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糖尿病と診断された方・血糖値が心配な方へ
糖尿病はどんな病気か?

糖尿病は、血液中の糖分(血糖値)が慢性的に高くなる病気で、生活習慣病の一つです。日本では1,000万人近くが糖尿病の疑いがあると概算されています。予備軍を含めると2,000万人を超える身近な病気となっています。
職場の健康診断、特定健診などで、「血糖値が高い」と健康診断で指摘されても症状がないため放置されがちですが、長い間、未治療であると動脈硬化の原因になります。その結果、心臓病(狭心症、心筋梗塞)、脳卒中、慢性腎不全などが発症します。
血糖値が高くなる仕組みについて

私たちが食事をすると、食べ物に含まれる糖分(ブドウ糖と呼ばれる)が腸管から血液中に吸収されます。通常、この血糖値は「インスリン」というホルモンによって一定の範囲に保たれています。
1.インスリンの働き
私たちが食事をすると、血糖値が上昇します。これに反応して膵臓は、インスリンというホルモンを血液中に放出します。血流に乗って全身に運ばれたインスリンは、細胞の表面にある受容体と結合し、血糖が細胞の中に取り込まれます。つまり、インスリンは血糖を下げる作用をもっているホルモンです。
このメカニズムによって、血糖値が適切なレベルまで下降します。血糖値が正常範囲に戻ると、膵臓はそれを感知してインスリンの分泌量を自動的に調整します。
2.グルコース(血糖)の役割
血糖は、全身の細胞にとって大切なエネルギー源です。この栄養素は、食事から摂取する糖分と、肝臓で作られる糖分の2つの経路から身体に供給されます。脳にとっては主要な栄養源であり、正常な機能を維持するために欠かせません。
糖尿病では、インスリンによる血糖の調節に支障が出て、持続的に血糖値が高くなります。
出典:糖尿病 – 厚生労働省
糖尿病の種類について
1型糖尿病 | 2型糖尿病 | |
---|---|---|
患者の割合 | 約5% | 約95% |
病態 | 膵臓のβ細胞が破壊されインスリンを作れなくなる | インスリンの分泌量が減ったり、効果が悪くなったりする |
発症の原因 | 生活習慣とは関係なく発症する(自己免疫) | 生活習慣や遺伝的要因が関係している |
症状の現れ方 | 急激に現れることが多い | 発現はゆっくり。無症状のことも多い |
治療法 | インスリン注射による治療が必須 | 食事、運動、薬物療法の組み合わせ |
出典:糖尿病の種類(1型/2型)原因と症状 – 日本イーライリリー株式会社
原因について
糖尿病が発症する原因は、血糖値をコントロールするインスリンが十分に働かなくなることにあります。メカニズムとして下記の二つがあります。
インスリン分泌不足
膵臓の機能が低下し、必要な量のインスリンを作ることができません。これは遺伝的要因や、膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞が破壊されることで起こります。
インスリン抵抗性
膵臓からインスリンは分泌されているものの、細胞がインスリンに対して反応しにくくなります。肥満、運動不足、ストレス、加齢などが関わっています。
多くの場合、これら2つの要因が組み合わさって糖尿病が発症します。また、家族歴などの遺伝的要因に加えて、食べ過ぎや運動不足といった後天性の要因も大きく影響します。いずれにせよ、血液中のブドウ糖が異常に高くなってしまいます。
妊娠中は胎盤から分泌されるホルモンの影響でインスリンが効きにくくなり、血糖値が上がりやすくなります。医学的に妊娠糖尿病と呼ばれています。出産後は血糖が正常に戻ることが多いですが、将来、2型糖尿病の発症リスクが高くなるため注意が必要です。
症状について
初期症状
