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嫌な夢を引き起こす心理的要因と病気の関係
はじめに
最近、嫌な夢を見続けて眠りが深くならない、夜が怖くなってきた・・・。そんな悩みを抱えていませんか。実は、不快な夢を頻繁に見ることは、あなたの心や体からのSOSサインかもしれません。
私たちの心の状態は、夢の内容に大きく影響を及ぼします。特に、ストレス社会と言われる現代では、仕事や人間関係での緊張、将来への不安など、さまざまな精神的なプレッシャーにさらされています。そうした日々のメンタル面の変化が、知らず知らずのうちに、嫌な夢見体験という形で表れることがあるのです。
継続的に悪夢を見る人の中には、何らかの精神的ストレスや不安を抱えている事例があります。中には、この不快な現象をスピリチュアルなメッセージとして捉える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、嫌な夢の背景には、私たちの精神状態、こころの病気が深く関わっていることもあるのです。
本記事では、嫌な夢を見る理由と精神状態、心理的な背景の関係性、精神医学的な症状との関係について、睡眠専門医が詳しく解説していきます。
嫌な夢が増える精神状態について
1. 強いストレス状態
現代社会で最も多い嫌な夢の原因が、強いストレス状態です。特に、仕事や人間関係における慢性的なストレスは、心理的な負荷がかかった状況は、私たちの睡眠の質に大きな影響を与えます。
日常生活においてストレスが蓄積される例を紹介します。
- 締め切りに追われる毎日
- 上司や同僚との人間関係の緊張
- 家庭と育児の負担
- 金銭的な不安
- 将来の生活への不安
ストレスが継続すると、体内でコルチゾール(ストレスホルモン)の分泌が増加します。コルチゾールは本来、朝に高く夜に低くなる日内リズムを持っていますが、強いストレス状態が続くと、この自然なリズムが乱れてしまいます。
交感神経も緊張するので、眠りの質の低下が生じます。深い眠りが減少し、途中で目が覚める中途覚醒が多くなるため、睡眠が浅くなりがちです。その結果、嫌な夢を見ることが多くなるでしょう。
出典:Stress Dreams: Why Do We Have Them ― and How to Stop? – Cleveland Clinic
夢の内容として精神状態が反映されたものが多くなり、ストレスによって不安や緊張を反映した夢が増えます。具体的には、ネガティブな内容の夢や、仕事や対人関係に関連する嫌な夢を見る頻度が高まります。
嫌な夢を見るのは大人だけでなく、子どもにもよくあることです。受験や進路の悩み、友人関係、家族間の対立などのストレスが、不快な夢に影響を与えています。
2.不安やプレッシャーの増大
嫌な夢が増える二つ目の要因として、不安感やプレッシャーがあげられます。それらが、睡眠構築の変化に影響を及ぼしています。
不安な夢の増加は、脳内の神経伝達物質のバランスの乱れと密接に関連しています。特にストレス下では、セロトニンやノルアドレナリンの分泌が変化し、それが睡眠の質や夢の内容に影響を与えます。そして、レム睡眠(夢を見やすい睡眠段階)が増加することで、リアルな夢を見やすくなるのです。
もちろん、複数の要因が関わっている事例も少なくありません。
不安の要因 | 具体例 |
---|---|
仕事 | 締め切り、納期に追われる、仕事量が多い、プレゼンでの失敗、上司に叱責される、会議に遅刻する |
人間関係 | 職場の人から無視される、家族との言い争い、過去の喧嘩、孤立する、失恋、大切な人が去っていく、離婚、浮気の問題 |
将来 | 重要な試験の失敗、道に迷う、乗り遅れる、転落する、階段から滑り落ちる、老後の問題、生活の設計 |
心に重くのしかかる不安は、精神状態を悪化させ、睡眠サイクルの乱れにつながります。夜、ベッドに入っても、頭の中で次々と考え事が浮かんでは消えていく。体は疲れているのに、緊張がとれず、寝つきの悪さに焦りを感じてしまいます。
やっと眠りについても、嫌な夢に悩まされ、何度も目が覚める。眠りが浅くなります。その結果、日中の生活にも影響を及ぼし始めます。仕事や勉強面でのパフォーマンスが低下し、それがまた新たな不安やプレッシャーを生み出すという悪循環に陥ることが少なくありません。
3.うつ傾向
うつ病と睡眠には密接な関係があり、嫌な夢の増加は、うつ傾向の重要なサインの一つです。抑うつ症状によって、睡眠の質が大きく変化し、それに伴って不快な夢を経験する人がいます。
