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いびきをかきやすい人は遺伝が原因なのか?
いびきは遺伝で親から子へ受け継がれるのか?
家族の中で眠る夜、静けさを破る大きないびきの音が気になりませんか。もしかしたら、あなたの親や祖父母も、いびきをかいているかもしれません。
家系を通じて、いびきをかく人が多いと、「いびきは遺伝するのか?」と疑問を抱くのは自然なことです。たしかに、親から子へと遺伝子を引き継ぐので、私たちの体質や骨格が家族間で似ることはあります。しかし、いびきが発生する理由として、体型や骨格の遺伝の影響だけではなく、食生活、運動などの生活習慣も関わっています。
このブログ記事では、いびきと遺伝の繋がりを深く掘り下げていきます。体質や家系がいびき発生に関与するメカニズムを知ることで、「どのようにしていびきに向き合っていけばよいか」について理解を深めます。それでは、より良い睡眠への道を一緒に探求しましよう
いびき発生のメカニズム
いびきは、睡眠中に呼吸するときに発生する音で、鼻やのどの空気の通り道が狭くなることで生じます。気道が部分的に閉塞することでいびきは出現しますが、原因は様々です。
代表的なものを挙げると、肥満、顎顔面形態の異常、アルコール、鼻の問題、口蓋扁桃の肥大などがあります。その中で、肥満と顎の形態は、家系的に影響を受けている場合があり、上気道の狭小化に関係しています。
このような背景は、睡眠時無呼吸症候群という病気を考えるときに、家族歴の情報が診療に役立つことを示唆しています。
遺伝といびきの関係性
結論から言うと、いびき自体は遺伝することはありません。しかし、いびきの傾向が家族内で見られることはあります。一つの理由として、顎の構造、喉の解剖学的な要素、肥満などの身体的特徴が、親から子へと受け継がれる可能性があります。
私が担当する睡眠外来において、親子がいびき治療を希望するケースにおいて、彼らの骨格が似ているという経験があります。
体質の要因に加えて、後天的な環境要因や生活習慣がいびきの発生に大きく関わっています。例えば、肥満や運動不足はいびきのリスクを高めることが知られており、これらの要因は先祖から受けついた体質と相互作用することで、いびきのリスクをさらに高めるかもしれません。
1.肥満
肥満は、のどの周囲の脂肪が増え、気道を狭めることでいびきのリスクを高めます。この体質的傾向は、家族間で共有されることがあり、遺伝的要素が影響していることを示唆しています。
肥満があると、睡眠時無呼吸症候群の発症リスクが高くなります。特に中年以降に影響を受けます。たしかに、中年太りの問題に悩まされている人を見かけることは多い印象です。体重および体脂肪の分布は、遺伝的に制御を受けていることが報告されています。この知見によれば、家系的に睡眠時無呼吸症候群が発症しやすい傾向があること、そして、病状の症状として現れるいびきについても関連がある可能性を示唆しています。
出典:Mukherjee et al. The genetics of obstructive sleep apnoea. Respirology. 2018 ;23:18-27.
睡眠障害に関する大規模な遺伝的研究は少ないですが、家族や双子を対象とした医学研究では、睡眠時無呼吸と肥満の間の遺伝的な関係が報告されています。
肥満は睡眠時無呼吸の危険因子ですが、体重が10kg増えることに睡眠時無呼吸の発症率が6倍に上昇します。遺伝子解析の調査結果では、無呼吸低呼吸指数(AHI)とBMIの両方に関与する遺伝子座が特定されました。
上記のデータを考察すると、睡眠時無呼吸症候群の症状として現れる「いびき」が肥満との間に間接的に遺伝的な関わりがある可能性を示しています。もちろん、肥満については、家系的な要因だけではなく、育った家庭での生活習慣も関与していることは言うまでもありません。
2.顎の形態
いびきの発生において、顎の形態は上気道の狭小化に関わる要因の一つです。特にアジア系では、小さい顎、下顎が後退している骨格の要因が、睡眠時無呼吸症候群の発症にも関与しています。
親子の顔立ちが似ていることはよくありますが、顎の形態は親から子へと遺伝することが多いです。家族内でいびきをかく人が複数いる場合、その原因の一つとして骨格が考えられます。
出典:閉塞性睡眠時無呼吸は遺伝する? – ResMed SleepSpot
顎の形態に起因するいびきの問題は、遺伝的要因に加えて、生まれてから思春期までの食習慣および咀嚼回数と嗜好性も関わってきます。つまり、成長過程での環境要因や生活習慣が影響していると考えられます。
人類が咀嚼を意識しない食習慣が続くと、もしかしたら、未来の人類において顎の縮小が進んでいく可能性もあります。そして、そのことは小顎によるいびき発生が増える可能性があると、筆者は推測しています。
私たちの睡眠外来でも、いびきを訴えて来院される人の初診時に、必ず顎の形態を確認しています。なぜなら、顔の形を評価することは、有効な治療法の選択に役立つからです。
子どもの場合は、どんな要因がいびきに関係していますか?
