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夢遊病はなぜ起きるのか?【夜間の異常行動の要因】
夢遊病とは何か?

夢遊病とは、睡眠中に起き上がって歩き回るなどの行動を無意識に行う状態で、「睡眠時遊行症」とも呼ばれます。主にノンレム睡眠中に発生し、本人にその行動の記憶がないのが特徴です。つまり、不完全に覚醒した状態と言えます。
夢遊病は子どもに多くみられますが、大人や高齢者にも発症することがあります。夢を見ながら動いているわけではなく、脳の一部が覚醒し、体が動いてしまう現象です。睡眠障害の一種であり、ストレスや睡眠の質、脳の発達や老化など、いくつかの要因が関係しています。
夜間に睡眠に関係して発生する異常行動はパラソムニアという総称で呼ばれています。今回はその中の一つ、夢遊病の原因に焦点を当てて、その原因を解説します。
出典:Howell MJ. Parasomnias: an updated review. Neurotherapeutics. 2012;9(4):753-75.
なぜ夢遊病の症状が現れるのか?

夢遊病の主な原因は、脳の覚醒と睡眠のバランスが崩れることです。特にノンレム睡眠中に脳の一部が中途半端に目覚めることで、無意識に体が動き出すと考えられています。特に、ノンレム睡眠の中でも、深い眠りであるN3の睡眠段階に起こります。
子どもに多いのは、脳がまだ未発達で、睡眠と覚醒を調整する働きが不安定なためです。思春期までに病状が落ち着くことが多いですが、発熱、強いストレスや精神的な緊張感、睡眠不足、疲労などが引き金になって発症することあります。
一方、大人の場合は、アルコールや睡眠薬の影響、うつ病、他の睡眠障害が関連するケースもあります。仕事のストレスによって起きる事例もあります。
【年齢別】夢遊病の原因と特徴について

1. 子ども(幼児〜小学生)
小児期に夢遊病が見られる理由は、脳の睡眠と覚醒を調節する機能がまだ発達段階にあるからです。成長期には深い眠り(ノンレム睡眠)が多く、その睡眠段階において部分的に覚醒した、あるいは、目覚めたときに起こります。
日中の活動量が多かったり、夜更かしや生活リズムの乱れがあると、症状が起きやすくなります。また、子どもの親が夢遊病になったことがあると、子どもにも発症しやすく、遺伝的な要素も関わっています。
子どもの睡眠障害の中で、睡眠外来においてよく受ける相談の一つですが、てんかんとの鑑別を要します。
2. 中学生・高校生
思春期の中高生では、精神的ストレスや不規則な睡眠リズムが夢遊病を引き起こす大きな要因になります。受験勉強、進路、部活、人間関係の悩みなどが心理的な負荷となり、眠りが浅くなることで夢遊病が発症しやすくなります。
また、スマホの長時間使用や寝る直前まで操作していると、脳を刺激し睡眠の質を低下させ、夜間の異常行動が起きることがあります。
3. 大人・高齢者
成人や高齢者の夢遊病は、仕事のストレスや過労、アルコール摂取、内服薬の副作用などが原因になることが多いです。薬の種類として、睡眠薬や抗うつ薬は夢遊症状を誘発することがあります。
さらに、うつ病、不眠症、パーキンソン病などの精神疾患あるいは神経変性疾患が背景にあるケースもあります。高齢者の場合は、認知症やせん妄との鑑別が必要になります。
夢遊病になりやすい人の特徴とは?

夢遊病は誰にでも起こりうる可能性がありますが、なりやすい傾向にはいくつかの共通点があります。まず、家族に夢遊病になった人がいる場合、遺伝的な要因で発症しやすいとされています。
どちらかというと、不安の傾向が強い人や感受性の高い人、神経質な性格の人は、睡眠の質が不安定になりやすいため、夢遊病の症状が現れるリスクが高まります。
生活習慣では、寝不足や不規則な生活、大きなストレスを受ける状況が続くと発症しやすくなります。以前、交代勤務のときに症状が現れた事例を経験したことがあります。その他、寝酒の習慣や睡眠薬の影響もあります。
原因別の対処について

夢遊病を対処するためには、原因に応じたアプローチが必要です。家庭でできることとしては、規則正しい生活リズムを整えること、十分な睡眠をとること、寝室の環境を静かで安全に保つことが基本となります。歩行して外に出ていかないように、窓とドアはしっかりと施錠する必要があります。
ストレスの原因を明らかにして、心の負荷を軽くするような心身のケアも大切です。子どもの場合は自然に治ることが多いため、経過観察となることが殆どです。しかし、怪我の危険があるときは、薬物療法を検討します。
成人になってから、夢遊病の症状が何度も現れるときは、精神科や睡眠外来への相談を勧めます。医師の診察の上で、他の睡眠障害の治療、薬物療法、あるいは認知行動療法が選択されます。
出典:Sleepwalking & Sleep Talking – AASM