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SASがあるときの睡眠薬の選び方と注意点
はじめに
睡眠時無呼吸症候群では、上気道の閉塞が原因となって努力呼吸が増えます。その結果、頻回の覚醒が生じて眠りの質が低下します。ぐっすり眠れない悩みを抱えている人がいます。一方、睡眠薬は不眠症の治療に広く用いられています。
実は、睡眠時無呼吸症候群があるときに、安易に睡眠導入剤を用いてはいけないことを知っていますか?
閉塞型睡眠時無呼吸がある人にとって、睡眠薬の使用は悪化させる危険もあるのです。しかし、基礎知識を持って、適切に薬を選ぶことができれば、不眠の改善に効果があります。
このページでは、睡眠時無呼吸症候群と睡眠薬の関係性、そして適切な使用法と注意事項について詳しく解説していきます。
なぜ睡眠薬がSASを悪化させるのか?
睡眠薬には、作用機序によって、さまざまなタイプがあります。一般的には、中枢神経系に作用し、鎮静効果や催眠効果を発揮します。しかし、一部の睡眠薬は、上気道の筋緊張を低下させ、舌根沈下を引き起こします。この副作用によって、上気道を狭くしたり、閉塞させたり、通気性が悪くなります。つまり、いびきをかく原因にもなるのです。
その一方、薬の鎮静作用の影響によって、覚醒反応を弱めてしまい、異常呼吸の時間を長くしてしまう危険があります。つまり、無呼吸発作がより長くなり、低酸素血症の程度が重くなります。
睡眠時無呼吸症候群が治療されていない場合に、安易に睡眠薬を使用してしまうと、病状が悪化します。自己判断で、効果が不十分であるから睡眠薬を増量したり、アルコールを飲んだり、危険な行為は避けるべきです。
禁忌の薬はありますか?
クアゼパム(商品名:ドラール)です。薬物の半減期が長く、筋弛緩作用があるので、呼吸障害を悪化させます。したがって、睡眠時無呼吸症候群があるときに使ってはいけない薬です。
どんな睡眠導入剤がSASの患者に使用できるか?
不眠の症状をコントロールするのに睡眠薬を使用する場合、ω1受容体選択性が高く筋弛緩作用が弱いエスゾピクロン(商品名:ルネスタ)やゾルピデム(商品名:マイスリー)を選ぶことが推奨されます。これらの薬剤は非ベンゾジアゼピン系と呼ばれる睡眠薬の一種です。
重症の睡眠時無呼吸症候群では、睡眠薬が呼吸状態に及ぼす影響が懸念されるため、CPAP治療を開始した上で、服薬することが安全です。なぜなら、CPAP治療を行えば上気道に陽圧がかかるので、気道の開存性を保つことができるからです。
出典:睡眠時無呼吸症候群の患者に使用できる睡眠導入薬は何か?(薬局) – 福岡県薬剤師会
メラトニン受容体作動薬のラメルテオン(商品名:ロゼレム)は依存性が少ない睡眠薬で、入眠作用と体内時計の調節作用を併せ持つ特徴があります。
北米で行われた研究報告によれば、軽度から中等度の閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者にラメルテオンを投薬しても、睡眠中の無呼吸低呼吸指数への影響が認められず、目立った副作用はなかったようです。このことは、ラメルテオンはSASの人が抱えている不眠に対して選択肢の一つになることを示唆しています。
新しい作用機序の睡眠導入剤として知られるオレキシン受容体拮抗薬については、レンボレキサント(商品名:デエビゴ)とスボレキサント(商品名:ベルソムラ)の2種類が、国内で処方されています。
「中等度および重度の閉塞性睡眠時無呼吸に対しては、安全、長期投与について、安全性が確立されていない」という記載が、添付文書にあります。
出典:デエビゴ – KEGG
その一方、海外の研究報告によれば、軽度から中等度の閉塞性睡眠時無呼吸患者の睡眠中の呼吸器系への重篤な影響はないようです。ただし、呼吸器系への影響には個人差があるため、呼吸機能が低下している人には、オレキシン受容体拮抗薬の投与を慎重に行い、少ない用量で使用してください。
他の研究グループの報告において、レンボレキサントは呼吸器への安全性が実証されています。
具体的には、中等度から重度の 閉塞性睡眠時無呼吸患者における単回投与および複数回投与で忍容性が良好でした。これは、レンボレキサントが閉塞性睡眠時無呼吸および併存する不眠症の患者に対する治療選択肢となる可能性を示唆しています。
