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夫婦別の寝室を選ぶと睡眠の質は改善されるのか
睡眠離婚の意味は?

睡眠離婚とは、夫婦が別々の寝室で寝る生活スタイルを意味する言葉です。最近になって、SNSやメディアでも取り上げられるようになり、共感の声が広がっています。
特に、パートナーの大きないびきや寝相の問題、就寝時間のズレなどによる不眠やストレスが原因で、夫婦が快適な睡眠を求めて寝室を分けるケースが増えています。
離婚というと言葉が入っているのでネガティブな印象を受けます。しかし、実際は二人の関係が悪化しているのではなく、むしろ夫婦が良い眠りをとるための前向きな選択として注目されています。
このページでは、睡眠離婚の意味や背景、メリット・デメリットを整理しながら、夫婦関係と快眠のバランスを考えていきます。
睡眠離婚を選ぶ夫婦が増えている理由

寝室を分けて眠るスタイルが増加している原因は、お互いの睡眠の質を守るためです。かつては「夫婦は一緒の部屋で寝るべき」という価値観が一般的でした。しかし、最近になって、それぞれの睡眠の質を大切にしたいという流れが強まっています。
米国睡眠医学会が行った調査によれば、3分の1以上の人が、ベッドパートナーのために、いつも、または時々、別の部屋で寝ているという実態が明らかになっています。
出典:Over a third of Americans opt for a “sleep divorce” – AASM
同じ部屋で寝ているパートナーの激しいいびき、寝言、同じベッドで寝ているときの寝返りの影響があると、寝付けなかったり、浅い眠りになったり、睡眠が妨害されてしまいます。
共働き家庭では、仕事や育児によって生活リズムが異なり、一緒に寝ることでお互いに無理が生じてしまいます。そこで、夫婦の話し合いのもと、寝室を分けて気兼ねなく眠れる環境を整えたいと思います。
睡眠離婚に至るきっかけとなる睡眠の問題
いびきと寝返りによる中途覚醒
睡眠離婚の最大の原因は、パートナーのいびきや激しい寝返りによる騒音と振動です。これらが原因となって深夜に何度も目が覚める中途覚醒が起こり、深い眠りが妨げられてしまいます。つまり、不眠が問題となります。
同じベッドの隣で寝ているパートナーから発生しているいびきの爆音は、大きなストレスになります。その気配があるだけでも生理的に受け付けることができないという声も聞いたことがあります。睡眠外来での聞き取りでも、旦那のいびき問題で相談するケースは少なくありません。
その一方、いびきは音の問題であると同時に、本人の体への悪影響もあります。放置してはいけない睡眠時無呼吸症候群の可能性もあります。
無意識の音による刺激
寝言や歯ぎしりは本人に悪気がない無意識の行動ですが、音がパートナーの睡眠を妨げます。特に寝言は不規則に発生するため、眠りが浅くなったタイミングで突然の声に驚かされ、途中で目が覚める要因になります。
寝息のリズムが気になって眠れないという方も意外に多く、静かな環境で眠りたいタイプの方にとっては、不眠を引き起こすこともあります。
それからもう一つの問題として、睡眠中に無意識に発せられるうなり声があります。いびきとは異なる音ですが、聞いている側に精神的な不安や不快感をもたらすことがあります。カタスレニアと呼ばれています。
生活リズムのズレが生む睡眠トラブル
就寝時間や起床時間のズレも、睡眠に影響します。一方が夜型、もう一方が朝型という「睡眠リズムの違い」は、深刻な問題となります。
夜型の方が遅く寝室に入ってくる音や明かりのために、早寝したい朝型の方が起こされたり、朝型の方の早い起床の準備で夜型の方の睡眠が妨げられたりと、お互いの睡眠リズムのミスマッチが生じてしまいます。つまり、良い睡眠をとるための寝室環境が安定しないことが原因となっています。
特に、交代勤務・夜勤の仕事をしているカップルでは、同じ寝室であると睡眠リズムが異なります。
睡眠障害があるときのパートナーの影響
不眠症やストレスによって起きている入眠困難など、自分自身に睡眠障害がある場合、パートナーのわずかな動きや音が引き金となって、睡眠が悪化することがあります。
例えば、神経が敏感になっている状況では、普段なら気にならない寝返りの音や寝息でさえ、眠りを妨げる要因となってしまいます。
現代に多い睡眠の妨害要因
睡眠の質を低下させる要因として注目されているのが、スマートフォンの使用です。2010年代以降、スマホは家庭内でも広く普及し、寝る前に操作する人がいます。しかし、スマホの画面から放たれるブルーライトは、眠気を促すホルモンであるメラトニンの分泌を抑えるため、入眠が遅れたり、眠りが浅くなったりする原因になります。
夫婦で同じ寝室を使っている場合、片方のスマホ使用による画面の明るさがもう一方の睡眠を妨げるケースもあります。たとえ無音であっても、光そのものが刺激となり、知らず知らずのうちに快眠を阻害しているのです。
体感温度の違いが生む不調和
寒がりと暑がりの夫婦の場合、エアコンの温度設定や布団の厚みをめぐって環境設定の調整が難しくなる場合があります。どちらかが我慢を強いられる状況が続くと、睡眠の質が低下し、体調不良や日中のパフォーマンス低下につながります。
夜間の生理現象による睡眠妨害
夜間頻尿があるパートナーがいる場合、布団の出入りの音や明かりの点灯、扉の開閉音、廊下を歩く音が繰り返され、そのたびに睡眠が妨げられます。頻尿の問題は加齢とともに増えるものです。しかし、若い世代でも、飲み会の後に、アルコールの影響によって何度もトイレに行くことがあります。
メリットについて

