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心不全に睡眠障害が併発するときの対策
心不全と睡眠:双方向に影響する関係
心不全と睡眠障害がどのように深く関連しているか、知っていますか。心不全は心臓が体全体に必要な血液を十分に送り出せなくなる状態を意味します。その結果、日常生活の活動に大きな影響を及ぼします。
一方、睡眠に問題があると、身体、こころの不調を引き起こす原因になり、生活の質の低下など、深刻な影響が現れます。
実は、心不全と睡眠は、互いに影響を及ぼしあっていることが分かっています。このページでは、メカニズム、注意すべき症状、治療法、日常生活での対処法など、具体的な情報をお伝えします。
心不全を理解するためのポイント
心不全は、心臓が体全体に必要な血液をしっかりと送れない状態を指します。心臓のポンプとしての機能が十分ではない状況とも言えます。心臓が元気に働くことができないので、身体はいろいろな影響を受けます。その結果、次のような症状が出現します。
- 息が苦しくなる
- 体がだるく感じる
- 脚がむくむ
- 胸に不快感がある
- 動悸を感じることが多い
- 胸に不快感がある
- 食欲がなくなる
治療の原則は、心臓の機能を低下させた原因を探し出し、その原因となった病気あるいは病態に対処することです。
睡眠障害とは何か?
睡眠障害は、睡眠の質と時間、リズムに問題があり、こころと体に影響を及ぼす問題のことを意味します。その中でも不眠症はよくある睡眠障害の一つです。具体的な症状として、入眠困難、中途覚醒、および早朝覚醒などがあります。
質の良い睡眠は、疲れた体をリフレッシュさせたり、細胞の修復を促したり、そして体力の回復に欠かせないものです。そのため、睡眠は心と体の健康を維持するために大切です。
何らかの問題で、ぐっすり眠れない状況が続くと、心臓の病気を発症するリスクが高まることが知られています。
心不全と睡眠の関連性
心不全と睡眠障害は、密接な関連性を持っていることが分かっています。特に、心不全の患者さんの多くは、睡眠時無呼吸症候群という睡眠障害を併発しています。
二つのタイプがあることが知られており、中枢型睡眠時無呼吸と閉塞型睡眠時無呼吸です。心不全の患者さんには、中枢型睡眠時無呼吸が好発しやすいことが特徴で、予後にも関係しています。
種類 | 特徴 |
---|---|
中枢型睡眠時無呼吸 | 心臓の働きが低下して循環器系の安定が保てないので、脳の呼吸中枢に影響が現れます。その結果、自発的な呼吸が停止するという病態が生じます。特異的な呼吸パターンであるチェーンストークス呼吸(周期的な深呼吸と浅呼吸が交互に繰り返されるパターン)を示す場合もあります。 |
閉塞型睡眠時無呼吸 | 眠っているときに上気道が一時的に閉塞し、呼吸が止まる病態です。低酸素血症が引き金となって、度重なる努力呼吸が起きます。そして、頻回の覚醒が生じるので、睡眠の質が低下します。その結果、日中の症状として、昼間の眠気、集中力の低下、疲労感を引き起こします。 |
これらの睡眠呼吸障害は、睡眠の質を低下させるだけではなく、心不全の症状も悪化させます。反対に、心不全があると、睡眠を妨げる原因となることもあります。
具体的には、心不全の症状として現れる夜間の尿意増加や息切れなどは、眠りを妨げます。そのため、浅い眠り、中途覚醒など、不眠を生じることになります。そして、安定した睡眠がとれないので、疲労感を引き起こします。睡眠不足のために、昼間の眠気が生じます。
まずは、心不全と睡眠障害の関係を理解しましょう、両者に対して適切に対処することが、治療管理上において、とても重要です。
出典:2023年改訂版循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン
未治療の閉塞型睡眠時無呼吸症候群は、血圧の上昇を引き起こします。その結果、心臓が大きくなる心筋肥大、狭心症と心筋梗塞の原因になる動脈硬化につながります。この状態を放置すると、心不全のリスクが高まります。また、中枢型睡眠時無呼吸症候群を引き起こすこともあります。
