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不眠・睡眠不足が歯周病の発症に及ぼす影響
歯周病はどんな病気?
歯周病とは、歯肉と歯の土台となっている歯槽骨に細菌の炎症が起きた状態です。初期は歯肉が赤く腫れたり、出血が起きたりする歯肉炎と呼ばれています。病気が進行すると歯槽骨を溶かして歯がグラグラになり抜けてしまう状況になり、歯周炎と言います。
歯肉炎が進行して、重症の辺縁性歯周炎になった場合に、歯槽膿漏という用語が慣用されています。
歯周病はどのくらいの人に影響を及ぼしていますか?
世界の成人人口の14%において、重症の歯周病があると概算されており、10億人以上の人々が歯周病を有していると報告されています。
原因について
歯みがきが不十分であると、歯の周りに歯垢(プラーク)が形成されます。歯垢には多くの細菌が含まれており、細菌による毒素が周囲の組織に炎症を引き起こします。プラークを放置すると石灰化して硬くなり、歯石になります。
炎症が長く続くと、歯と歯肉の間に隙間(歯周ポケット)が現れます。細菌は歯周ポケットにおいて増殖し、歯肉と歯槽骨に炎症が波及します。
歯周病になりやすい要因は何ですか?
糖尿病、喫煙、歯ぎしり、肥満、不規則な食生活、不適合な冠および義歯、遺伝などです。
出典:日本臨床歯周病学会
どんな種類の細菌が原因になっていますか?
口の中には、多くの細菌の種類があります。代表的な細菌として、グラム陽性桿菌であるアクチノマイセスがあり、歯垢内で病的に増殖すると歯肉炎を引き起こします。
病気が進行して歯周ポケットができると、嫌気性細菌が増殖しやすい環境になります。そのため、歯周炎になると、グラム陰性の嫌気性桿菌が病状を悪化させます。
症状について
初期の段階では自覚症状がないので、次のような症状があるかチェックしてみましょう。
- 歯茎が腫れて、赤くなっている。
- 歯肉が出血しやすい。
- 口臭がひどい。
- 噛むと痛い。
- 知覚過敏がある。
- 歯肉が下がって、歯の根元が見える。
- 歯がグラグラする。
歯周病を放置すると、健康にどんな悪影響を及ぼしますか?
歯周炎の原因である細菌の毒素が歯肉の血管を介して全身に入ると、末梢血管の内皮に炎症を引き起こします。その結果、動脈硬化が生じて、狭心症・心筋梗塞、脳梗塞の発症に関係している可能性が指摘されています。
出典:Periodontitis and General Health – British Society of Periodontology and Implant Dentistry
歯周病菌から発生する毒素は、インスリン抵抗性の原因になります。そのため、血糖値が上昇しやすくなったり、糖尿病が発症しやすくなります。
出典:糖尿病情報センター
合併する睡眠障害の特徴
歯周病に関係している睡眠障害の特徴は、不眠です。十分な睡眠がとれていないと、自律神経の変化によって唾液の分泌量が少なくなったり、免疫力が低下します。その結果、口腔内の細菌が発生しやすい条件になり、歯周病が発病しやすくなると考えられます。
睡眠不足、不眠は糖代謝異常、インスリン感受性の低下と関係しています。そのため、歯周病は2型糖尿病の発症に関与している可能性があります。
糖尿病は歯周病の危険因子であることが知られています。一方、歯周病に罹患すると糖代謝異常が発生しやすくなります。そして、糖尿病の人に歯周病の治療を行うと、血糖コントロールの改善に役立ちます。
出典:Preshaw et al. Periodontitis and diabetes: a two-way relationship. Diabetologia. 2012;55:21-31.
以上のことから、睡眠障害、糖尿病、歯周病の三つの病気は、密接に関わっていることを知っておく必要があります。
一つの病気を発見して治療するだけではなく、関連した病気についても、評価を受けておくことが望ましいです。適切な治療を受けるためには、医科と歯科の連携が大切です。
歯周病と睡眠時無呼吸の関係について
米国で行われた大規模な疫学調査によれば、睡眠時無呼吸は重症の歯周炎と有意に関係していることが判明しています。特に若い世代では、軽症の睡眠時無呼吸があると歯周炎が合併しやすいようです。
加齢、喫煙、歯科クリニックへの訪問回数が少ないこと、そして、不適切な口腔衛生などは、歯周炎の発症と関連することが知られていますが、閉塞型睡眠時無呼吸も歯周炎の発症に影響している可能性があります。
睡眠時無呼吸があると、健常者と比較して睡眠の質が低下します。ぐっすり眠れないことで、免疫力の低下が起きること、そして、全身性の炎症が生じることから、歯周病菌の感染が成立しやすくなっていかもしれません。
睡眠時無呼吸に鼻閉が併発すると、鼻呼吸より口呼吸になります。その結果、口呼吸による唾液分泌の減少と口腔内の乾燥が歯周病の原因になっている可能性があります。
いびきをかいている人は、歯周病の有無について診察を受けておくことを勧めます。
ところで、軽症あるいは中等症の閉塞型睡眠時無呼吸の治療として、口腔内装置があります。歯周病によって、歯が喪失してしまうと、睡眠時無呼吸の治療の選択肢が少なくなる懸念があります。ゆえに、日頃から歯の健康を保つことは大切です。
診断の方法
歯科医師による問診、視診、触診、歯周ポケット検査、レントゲン検査などが行われます。
歯科では、どのような診察をされますか?
歯と歯肉の状態、プラークの程度、噛み合わせ、顎骨の状態などを評価します。そして、歯周病が発症しやすい危険因子(年齢、糖尿病、喫煙歴、循環器疾患など)について調べます。一連の診察の内容は、包括的歯周検査と呼ばれています。
出典:Comprehensive Periodontal Evaluation (CPE) – American Academy of Periodontology
治療について
歯周病が疑われるときは、最寄りの歯医者さんに相談することを勧めます。
どのデンタルクリニックが歯周病の診療を専門的に行っているか分からないときは、 日本歯周病学会の認定医・歯周病専門医のリストが参考になります。
基本的には、歯みがきの指導、プラーク、歯石の除去を行います。重症の場合は、外科治療が検討されます。
糖尿病、心臓病などの合併症については、かかりつけ歯科と連携している内科に紹介してもらってください。睡眠障害の症状がある場合は、睡眠専門医による診察を考えましょう。
予防について
歯周病にかからないためには、日々の歯みがきの徹底が大切です。歯ブラシの選択、ブラッシング方法については、かかりつけ歯科に指導してもらうことを勧めます。
出典:日本歯科医師会
基本的には、口の中を清潔にして、歯周病菌を減らすことが大切です。
生活習慣の改善も大切です。タバコを吸う習慣のある人は、禁煙を勧めます。食生活では、糖分の多い飲み物や菓子類の取り過ぎに注意しましょう。