場合があります。あくまでも参考情報としてお読みください。年代ごとの生活スタイルや身体の変化が影響している印象です。
年代 | 具体的な内容 |
---|---|
10~20代 | デジタル機器の影響が目立ちます。スマホやSNSの長時間利用が就寝時間を遅らせ、また受験、就職活動のストレスも加わります。さらに、カフェインを含んだ飲み物の過剰摂取も、若い世代特有の問題となっています。人間関係の問題として、恋愛、友人関係のトラブルも多い印象です。 |
30~40代 | 仕事と家庭の両立による悩みが中心となります。長時間労働による心身の疲労に加え、育児や家事による生活リズムの乱れが発生します。経済的な責任も増し、運動不足も重なって、質の良い睡眠が取りにくい状況に陥りやすくなります。その他の要因として、職場の人間関係、婚活、離婚関係の悩みもあるようです。 |
50~60代 | 身体的な変化が睡眠に大きく影響します。睡眠時間が短くなったと自覚するようになる人もいます。更年期によるホルモンバランスの変化や、体温調節機能の低下が見られます。また、頻尿、慢性的な痛み、持病への不安、職場での責任増加、親の介護の問題、家族の独立、将来への不安などのストレスも関わっている印象です。 |
70~80代 | 加齢に伴う生活リズムの変化が顕著になります。日中の活動量が減少し、その結果、昼寝が増えて夜の睡眠が浅くなりがちです。不眠をきたすストレッサーとして、配偶者や友人の死、身体機能の低下、孤独感、経済的不安などがあります。夜間の頻尿、内服薬の副作用、認知症の影響もあるようです。 |
女性の場合、月経周期や妊娠・出産、更年期など、ホルモンの変化による影響を大きく受けます。また、育児や家事による睡眠時間の不規則性も特徴的です。仕事と家庭の両立に悩み、不眠になるケースが少なくありません。
チェックリスト
以下の項目をチェックしてみましょう。当てはまる項目が多いほど、寝つきの改善が必要かもしれません。
- 夜遅くまでスマホやパソコンを使っている
- 毎日の就寝時間がバラバラである
- 夕方以降にコーヒーや緑茶を飲むことが多い
- 日中、運動や身体活動がほとんどない
- 仕事や人間関係のストレスを感じている
- 寝室の環境(明るさ、温度、音)が気になる
- 眠れないことへの不安や焦りがある
寝つきが悪い場合、仕事、勉強など、日常生活に支障をきたす状況が2週間以上続くようであれば、睡眠専門医の診察を受けることを提案します。
寝つきを改善するためのセルフケア
デジタル機器の使用制限:
就寝2~3時間前からはスマートフォンやパソコンの使用を控えましょう。どうしても必要な場合は、ブルーライトカット機能を活用します。
規則正しい睡眠リズム:
平日・休日問わず、同じ時間帯に就寝・起床することを心がけます。体内時計を整えることで、自然な眠気を感じやすくなります。
嗜好品に注意する:
カフェイン、アルコール、喫煙は入眠困難と中途覚醒の原因になるので見直すことが大切です。
軽い運動の実践:
ウォーキングやストレッチなど、軽い運動を日中に取り入れます。ただし、就寝直前の激しい運動は、交感神経を高めてしまうので避けましょう。
リラックスタイムの確保:
就寝前の30分は、読書やゆったりとした音楽を聴くなど、リラックスできる時間を作ります。睡眠音楽、アロマなどの活用があります。
快適な睡眠環境づくり:
室温18-23度、湿度40-60%を目安に。光や音を適切にコントロールし、心地よい寝具を選びましょう。
入浴のタイミング:
就寝1~2時間前の少し熱めのお風呂で、体をリラックスさせましょう。