暗い色調、喪失や永遠の別れの場面、自責の念に苛まれる夢などが現れる症例を経験したことがあります。うつ病には何らかの睡眠障害が併発することが多く、その多くが不眠です。そして、悪夢に悩まされるケースもあります。特に明け方近く、レム睡眠が増加する時間帯に、生々しい悪夢に襲われることがあります。
悪夢を見る患者さんは、見ない方に比べて、自殺について考えたり、衝動に悩まされたりすることが多いという報告もあります。
脳内の神経伝達物質セロトニンとノルアドレナリンのバランスが崩れることで起こる現象です。セロトニンの減少は睡眠の質を低下させ、特にレム睡眠を増加させる傾向があります。また、精神的な負荷がかかり、コルチゾールの分泌が乱れ、早朝覚醒や不安な夢を引き起こします。
うつ病に併発しやすい眠りの問題は次の通りです。
- 寝つきが悪くなる
- 早朝覚醒(予定より早く目が覚める)
- 中途覚醒が増える
- 熟睡感がなくなる
- 過眠(日中も強い眠気が続く)
夢は、日中の思考や感情を夢という形で映し出されることがあります。うつ病を抱える方の体験談を聞き取りしたところ、大切な人との別れの場面や、これまでの人生での後悔、仕事や学業での失敗経験などがありました。
人によっては、現実感のある重たい感情を伴う夢を経験することもあります。
嫌な夢に関わっている心理的な背景として、「自分はダメな人間だ」「周りに迷惑をかけている」といった自己否定的な思考、過去の出来事を必要以上に悔やむという精神状態も影響している可能性があります。具体例として、喪失や別れ、無力感や絶望感、昔にあった失敗を繰り返し見る夢があります。
抑うつが強いほど、何者かに追いかけられる,怖くて目が覚める,飛ぶ,落ちるなどに関連した夢を見るという報告があります。
出典:松田英子; 抑うつ傾向と睡眠の不調, 日本健康心理学会大会発表論文集;34:79,2021
4.適応障害の影響
大きな環境の変化やライフイベントによるストレスで心の症状が現れ、日常生活に支障をきたしてしまう状態を適応障害といいます。病状として、睡眠の質が低下したり、嫌な夢を見ることが増えたりすることがあります。
具体的には、仕事において、上司、同僚、取引先との人間関係の変化は、ストレスの要因となります。さらに、突然の異動や転職、予期せぬ立場の変化に直面することがあります。働き方改革が提唱されている中、慣れ親しんだ環境から離れ、自分が知らない領域に踏み出す人もいるでしょう。そんなとき、誰もがプレッシャー感じ、精神状態が不安定になります。
生活面では、引っ越し、結婚、出産、そして時には単身赴任による家族との別離、パートナーとの別れ、離婚があります。これらの変化によって、戸惑いを感じる人もいるでしょう。
睡眠に対する影響として、不眠が現れることが多いです。頭の中では、さまざまな考えが巡り続け、体の緊張がなかなかほぐれません。ストレスとなっている環境要因に関連した夢が繰り返し現れます。
時には、かつての安定していた日々を懐かしむような夢を見ることもあるかもしれません。そして、睡眠のリズムの乱れ、夜中に目覚めることが多くなります。
患者さんからの聞き取りによれば、ストレス要因や不安と密接に関連している夢を見ることがあるようです。人間関係に関する夢の内容として、新しい上司と衝突、同僚とトラブル、家族との争いなどがあります。いずれも、緊迫感があり、コミュニケーションの不安が反映されていると言えます。その一方、誰も話しかけてくれない、無視される、自分だけ取り残されるという孤立感のイメージもあるようです。
その他、 仕事での失敗、準備不足に関連している夢もあります。 新しい取り組みに追いつけない(乗り遅れる、遅刻する、周りからおいて行かれる)などの内容も報告されています。
海外の報告によると、適応障害と悪夢、自殺には関連があるとされています。特に、身体的な暴力などのトラウマを経験した場合、その影響が夢に反映され、自殺衝動が高まる可能性が指摘されています。
5. 心的外傷後ストレス障害
心的外傷後ストレス障害は、嫌な夢や悪夢が特徴的な症状の一つとして現れることが多い病気です。強い恐怖や衝撃を伴う出来事を経験した後に発症し、英語の略称は、PTSDです。
睡眠中に、つらい出来事の記憶が鮮明な内容として脳裏に蘇ってきます。悪夢の特徴として、実際の出来事が、まるでビデオを再生するかのように詳細に再現されます。具体例として、何者かに追いかけられたり、逃げ場を失ったりする象徴的な夢があります。人によっては、トラウマを受けたときの音や匂い、身体感覚までもがフラッシュバックします。
患者さんから聞き取った実際の例を紹介すると、災害の場面(火災、地震、津波など)、戦争のシーン、衝突の瞬間の再体験、暴力被害(いじめ、パワハラ、性被害、虐待など)があります。