小児の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の原因として、扁桃肥大が多いです。ただし、扁桃のサイズと睡眠時無呼吸の程度との間に実質的な相関関係は立証されておらず、扁桃肥大以外の要因も関わっているようです。一方で、遺伝的原因を指摘している研究者もいます。米国の研究チームが、ヨーロッパ系アメリカ人およびアフリカ系アメリカ人の閉塞性睡眠時無呼吸症候群のリスクに関連する染色体上の遺伝子座を特定しました。今後、研究に用いられたサンプル数が多くなれば、より多くの遺伝子マーカーが同定される可能性があります。
遺伝的要因を考慮した場合の対処法
家系的な要因がいびき発生に影響を及ぼす場合でも、一般的な場合と同様に、生活習慣の改善から始めましょう。基本的には、閉塞性睡眠時無呼吸の治療管理と同じです。肥満はいびきの大きなリスク要因であるため、健康的な食事と定期的な運動による体重管理が効果的です。
食生活は各家庭によって傾向が異なることは当然ですが、大食が多い、食事の時間が遅い場合は、体重が増える要因になります。その結果、睡眠時無呼吸症候群の発生が高くなり、いびきをかきやすくなります。
当たり前のことですが、いびき対策のために肥満の予防は大切で、食習慣の見直しを図ることが大切です。間食は控えめにして、夕食を就寝時刻の3時間前までに済ませることが理想です。もちろん、就寝前のアルコール摂取を避けることも、いびき対処に役立ちます。
寝る姿勢について、簡単なアドバイスはありますか?
自宅でできる簡単な対策として、横向きに寝ることを勧めます。なぜなら、仰臥位で寝ると、重力の影響のため舌が後方に落ち込み、咽頭が閉塞しやすくなるからです。寝具店で横向きを促す抱き枕が販売されています。
医療機関で受けられる治療手段としては、中等症から重症の睡眠時無呼吸症候群の診断があれば、CPAP治療があります。これは、加圧された空気を鼻から気道に送り込むことで、睡眠中に上気道を拡大させて空気の流れを確保する仕組みです。夜中にCPAPのマスクを装着することで、いびきを消失させることができます。
軽症から中等症の睡眠時無呼吸症候群に対しては、口腔内装置が用いられます。特に、下顎後退がある人に対して効果を発揮します。下顎の位置を前方に誘導することで、上気道を拡げる働きがあります。携帯性に優れるという利点があります。
顎顔面形態が睡眠時無呼吸の要因になっており、根治療法を望んでいる場合は、顎の手術を考える場合もあります。口腔外科において、手術適応の検討を要します。
出典:睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020 – 日本呼吸器学会
耳鼻科の病気による上気道の狭窄が考えられる場合は、耳鼻科の手術について検討します。小児の場合は、口蓋扁桃肥大あるいはアデノイド肥大がいびきの原因となっていることが多いので、手術が考慮される場合が多いです。
子どもの場合では、先ほど述べた扁桃肥大の問題の他に、顎の発育、咬み合わせの問題があるかも注意しなければなりません。
小下顎症あるいは過蓋咬合がみられると、口腔内のボリュームが小さくなるので、舌が後方に逃げやすくなります。その結果、いびきをかきやすくなります。骨端線が閉鎖されるまでに対処しないと、いびきをかきやすい顎顔面形態が続くことになります。
成長過程にある小児期から思春期において、顎、咬み合わせの問題がないか、睡眠医療に精通した矯正歯科の診察を受けることを勧めます。