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眠れない悩みを漢方薬を用いて改善する方法
はじめに
24時間社会が到来して、忙しい生活のストレスで、眠れない悩みはありませんか。不眠症は、子どもから高齢者まで、あらゆる世代にみられます。その中で、働く世代にとって、不眠はさまざまな病気を引き起こすだけではなく、仕事の生産性が上がらないという問題も生じます。
そればかりか、眠れない状況を対処せずに放置すると、日中の集中力低下、疲労感の蓄積、さらにはメンタルヘルスにも深刻な影響を及ぼします。慢性的な不眠は、うつ病や不安障害の発症リスクを高めることが知られています。
不眠で悩んでいる人に中には、市販の睡眠サプリ、あるいは睡眠改善薬などを試している人がいます。医療施設において、不眠を対処するために睡眠導入剤は処方されるケースもあるでしょう。その一方で、薬の依存性が怖いという声もよく聞きます。
ところで、東洋医学的な視点をもって不眠を治すという手段として、漢方薬という選択肢があります。漢方医学は個々の体質や症状に合わせた治療が中心となっており、昨今、自然の生薬を用いた薬を希望されている人がいます。
このページでは、不眠に悩む方々に向けて、漢方医学の知恵を活用した自然な眠りを促す方法に迫ります。具体的には、漢方薬の特徴、メリットとデメリット、注意すべき副作用など、実践的なアドバイスを交えながら、紹介します。
不眠症とは
不眠症は、寝つきが悪い、夜中の途中で目覚める、朝早く目が覚める、十分眠ったはずなのに疲れが取れないなどの問題が生じて、日常生活に支障をきたす病気です。
眠れないという症状に加えて、日中の眠気、集中力低下、イライラ感など、活動時間帯への悪影響が現れており、週に3回以上、続いていうと、不眠症と診断されます。一方、3ヶ月以上続く場合は慢性の不眠症と呼ばれています。
なぜ不眠が生じるかについては、さまざまな要因があります。代表的なものは、ストレス、緊張、不安などの心理的要因です。生活リズムの乱れ、体の病気、こころの病気なども不眠を引き起こします。いずれも、睡眠の質を低下させてしまいます。人によっては、複数の要因が眠れない問題に関わっていることがあります。
なぜ漢方薬が不眠に使われるのか?
漢方薬は、東洋医学の知恵と経験が結集された自然由来の医薬品です。西洋医学の薬とは異なり、複数の生薬を組み合わせて作られています。漢方のレシピの中には、1800年以上前から存在するものもあります。
睡眠薬と違って、直接的に寝かせるような作用はありませんが、体全体のバランスを整えることで、自然な睡眠をとれるようにすることを目的としています。
従来からある睡眠薬と比較して依存性の心配がないという利点もあり、不眠の治療を受けるときに睡眠導入剤を選びたくないという理由が考えらえます。忙しいビジネスマンにおいて、ストレスの不眠が増えており、漢方薬によって入眠前の気持ちを落ち着かせたいという人もいます。
女性の場合
多くの女性が、ライフステージの変化に伴う不眠に悩まされています。生理や妊娠中の身体的変化、更年期障害などが原因で、入眠困難、中途覚醒、および早朝覚醒が生じることがあります。仕事と子育ての両立が引き起こすストレスの影響のため、眠いのに寝れないという女性もいます。
このような状況下で、睡眠薬の使用を避け、より自然な方法で良質な睡眠を得たいと考える女性が増えています。
特に、妊娠中は胎児への影響を考慮し、薬の使用に慎重になります。また、更年期に差し掛かった女性において、ホルモンバランスの変化による不眠に悩まされ、長期的な解決策を求める場合が少なくありません。
上記のような背景から、漢方療法に注目が集まっています。私が診察している睡眠外来でも、不眠の悩みを解消するために漢方薬を選びたいという女性が少なくありません。
睡眠薬と漢方薬の違い
それでは、病院で処方されている不眠症治療薬と漢方薬の違いを紹介しましょう。
西洋医学:睡眠薬 | 東洋医学:漢方薬 | |
---|---|---|
考え方 | 不眠の症状を直接的に抑えることに、焦点を当てます。 | 体全体のバランスを整えることで、体質を改善していく。 |
薬の効き方 | 特定の神経伝達物質や受容体に作用し、睡眠を誘導します。 | 「気・血・水」のバランスを調整し、体全体の機能を改善します。 |