国内の知見と海外で研究報告を総合すると、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者さんにオレキシン受容体拮抗薬を投与するときは慎重にすべきです。
そのことを踏まえて、不眠を併発した睡眠時無呼吸症候群に対するデエビゴ、ベルソムラの投与に関する注意点があります。それは、CPAP治療あるいはマウスピースによる治療介入を行った上で、オレキシン受容体拮抗薬を服用するほうが無難であるということです。
出典:高江洲 義和; 明日からの臨床の役に立つ睡眠薬の基礎知識, 睡眠口腔医学;2(2):94-100,2016
睡眠時無呼吸症候群の症状を悪化させる睡眠薬
自分が睡眠時無呼吸症候群をもっているとは気が付かずに、不眠症の診断を受けて、睡眠薬を処方される場合があります。しかし、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、症状を悪化させる可能性があります。
具体的には、トリアゾラム(商品名:ハルシオン)、ブロチゾラム(商品名:レンドルミン)、フルニトラゼパム(商品名:サイレース)などがこのグループに含まれます。
これらの睡眠導入剤は、脳内のGABA(γ-アミノ酪酸)濃度を増加させ、催眠作用をもたらします。しかし、副作用として筋弛緩作用があり、上気道を構成している筋肉が緩んでしまいます。その結果、特に仰臥位で寝るときは、舌が後方に落ち込みやすく、無呼吸発作が悪化します。
上記のような理由によって、睡眠時無呼吸症候群のある人はベンゾジアゼピン系睡眠薬の使用をできるだけ避けるべきとされています。特に作用時間の長い睡眠薬を使用すると、睡眠時間の全体において呼吸状態が不安定になります。
高齢者では、睡眠導入剤の服用によって、ふらつき、転倒リスクの増加も注意を払う必要があります。
これまでに伝えたような睡眠薬による有害事象を避けるために、CPAP治療あるいは口腔内装置の装着を開始した後に薬を飲むことを勧めます。そして、安全性を担保するために、睡眠導入剤を飲んだ状態で終夜睡眠ポリグラフ検査によって客観的に睡眠と呼吸状態に悪影響を及ぼしていないか、確かめることが大切です。
出典:When Sleep is a Problem – Emory Medicine Magazine
睡眠薬の使用に関する注意点
1.医師の指示に従った用量と用法を守る
睡眠薬の処方は、医師が個々の患者の状態を評価した上で、適切な用量と用法が決められます。患者さんは、それらの指示を厳密に守る必要があります。用量を増やしたり、服用時間を変えたりすることは、危険な副作用を引き起こす可能性があります。
2.長期連用による依存性と耐性を理解する
睡眠薬を長期的に連用すると、薬物に対する依存性が生じる可能性があります。また、同じ用量では効果が得られなくなる耐性の問題も発生しやすくなります。これらの問題を避けるために、医師の指示に従って、必要最小限の期間で睡眠薬を使用することが重要です。
3.他の薬剤や飲酒との相互作用の危険性
睡眠薬は、他の中枢神経抑制薬やアルコールと併用すると、相互作用により呼吸抑制のリスクが増大します。特に、オピオイド鎮痛薬やベンゾジアゼピン系薬剤との併用は、注意が必要です。飲酒は睡眠薬の効果を増強し、呼吸抑制を引き起こす可能性があるため、避けるべきです。
4.日中の眠気や認知機能への影響
睡眠薬の副作用として、日中の眠気や認知機能の低下が生じる可能性があります。これらの副作用は、日常生活や仕事の効率を低下させ、事故のリスクを高めます。患者は、日中の眠気や認知機能の変化に注意を払い、必要に応じて医師に相談することが重要です。
5.睡眠薬の突然の中止による反跳性不眠
長期間の睡眠薬の使用後、突然に薬を中止すると、反跳性不眠と呼ばれる一時的な不眠の悪化が生じる可能性があります。これは、薬物に対する依存性が形成された結果であり、徐々に薬を減量していくことで軽減できます。睡眠薬の中止や減量は、医師の指導の下で行うことが重要です。
出典:Sleeping Pills – Cleveland Clinic