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パーキンソン病で眠れない理由は?睡眠異常の種類
はじめに
パーキンソン病はドパミン神経細胞の変性による運動症状だけではなく、認知機能の低下、自律神経障害、精神症状、睡眠障害などの非運動症状がしばしば見られる病気です。
パーキンソン病の人は、毎日の睡眠に大きな影響が出ていることが多く、具体的な症状として、寝つきが悪い、途中で目が覚める、昼夜逆転、寝言などの睡眠異常が生じます。

眠りに関係している症状は、パーキンソン病の病態と関わる大切な側面ですが、気づいていない人もいるかもしるかもしれません。睡眠の質の低下は、病状のみならず患者の生活の質に大きな影響を与えます。したがって、睡眠障害の理解と対応はパーキンソン病の療養にとって不可欠です。
このページでは、パーキンソン病を発症した人、そして、そのご家族、介護する人が知っておきたい「パーキンソン病と睡眠の関係」について、解説していきます。
パーキンソン病になると睡眠障害が起こる理由
パーキンソン病では黒質‐線条体系を中心としたドパミン神経の変性が進行し、運動症状だけでなく睡眠と覚醒の調節をしているシステムも障害を受けます。
睡眠中枢に関係する脳幹や視床下部の神経回路が影響を受けると、入眠困難や中途覚醒、早朝覚醒といった睡眠障害が生じやすくなります。

治療薬の副作用や夜間の痛み、頻尿なども睡眠を妨げる要因となります。パーキンソン病の人が抱えている睡眠障害は複数の要因が絡み合っており、一つではないことが分かっています。
出典:野村 哲志 他; < Symposium 032 > 神経疾患における睡眠障害 パーキンソン病と睡眠障害, 臨床神経学;54(12):987-990,2014
睡眠障害の種類と症状
パーキンソン病に併発している睡眠障害は種類がさまざまです。一人に複数の睡眠の病気が合併していることが珍しくありません。
主な病名として、不眠症、過眠症、レム睡眠行動障害、むずむず脚症候群、睡眠時無呼吸症候群、概日リズム睡眠・覚醒障害などがあげられます。

睡眠障害が現れるメカニズムは、病気の進行や治療薬の影響に起因し、生活の質の低下、日中の活動の影響、認知機能の低下につながります。また、夜間の異常行動があると、近くで寝ている人および介護している人にとって不安が募り、これから先どうすれば良いかと心配になってしまいます。
パーキンソン病において、睡眠障害は単独で発生する場合もありますが、他の非運動症状を併発してみられることが多いです。さまざまな眠りの問題と非運動症状が同時に発生していることが、パーキンソン病における臨床症状の特徴です。
パーキンソン病とレム睡眠行動障害の関係とは?
レム睡眠行動障害は夢の内容に反応して体を動かしたり、激しい寝言を出したり、夜間の異常行動をきたす睡眠障害です。夢遊病と同じカテゴリーに属している病気で、睡眠時随伴症の一種です。この病気は、パーキンソン病に併発することが多いと報告されています。
国内外の医学研究では、パーキンソン病の約25〜50%がレム睡眠行動障害を呈することが報告されており、この病気は見落としてはならない睡眠関連の合併症の一つです。その他、高齢の患者では有病率が高くなることが報告されています。

知っておきたいポイントとして、レム睡眠行動障害があると、パーキンソン病やレビー小体型認知症の前駆症状として現れる可能性が高い点です。特に、加齢の影響も考えられるので、高齢になったときにレム睡眠に関連した体動と激しい寝言があるときは、病気の早期発見につながります。
レム睡眠行動障害の人がパーキンソン病になる確率
孤発性のレム睡眠行動障害(他の神経の病気がない状態)の人のうち、長期追跡で多くがパーキンソン病やレビー小体型認知症などの認知症に関連する病気を発症することが明らかになっています。
大規模研究では、「レム睡眠行動障害を有する人の約73.5%が12年以内にαシヌクレイノパシー(パーキンソン病など)を発症する」と報告されています。つまり、レム睡眠行動障害の存在は、将来のパーキンソン病の発症リスクが高いというサインとなることを意味します。

上記の知見を簡単にまとめると、夢の内容に反応して体を動かしたり、大声で怒鳴ったり、異常行動があるなら、まずは、レム睡眠行動障害の可能性を疑い「睡眠専門医による評価」を受けることが大切です。そして、軽度認知障害があれば、早めに対策をしましょう。
睡眠時無呼吸症候群の併発について
パーキンソン病を発症している人では、閉塞型の睡眠時無呼吸症候群を併発する割合が比較的高いと報告されています。
睡眠時無呼吸症候群は上気道の閉塞が原因となって断続的な低酸素血症を引き起こし、異常覚醒が多発します。その結果、睡眠の質を大幅に低下させます。パーキンソン病の人に睡眠時無呼吸症候群が多い理由として、筋機能の低下や神経調節異常など複数の要因が関わっていると考えられています。
繰り返し起きる夜間の覚醒は、日中の眠気、認知機能の低下を引き起こし、生活の質を低下させる理由になるので、終夜睡眠ポリグラフ検査による診断が大切です。また、睡眠時無呼吸症候群はパーキンソン病の運動症状および非運動症状を増悪させるので、治療を検討する必要があります。
日中の眠気と居眠りの関係
パーキンソン病があると、夜間の睡眠が断片化が生じて睡眠の質が低下します。睡眠と覚醒を調節している部位の障害や治療に用いられる薬の副作用により日中の過度な眠気が生じることがあります。半数くらいの方に、日中の過度の眠気があると推測されています。
パーキンソン病の治療で使用される薬剤の副作用として眠気がひどくなる場合もあり、突発的な睡眠発作や居眠りが日常生活に支障をきたすことがあります。
家族と一緒に睡眠外来に相談にみえる例でも、眠れないという主訴もありますが、寝てばかりという悩みを話されるケースが少なくありません。日中の過度な眠気は安全性の問題にも直結するため、薬物の調整や睡眠の質を改善するための対処が必要です。
出典:鈴木 圭輔 他; シンポジウム11:神経疾患による睡眠障害とその対策 Parkinson病関連疾患の睡眠障害, 神経治療学;35(4):545-552,2018
パーキンソン病の睡眠障害への対応
パーキンソン病にみられる睡眠障害の治療管理として、睡眠衛生の徹底や生活リズムの見直しが基本となります。
就寝と起床時刻を一定にすること、寝室環境の整備、就寝前の刺激物(アルコール、カフェイン)を制限することは、眠りの質を向上させるのに役立ちます。

不随意運動に対して治療薬の調整を行うほか、レム睡眠行動障害やむずむず脚症候群などの特異的症状にはそれぞれに応じた治療が行われます。その他、睡眠時無呼吸症候群が併発しているときは、低酸素血症がパーキンソン病の病状を悪化させるリスクがあるので、適切な治療が必要になります。

未治療の睡眠時無呼吸症候群があると、パーキンソン病の発症リスクが高くなります。そして、CPAP治療を開始することで、発症リスクを減らす可能性があると報告されています。つまり、いびき、無呼吸などの症状があれば、早めに治療を始めることが、病気の予防にも役立つ可能性があるということを示唆しています。