処方の個別化 | 不眠のタイプに基づいて標準化された処方が多いです。 | 個人の体質、体格や症状に合わせて処方を調整します。 |
即効性 | 即効性があり、服用後比較的短時間で効果が現れます。 | 効果が現れるまでに、時間がかかる場合が多いです。 |
副作用 | 依存性や翌日の持ち越し効果などの副作用リスクがあります。 | 一般的に副作用は少ないとされますが、個人差があります。 |
長期使用 | 長期使用に関して注意が必要で、依存のリスクがあります。 | 比較的長期の使用が可能で、体質改善を目指します。 |
科学的根拠 | 厳密な臨床試験に基づいた効果の検証がなされています。 | 長年の経験則による部分が多い。最近ではエビデンスが出ています。 |
複合的効果 | 有効成分が単一なので、主に睡眠の改善に特化しています。 | 不眠以外の症状も同時に改善されることがあります。 |
漢方の利点はたくさんありますが、人によっては効かない場合もあります。その他、漢方は粉薬であることが多く、粉薬が苦手である人にとって、服用が難しいという欠点があります。そのときは、主治医に相談して、依存性の少ない睡眠薬を検討します。
小児の不眠に対して保険適用のある漢方も存在します。成人と同じ用量ではなく、年齢に応じて用量が少なくなっています。
不眠に効果的な漢方薬の種類について
眠れない症状を改善するために処方される漢方にはいくつかの種類がありますが、ここでは代表的な5つの漢方薬を紹介します。
漢方 | 特徴 |
---|---|
抑肝散 | 東洋医学では「肝」を気の巡りや精神状態を司っている考え方があります。司る臓器と考えます。抑肝散は、イライラ、不安、緊張を和らげ、不眠を改善する漢方薬です。自然な眠りを促進し、大人だけではなく子どもにも用いられる漢方です。 |
加味帰脾湯 | 精神的な疲労や不安を和らげ、睡眠の質を改善します。どちらかと言うと、貧血傾向で精神不安のある方が適しています。神経症に対しても効能があり、気分の落ち込み、不安感、集中力の低下などの症状を改善するのに役立ちます。 |
抑肝散加陳皮半夏 | 江戸時代の後期に、抑肝散に改良を加えられて創薬された処方です。イライラや不安による不眠に効果的な漢方で、精神の安定と共に、胃腸の不調も改善し、心身両面から睡眠を向上させる働きです。ストレスによる不眠に使われます。 |
柴胡加竜骨牡蛎湯 | 精神を安定させ、のぼせや興奮を抑えます。男性更年期の対策として、選ばれることが多い漢方です。心身の緊張を和らげて、落ち着いた状態へと導きます。動悸、心悸亢進や不安感を伴う不眠に効果があります。 |
酸棗仁湯 | 神経を鎮め、心を落ち着かせる効果があります。自律神経失調症に伴う不眠にも用いられます。不眠に対して効能がありますが、筆者の経験では、「疲れているのに眠れない」という悩みを抱えている人に向いている印象がみられます。 |
漢方薬の選び方は大切です。なぜなら、漢方は個々の体質や症状に合わせて選択する必要があるからです。
特定の漢方薬が他の人の不眠に効果があったからといって、必ずしも自分にも同じ効果があるとは限りません。
ツムラとクラシエの漢方薬は、どちらが効きますか?
漢方薬の効果に関して、ツムラとクラシエの間に大きな差はありません。両社とも日本薬局方に従い、厳格な品質管理のもとで漢方薬の製造を行っています。同じ処方名の漢方薬であれば、効能・効果も基本的に同じです。むしろ、漢方薬の効果は個人の体質や症状との相性によって大きく異なることを知っておきましょう。製薬メーカーの違いよりも、患者さん一人ひとりの状態に合った漢方薬を選ぶことが大切です。
漢方薬の副作用と注意点
漢方薬は一般的に副作用が少ないとされますが、完全に安全というわけではありません。適正な使用と服用後の注意が必要です。
主な副作用には、消化器系の症状(胃部不快感、吐き気、下痢、便秘)、皮膚症状(発疹、かゆみ)、アレルギー反応(じんましん、呼吸困難、顔面の腫れ)、肝機能障害(疲労感、黄疸、腹痛)、偽アルドステロン症(むくみ、血圧上昇、低カリウム血症)があります。
漢方を服用してから、副作用が発現していないか調べるために、定期的な血液検査を受けましょう。具体的には、肝臓と腎臓、電解質の数値に異常がないかをチェックします。
異変が起きたときは、速やかにかかりつけ医あるいは薬剤師に相談し、適切な処置を受けることが大切です。また、他の薬との相互作用や、妊娠中・授乳中の使用についても、医師の診察を受けてください。