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実は深く関係している!糖尿病とSASの実態とは
はじめに

糖尿病(diabetes mellitus: DM)と睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome: SAS)は、いずれも日本において患者数が増加している生活習慣病とその合併症と言えます。一見すると関係のないように思えるこの2つの病気ですが、二つの病気には深い関連があることが明らかになってきました。
糖尿病は血糖値が高い状態が続くことで全身の血管や神経にダメージを与える病気です。一方、睡眠時無呼吸症候群は寝ているときに何度も呼吸が止まることで、心臓および脳に慢性的なストレスを与えます。
実は、これらの病気は互いに悪影響を与え合う関係にあり、片方の病気がもう一方の発症や悪化を引き起こすリスクがあります。
このページでは、内科専門医と睡眠専門医を併せ持つ医師が、糖尿病とSASの関係を説明して、健康の対策に役立つ情報をお届けします。
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糖尿病とは?【症状・原因・生活への影響】

糖尿病とは、血液中のブドウ糖(血糖)が慢性的に高くなる病気です。二つのタイプがありますが、2型糖尿病は生活習慣との関連が深く、日本でも中高年を中心に多くの患者がいます。主な症状には、喉の渇き、多尿、体重減少、疲労感などです。
初期段階では自覚症状が乏しく、気づかないまま進行することも少なくありません。職場の健康診断で初めて血糖値が高いことを知ることも少なくありません。
2型糖尿病を引き起こす要因として、過食・運動不足・肥満・ストレス・遺伝的要因などがあります。複数の要因が影響して発症することもあります。
血糖コントロールが不安定な状態が続くと、動脈硬化、神経障害、網膜症、腎症といった深刻な合併症を招いてしまいます。その結果、虚血性心疾患、脳卒中などの怖い病気を発症します。予防のためには、食事と運動が大切ですが、睡眠の質も血糖コントロールに影響を与える要素の一つとして注目されています。
睡眠時無呼吸症候群はどんな病気なのか?

睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が何度も止まる、または浅くなる状態が繰り返される病気です。閉塞性と中枢性の2種類があり、多くの場合、上気道が塞がることによって起こる閉塞性のSASです。
よくある症状としては、激しいいびき、日中の強い眠気、集中力の低下、起床時の頭痛などがあります。自分では発見しづらい病気で、家族に大きないびきを指摘されてSASの可能性に気づくことが多いです。
日本では潜在患者数が900万人以上とも言われていますが、未だ診断と治療を受けていない人が多くいると推測されています。放置すると高血圧、心疾患、脳卒中、そして糖尿病の悪化など、全身の健康に深刻な影響を及ぼすため早めの発見が大切です。
糖尿病と睡眠時無呼吸症候群の関係性
糖尿病と睡眠時無呼吸症候群は、それぞれ異なる病気ですが、両者は相互に影響を及ぼしあう関係になっていることが分かっています。
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に気道が繰り返し閉塞して、呼吸が一時的に停止する呼吸器疾患です。その一方、努力呼吸によって、睡眠の質を低下させる側面をもっています。
毎日のように無呼吸発作が一晩中続くと、夜間の低酸素血症は、体にとって強いストレスになります。そして、自律神経の中で、交感神経が過剰に活性化します。これが原因となって、インスリンの働きが悪くなるインスリン抵抗性が引き起こされます。その結果として、血糖値の上昇につながってしまいます。
睡眠時無呼吸症候群が引き起こす睡眠の質の低下や夜間頻尿、日中の強い眠気は、食事や運動といった日常生活への影響もあります。他の視点から考察すると、寝不足、眠気を解消するためのカフェイン摂取や過食などが膵臓のβ細胞にダメージを与えて、インスリンの分泌能力を低下させています。
その一方、糖尿病があると睡眠時無呼吸症候群を発症しやすいという逆の関係性もあります。特に2型糖尿病の患者に多い肥満や内臓脂肪の蓄積は、首まわりの脂肪沈着を招き、上気道の狭窄を引き起こします。そして、SAS発症の直接的な要因になります。
別のメカニズムとして、糖尿病によって引き起こされる自律神経障害や末梢神経障害が、のどや気道周辺の筋肉の働きに影響して、睡眠中の気道が閉塞しやすくなるということも考えられています。
糖尿病とSASは単に併存しやすいだけでなく、一方が他方を誘発および悪化させるという「双方向の悪循環」にあると言えます。したがって、どちらかの初期症状があるとき、あるいは、病気が見つかったときは、もう一方のリスクも早期に評価することが肝心です。
私の外来でも、睡眠時無呼吸症候群のCPAP治療中に、肥満体型、健康診断を受けている暇がない方などに対して、採血(測定項目:血糖、HbA1cなど)による評価を勧めています。やはり、中年の世代において、糖尿病をいかに早く見つけるかがポイントになります。
糖尿病患者におけるSASのチェックポイント
糖尿病患者の中には、自覚のないまま睡眠時無呼吸症候群を抱えている場合があります。SASは睡眠中に起こるため、本人が気づきにくいという特徴があります。
そこで、以下のような症状やサインが見られた場合は、SASの可能性を疑い、睡眠専門医の診察を受けることを勧めます。
- 大きないびきをかく
- 睡眠中の呼吸が止まる(家族に聞く)
- 日中の強い眠気
- 熟睡感がない
- 夜間の頻尿
- 寝汗が多い
- 朝起きたときに頭が痛い
- 胸やけがひどい
自分が睡眠時無呼吸症候群になっていないか気づくためには、ベッドパートナーによる観察が大きな助けになります。 例えば、「寝ているときに呼吸が止まって苦しそうに見える」「突然大きないびきをかいた後に静かになる」などの症状が見られる場合、受診の動機づけになるでしょう。
スマホで動画を撮影してもらうのも良いアイデアです。自分でできる方法としては、スマホのアプリで調べてみることも良いです。
女性では、妊娠中および更年期になるとSASの発症リスクが高くなる ので、自分がいびきをかいていないか注意しましょう。
SASが疑われる症状があれば、睡眠外来への相談を検討してください。医療機関では、まず問診とSASの簡易検査を実施し、必要に応じて入院による精密検査(PSG:終夜睡眠ポリグラフ検査)を行います。
二つの病気:DMとSASに対する治療
糖尿病と睡眠時無呼吸症候群、この2つの病気には共通する特徴があります。それは、生活習慣と深く関わっているという点です。そしてもう一つ大切なことがあります。それは、この2つの病気が互いに影響し合い、悪循環を生みやすいということです。
それぞれの病気には、独自の治療方法がありますが、両方を同時に考えて管理することが、よりよい健康につながります。
睡眠時無呼吸症候群の治療では、CPAPという医療機器がよく使われます。寝ている間にマスクを装着し、気道に空気を送り込むことで、呼吸が止まらないようにサポートします。これによって、睡眠の質が大きく改善されるのです。CPAP治療によって、質のよい睡眠がとれるようになると、体のホルモンバランスが整い、血糖値も安定しやすくなるという効果が期待されます。
また、軽い症状の方には、歯科で作製されるマウスピースがあります。そして、根本的な治療を希望される場合には、耳鼻科で行われる外科的な手術を検討します。
糖尿病の治療は、基本的に「食事療法」「運動療法」、そして必要に応じて「薬物療法(内服薬やインスリン注射)」を組み合わせて行います。ここで注目されているのが、「睡眠の質」が糖尿病の管理にも関係しているという点です。
肥満の場合、糖尿病と睡眠時無呼吸症候群の両方を持つケースが少なくありません。睡眠時無呼吸症候群の治療をしっかり行うことで、血糖値がより安定しやすくなることが報告されています。ぐっすり眠れることで、ホルモンの働きが整い、インスリンの効きも良くなると考えられています。
つまり、睡眠の改善は、糖尿病の治療にも良い影響を与える大切なポイントなのです。
すでに睡眠時無呼吸症候群の診断を受けている場合には、糖尿病の有無について定期的な健康診断で調べることが大切です。そして、もし、糖尿病予備軍と指摘されているなら、糖負荷試験による評価を検討しましょう。