心不全の患者が睡眠障害に気づくためのポイント
すでに心不全の治療を受けている人で、自分の睡眠に問題がないか気づくためには、次のような症状に注意してみると良いでしょう。ベッドパートナーに自分が寝ているときの状況について、尋ねてみることも、睡眠障害の発見に役立ちます。
症状 | ポイント |
---|---|
日中の眠気 | 良好な睡眠を得られていないことを示すサインと言えます。特に、十分な時間を寝ているにもかかわらず日中に眠くなる場合は、睡眠の質に問題があるかもしれません。 |
夜間の頻尿 | 寝る前に水分を取り過ぎているわけではないのに、夜間に何度もトイレに行くことは、睡眠を妨げていると言えます。心不全が悪化している兆候かもしれません。 |
いびきや呼吸の停止 | パートナーよって、大きないびき、無呼吸を指摘されたり、苦しそうな様子で寝ていたり、呼吸が不安定であるときは、睡眠時無呼吸が潜んでいる可能性があります。 |
息切れ | 心不全の患者では、寝ている間に水分が体に溜まり、呼吸苦を引き起こすことがあります。これは、睡眠中に呼吸が適切に行われていないことを示します。肺うっ血の危険があります。 |
上記のような症状が見られるときは、睡眠の知識が多い循環器専門医に相談することを勧めます。
出典:大貫慧介 他; 睡眠と循環器疾患, 日本循環器病予防学会誌;56(3):199-211,2021
睡眠時無呼吸が疑われる症状があれば、医師に相談しましょう。閉塞型睡眠時無呼吸は、心臓の左室機能を低下させて、将来的に心不全を発症させるリスクを高くするからです。そうならないために、早期発見と適切な管理を受けるべきです。
出典:Sleep Apnea and Heart Health – AHA
なぜ、慢性心不全の場合、睡眠の問題に対処することが重要なのですか?
心不全は、病状が進行すると繰り返しの入院を余儀なくされることがあります。病状が急に悪くなる要因の一つとして、睡眠障害の関与が指摘されています。実は、睡眠障害は心不全の病状の安定化を妨げることが分かっています。そして、逆に、心不全があると睡眠の問題を引き起こします。この悪循環を早く断ち切ることが、大切です。良好な睡眠は、心不全のコントロールを安定させ、入院の回数および病院への受診回数を減らすというメリットがあります。
心不全がある場合で、眠れないから睡眠薬を飲んでも良いですか?
睡眠時無呼吸がある場合、病状が悪化する場合があるので、主治医に服薬の可否について、相談することを勧めます。
どうやって心不全と睡眠障害に対応できる医師を探せばよいですか?
心不全のことなら、循環器専門医、一方、眠りの問題のことなら、睡眠専門医が対応することができます。一方だけを診てもらうのではなく、両方の専門性を持つ医師の診察を受けることが理想的です。あなたのかかりつけ医に相談して、適切な医師を紹介してもらうことが近道です。
診断する方法について
睡眠時無呼吸症候群の診断は、終夜睡眠ポリグラフ検査によって行われます。この検査は、脳波、眼球運動、心電図、下肢の筋電位、血中酸素レベルなどを同時に記録します。そして、睡眠の質および異常呼吸の回数、低酸素血症の重症度を評価します。呼吸センサーの波形によって、中枢型と閉塞型の鑑別をすることができます。
治療法について
閉塞型睡眠時無呼吸は、上気道の閉塞が原因であるので、気道を拡げる効果があるCPAP治療あるいは口腔内装置などが選択されます。肥満があれば、減量が必須になります。その他の対処法として、側臥位での睡眠、アルコール摂取の中止などがあります。
一方、心不全に合併した中枢型睡眠時無呼吸に対しては、夜間の在宅酸素療法、夜間在宅酸素療法、CPAP治療あるいは適応補助換気(ASV)などを検討します。もちろん、薬物治療による慢性心不全のコントロールも必要です。
心不全の管理:日々の生活でできること
心不全のため通院している人のなかで、うまく眠れていないと感じている場合、生活習慣の見直しをしましょう。
定期的なウォーキング、塩分を控えめにしたバランスの良い食事、アルコールやカフェインの摂取の制限、ストレス管理などが睡眠の質を向上させるために大切です。