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いじめに苦しむ中学生と高校生の睡眠障害
はじめに:いじめと睡眠障害の関連性
いじめは、被害者に対して深刻な心理的ストレスを与え、さまざまな精神的な苦痛を引き起こします。その中でも、睡眠に関する問題は特に多くみられます。
具体的には、ストレスや不安によって、夜眠れなくなったり、夜中に何度も目が覚めたり、朝早く目が覚めてしまったりすることがあります。また、怖い夢や嫌な夢を見ることも珍しくありません。
睡眠不足が続くと、授業に集中できなくなったり、イライラしやすくなったりして、成績が下がったり友達との関係が悪くなったりすることもあります。朝起きられない状況が続くと、学校に行きたくないという気持ちにもなり、不登校になります。
今回のコラムでは、いじめを受けている人が良い睡眠をとるためのヒントをたくさん紹介します。一人で悩まないでください。家族や先生、カウンセラーの先生と一緒に、よりよい睡眠と学校生活を取り戻しましょう。
いじめによる不眠の原因について
いじめは被害者に大きな精神的な負担を与え、それが睡眠に深刻な影響を及ぼします。どうしてこんなことが起こるのでしょうか?
いじめによるストレスは、体の中でコルチゾールというホルモンを増やします。このホルモンは通常、朝に多く夜に少なくなるのですが、ストレスが続くとそのバランスが崩れてしまいます。その結果、夜になっても頭や体が興奮したままで、リラックスして眠ることができなくなります。
この状態が続くと、寝つきが悪くなったり、夜中に何度も目が覚めたり、朝早く目覚めてしまうなどの睡眠障害が起きます。さらに深刻な場合、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、適応障害、不安障害、うつ病などの「こころの病気」を発症することもあり、これらの病気も、眠りの質を下げてしまいます。
いじめは自信を失わせ、常に周りを警戒する状態を作り出します。いつも緊張していると、安心して眠ることがますます難しくなります。そして、ぐっすり眠れないころで昼間疲れやすくなり、集中力が落ちてしまいます。その結果、いじめに対処する力がさらに弱まり、眠れなくなるという悪循環に陥りやすくなるのです。
このように、いじめは睡眠の問題だけでなく、心身の健康全体に影響を及ぼす複雑な問題と言えるでしょう。
睡眠障害の症状とは
いじめのストレスは、様々な形で睡眠に影響を及ぼします。以下に、いじめ被害者が経験する「よくある睡眠の問題」について説明します。
症状 | 具体的な特徴 |
---|---|
入眠困難 | ベッドに横たわってもなかなか眠りにつけない状態を指します。いじめ被害者は、就寝時に日中のいじめ体験を思い出したり、翌日への不安に襲われたりすることで、心身がリラックスできず、眠りにつくまでに何時間もかかることがあります。この状態が続くと、ベッドに入ること自体に不安を感じるようになり、睡眠に対して良くないイメージを持っていしまいます。 |
中途覚醒 | いったん眠りについても夜中に何度も目が覚めてしまう状態です。いじめによるストレスは、浅い睡眠を増やし、深い睡眠を減らします。そのため、ちょっとした物音や体の動きで容易に目が覚めてしまいます。また、夜中に目覚めると、再びいじめ体験を思い出して、再入眠が困難になることもあります。そして、眠れないまま朝になってしまうケースもあります。 |
早朝覚醒 | 必要な睡眠時間が確保できる前に、朝早く目が覚めてしまい、その後再び眠ることができない状態を指します。いじめ被害者は、不安や心配事により、通常の起床時間よりも何時間も早く目覚めてしまうことがあります。あまりにも早い時間に目覚めるのことは、十分な睡眠時間を確保できないだけでなく、日の出前の時間に目覚めるので、不安な気持ちになります。 |
悪夢 | しばしば悪夢に悩まされます。内容として、いじめの場面や関連する恐怖体験を再体験してしまう傾向があります。これらの悪夢は、睡眠の質を著しく低下させ、目覚めた後も不安や恐怖感が続いてしまいます。睡眠から突然覚醒し、強い恐怖や不安を感じる状態で叫ぶこともあります。夢の内容が苦痛なので、ベッドに行くことが怖いことにつながります。 |
過眠 | 元気な頃と比較すると長時間眠ってしまう、または日中に強い眠気を感じる状態を指します。一見、睡眠時間が長いように見えますが、実際には質の悪い睡眠であることが多いです。いじめによる抑うつ状態や現実逃避の行動として現れることがあり、寝ても寝ても眠いと訴える子どもがいます。日中の活動性を低下させ、学業や社会生活にも支障をきたします。 |
これらの睡眠異常は、単独で現れることもありますが、複数の症状が同時に発生することも珍しくありません。例えば、入眠困難と中途覚醒が併発することがあったり、嫌な夢によって途中で目が覚めてしまい再び眠れなかったり、個人差があります。
深夜まで目が覚めた状態が続き、眠りが浅く、学校に行きたくない気持ちが重なり、朝起きられない問題も、しばしばあります。
最近、中国の高校生を対象に行われた大規模な調査で、興味深い結果が出ました。この調査は、多くの高校生の睡眠の様子といじめの経験を調べたものです。その報告によれば、睡眠の質が悪いと答えた高校生のうち、約10人に1人がいじめに関わっていました。
このことは、いじめが子どもの睡眠に影響を与えている可能性が高いということ、そして、逆に、子どもの睡眠の質が悪くなっていたら、いじめが関わっているかもしれないことを示唆しています。
いじめ被害を受けていると、子どもの睡眠のパターンが変わることが指摘されており、家庭内でも、ぐっすり眠れているのか、普段とは異なる変化がないか、見過ごさないことがポイントです。
出典:Warning signs of bullying – State Government of Victoria
睡眠障害がもたらす影響
寝不足が及ぼす影響について考えたことはありますか?