睡眠離婚には、心身の健康を保つための多くのメリットがあります。最も大きな利点は、良質な睡眠が得られることです。ベッドパートナーのいびきや寝返りに悩まされることなく眠れることで、翌日の集中力やパフォーマンスが向上し、日中のストレスも軽減されます。つまり、パートナーが発生させている音、光、振動から解放されるのです。
海外の報告によれば、睡眠離婚をすることで睡眠時間が最大30分くらい長くなり、約半数の人において眠りの質が改善したようです。
出典:Is It Time for a Sleep Divorce? – Jefferson Health
睡眠不足によるイライラや不機嫌が減ることで、夫婦間の小さな衝突も避けられるようになります。さらに、自分だけの空間を持つことでリラックスでき、心の平穏にもつながります。これまでの生活にあったような「今日もうまく眠れるかな」という不安感がなくなります。
デメリットについて

睡眠離婚には良い点ばかりではなく、いくつかの欠点もあります。多くの人が心配されているのは、スキンシップや就寝前の会話といった夫婦の自然なふれあいの機会が減ることです。これにより、関係の希薄化やセックスレスにつながるリスクもあります。
また、寂しがり屋の場合、寝室を分けることが「パートナーから距離を置かれている」と感じる懸念があります。特に新婚の場合は問題になりがちで、意図せぬ誤解や不安を招く事例もあります。
このような点については、二人での事前の十分な話し合いが大切です。睡眠離婚は単なる「寝場所の問題」ではなく、夫婦の信頼関係を保つための一つの選択肢であることを理解してもらうことから始めましょう。
医師に相談すべきタイミングとは

睡眠離婚を考えるほどの睡眠に関わるトラブルがある場合、まずは睡眠専門医や睡眠外来に相談することも選択肢の一つです。
たとえば、いびきがあまりに大きい、うなり声や呼吸の停止がある、激しい寝言があり寝相がひどい場合は、睡眠の病気が背景にあるケースがあります
また、夫婦間で睡眠に関するストレスが蓄積し、二人の関係に影響が出始めているなら、第三者である医師に話を聞いてもらうと気持ちが楽になるかもしれません。そして、解決の糸口が見つかる可能性もあります。できれば、パートナーと一緒に受診し、双方の視点から状況を整理することを勧めます。
まとめ
睡眠離婚という言葉に対して良くない印象を受けるかもしれませんが、実際には夫婦関係を良好に保つための建設的な判断です。もしかしたら、将来、もっと適切な用語が生まれるかもしれません。
しかしながら、無理に同じベッドで眠り続けてストレスや睡眠不足を抱えるよりも、それぞれが快適に休める環境を整えることで、二人の関係がより円満になる可能性があります。
大切にしたいのは、「離れて寝ること=心の距離」としないための工夫と対話です。定期的に時間を作って自分の気持ちを伝えたり、日常のスキンシップを大切にしたりすることが大切です。その点をクリアできれば、別々に寝るという選択肢は、夫婦それぞれの快眠につながる可能性もあります。