本人にとって話をしたくない凄惨さシーンが夢の内容として現れ、その嫌な内容に対して、飛び起きたり、叫んだり、行動を伴うことがあります。
怖い夢を見て目が覚めた後も、激しい動悸や発汗、呼吸の乱れといった身体反応を伴うことが多いです。すなわち、自律神経症状が出現します。そのために眠ることへの不安と恐怖が強まります。
出典:PTSDトピックス – 日本トラウマティック・ストレス学会
6. パニック障害の関与
パニック障害と睡眠には密接な関係があり、嫌な夢の増加は、パニック障害の初期症状や前兆として現れることがあります。夜間のパニック発作や、それに対する不安が睡眠の質を著しく低下させ、特徴的な嫌な夢のパターンを引き起こす事例があります。
睡眠外来において、「夜、静かな眠りの中で突然、息ができなくなるような感覚や、激しい動悸に襲われる夢を見た」という事例を経験したことがあります。
精神面では、まるでエレベーターに閉じ込められたような圧迫感や、狭い場所から逃げ出せない不安、誰かに助けを求めようとしても声が出ない、電話が繋がらないといった無力感などが問題になるケースがあります。
パニック障害の方が見る嫌な夢の特徴は、日中に起きたパニック発作の体験や不安が、私たちの無意識の中で形を変えて現れていることが多い印象です。特に夜中は、一人で過ごす時間帯だけに、より強い不安を感じやすく、怖い夢見体験に反映されるのかもしれません。
夜中のパニック発作が起きる前に、ネガティブな印象がある夢を見ることが多いという報告があります。そして、嫌な夢の頻度が、夜中に起こるパニック発作と関連しているようです。
7. 全般性不安障害
心配や不安が長く続いてしまうこころの病気のひとつに、全般性不安障害と呼ばれるものがあります。この病気では、特定のことだけでなく、いろいろな出来事や状況に対して過剰な不安を抱きやすくなるのが特徴です。このような不安を主体とした精神状態が続くと、睡眠に悪影響を与えます。
不安障害の患者さんは、夢を覚えている頻度が高く、夢の内容も詳細に報告する傾向があります。
具体的には、よりネガティブな感情が多く、気分が落ち込みがちで、強く鮮明な感情を伴うことがよくあります。また、現実の生活が夢に反映されやすく、嫌な夢を見る割合も高くなる傾向があります。
チェックリスト
夜、ベッドに入るときに感じる不安。また嫌な夢を見てしまうのではないか、眠れないのではないか…。そんな心配が続いていませんか?
まずは、ご自身の状態を確認してみましょう。過去2週間に次のような問題はありませんか?
- 毎日のように嫌な夢を見る
- 夢が怖くて眠れない
- 夜中に何度も目が覚める
- 起床しても熟睡した感じがない
- 疲れがとれない
- 日中、夢の内容が頭から離れない
- イライラや落ち込みが増えた
- 仕事や学業に集中できない
基本的に、睡眠の状況が悪化しており日中への影響が強いと感じるときは病院の診察を受ける目安となります。
特に注意が必要なのは、死にたい気持ちがわいてきたり、パニック発作が起きたりする場合です。日常生活を送るのが難しくなったり、家族や周囲の方が心配するようになっていたりする場合は、精神科、心療内科への受診を勧めます。
嫌な夢を見た時の対処法
嫌な夢で目が覚めたとき、動悸や冷や汗、不安感に襲われることがあります。そんなときは、まず深呼吸をして、今ここにいる自分を感じることから始めましょう。
寝る直前のネガティブな考えがストレスとなり、悪夢を引き起こすことがあります。できるだけベッドに入る前にネガティブな思考を手放し、リラックスした気持ちで眠りにつくことが大切です。
出典:夢は自分の記憶から作られる?悪夢の意味や良い夢を見る方法を臨床心理士に聞いてみた -東洋大学
嫌な夢をみないためのストレスケアおよびセルフケアの実際を紹介しますので、参考にしてください。
方法 | 具体的な内容 |
---|---|
深呼吸 | 目覚めたら深呼吸をしてリラックスし、現実に戻る意識を持ちます。 |
気をそらす | 嫌な夢の内容を思い出さないように、好きな音楽を聴く。ストレッチなどによって、気分転換を行う。 |
リラックス | 寝る前にスマホや刺激の強い情報を避け、落ち着いた気分で眠るように心がけましょう。 |
生活習慣の見直し | 規則正しい睡眠リズムを心がけ、自分の好きなことをしてストレスを発散してみる。 |
日記に書く | 嫌な夢の内容を簡単に書き出すと頭の中で整理され、気持ちが落ち着くことがあります。 |
飲み物 | ハーブティーやホットミルクなどを飲むと、心と体がリラックスしやすくなります。 |