実は、十分な睡眠が取れないことで、私たちの生活にはさまざまな問題が起こります。特に、いじめのストレスで寝れない夜が続くと、次のような弊害が出てくるリスクがあります。
1. 学校の成績への影響
睡眠不足は、勉強にとって大敵です。十分に眠れないと、授業に集中できなくなったり、新しい情報を覚えるのが難しくなったりします。特に、夢を見る睡眠(レム睡眠)は、創造的な思考や問題解決能力を高めるのに大切なので、寝不足によって学習効率が下がってしまいます。
眠くて授業中に居眠りしたり、欠席が増えたりすると、大事な学習の機会を逃してしまいます。疲れて勉強する気にならないと、宿題や課題も後回しにしがちです。結果として、定期テスト、模擬試験の点数が急激に下がってしまいます。中学生では、内申点にも影響します。さらに、やる気が起きず休みがちになると、不登校につながる可能性もあります。
2. 身体への影響
不眠は体の調子も崩します。十分な睡眠は体の修復や成長に必要不可欠ですが、これが足りないと、頭痛、めまい、ふらつき、下痢など、体調不良につながります。
また、睡眠不足が続くと太りやすくなったり、将来的に生活習慣病のリスクが高まったりします。思春期の場合には、深い眠りが十分な量が得られないことで、成長ホルモンの分泌が妨げられます。その結果、体の発育に悪影響を及ぼす可能性があります。
3. 精神面への影響
十分な睡眠は、私たちの心の健康にとても大切です。眠れないことが続くと、心にさまざまな影響が出てきます。まず、気分の変化が激しくなったり、些細なことでイライラしやすくなったりします。
眠れないせいで、感情のコントロールが難しくなります。特に、いじめのストレスと不眠が重なると、気分の落ち込み、不安が生じます。通学を続ける気持ちがなくなることもあります。
長く眠れない状態が続くと、自分に自信が持てなくなったり、「自分にはできない」と思いやすくなったりします。そうなると、いじめへの対処も難しくなって、さらに眠れなくなるという悪循環に陥りがちです。
いじめの被害は睡眠の質の低下と重度のうつ症状を有意に予測するという報告もあります。
最も心配なのは、眠れないことが精神的苦痛をもたらすことです。時には、生きることへの意欲を失ってしまうほどの重大な影響を及ぼすことがあります。いじめのつらさと睡眠不足による判断力の低下が重なると、危険な行動に走ってしまう懸念があります。特に、夏休み明けの9月、週初めのプレッシャーが多い月曜日に注意が必要です。
いじめの早期発見のために、注意すべき症状は何ですか?
養育者が、子どもが学校に行く意欲が低下している、眠れない症状が続く、食欲不振や腹痛がみられるになったときは、注意を払うことが大切です。
不眠の治療について
本人が抱えているストレスを解消していくことが大切です。本人、養育者、医師と相談して、どのような経緯で、不眠になったのかを共有します。話を聞いてもらうことで、気持ちが楽になる場合も少なくありません。
診察では、養育者を交えて睡眠の問題への捉え方、対処法を一緒に話し合います。
ときには、休養が必要な状況もあり、医師が診断書を書きます。学校がとるべき適切な配慮と支援を受けるための重要な書類になり、いじめの加害者への法的な根拠になります。あなたが置かれている環境で自分がつぶされるような気持ちがあるのなら、自宅療養するなど、安全な環境に緊急避難することは大切です。
眠れない症状に対しては、リラクゼーションの実践や睡眠衛生の徹底は、睡眠の質を向上させる上で効果的です。
小学生、中学生、高校生では睡眠薬を処方するケースは少なく、漢方薬による治療を検討します。ただし、10代の後半になれば、依存性の少ない睡眠薬を用いることがあります。
いじめと睡眠の解決のために:一人で抱え込まないで
大切なのは、あなたが悩んでいる問題を一人で抱え込まないことです。いじめも睡眠の問題も、自分一人では解決が難しいものです。だからこそ、周りの人に助けを求めることが大切です。
いじめや睡眠の問題に悩んでいるあなたには、たくさんの味方がいます。まず、あなたを最も大切に思ってくれる家族に打ち明けてみましょう。両親や兄弟姉妹は、あなたの気持ちを理解し、支えてくれるはずです。
学校では、担任の先生やスクールカウンセラーがいじめ対策の手助けをしてくれます。彼らは学校内での問題に詳しく、適切な対応を取ってくれるでしょう。
あなたと仲の良い友達も大切な味方です。悩みを打ち明けて共有することで、精神的な支えになってくれます。時には友人の視点が、新しい解決策のヒントになることもあります。
より専門的なアドバイスが必要な場合は、心療内科・精神科の医師や心理カウンセラーに相談しましょう。彼らは、いじめや睡眠の問題に関する専門知識を持っており、効果的な対処法を提案してくれます。
また、匿名で相談できる電話相談サービスもあります。人に会って話すのが難しい場合は、政府や自治体が開設しているホットラインを利用するのも一つの方法です。例えば、法務省が運営しているこどもの人権110番に相談することを勧めます。
最後に覚えておいてください。誰かに相談することは、決して弱さの表れではありません。自分だけで悩まずに、周りの人々の力を借りることで必ず道は開けます。