糖尿病の初期、血糖値がそれほど高くない時期では、ほとんど自覚症状がありません。そのため、自ら気づくことができない人が殆どです。これが糖尿病の怖いところで、気づかないうちに病気が進行していきます。
外来の診療経験でも、健康診断を受けて初めて、「血糖が高い」ことに気づいたという人が少なくありません。
血糖値が高くなった時の症状
血糖値がかなり高くなると、以下のような症状が現れます。単独あるいは複数の場合があります。
- 口が渇く、水をたくさん飲む
- トイレの回数が増える(夜の排尿回数)
- 体重が減る
- 疲れやすい、だるい
- 傷、怪我が治りにくい
- 目がかすむ
血糖が異常に高くなったときの症状
- 意識がもうろうとする
- 吐き気や嘔吐
- 腹痛
- 口臭(アセトン臭)
- 脱水症状(皮膚の乾燥、血圧の低下)
上記は、糖尿病性ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖状態などの症状です。緊急治療が必要なものです。
高齢者の場合
加齢にしたがって、のどの渇きや頻尿といった典型的な糖尿病のサインが現れにくいという特徴があります。病気を見つける手がかりとして、「最近なんとなく調子が悪い」という漠然とした不調があるかを注意しましょう。
具体的には、以前よりも疲労感が抜けなかったり、一日中横になってばかりいるようになったりします。また、物忘れが気になるときも、糖尿病の可能性を忘れないでください。
診断の方法
糖尿病を確定するための方法は、血液検査によって行われます。診断に用いられる重要な指標は、血糖値とHbA1cの2つです。
診断に使用する検査項目
血糖値は、その時点での血液中のブドウ糖の濃度を測定します。以下に示す数値を満たす場合、「糖尿病型」と判定されます。
- 空腹時血糖値:126mg/dL以上
- 随時血糖値:200mg/dL以上
- 75g糖負荷試験2時間値:200mg/dL以上
75g糖負荷試験とは、75gのブドウ糖を含んだ水を飲み、その後の血糖の変動を評価する検査です。
HbA1cは、過去1~2ヶ月間の血糖値の平均を表す指標です。6.5%以上であれば糖尿病型と判定されます。この検査項目は食事の影響を受けないため、いつでも測定できる利点があります。
糖尿病型とは
「糖尿病型」とは、血液検査の結果が糖尿病の診断基準を満たしている状態を指します。ただし、糖尿病型と判定されても、すぐに糖尿病と診断されるわけではありません。
糖尿病の確定診断
以下のいずれかを満たすときに、糖尿病が診断されます。
- 別の日に行った2回目の検査で糖尿病型が確認される
- 1回の検査で血糖値とHbA1cの両方が糖尿病型を示す
- 糖尿病型に加えて、症状(口渇・多飲、多尿、体重減少)や合併症(糖尿病網膜症)がある
治療について

治療の目的は、血糖値を適切にコントロールすることで、糖尿病がない人と同じ健康寿命を保つことです。なぜなら、糖尿病を放置すると、さまざまな合併症(網膜症、神経障害、腎機能低下など)が発症するからです。
具体的な治療法は、食事療法、運動療法、薬物療法の三つがあります。
一般的に、1型糖尿病の場合はインスリン注射が中心となります。それに対して、2型糖尿病の場合は食事療法と運動療法が中心となりますが、血糖コントロールが不良であるとき場合に薬物療法がおこなわれます。
食事療法
1日に必要なエネルギー量を適正に保ち、バランスの良い栄養摂取を心がけます。食べ方に注意を払う必要があり、食物繊維が豊富な野菜から先に食べ、次におかず、最後に炭水化物を摂取することで、食後血糖値の急上昇を防げます。早食いは避けてください。ゆっくりと咬んで食べることを心掛けましょう。
運動療法
散歩やジョギングなどの有酸素運動を中心に、週2~3回の筋力トレーニングを組み合わせます。運動により筋肉でのブドウ糖の利用が増加し、インスリンの働きが良くなります。ただし、血糖コントロールが不良な場合や合併症が進行している場合は、運動を控える必要があります。運動強度、回数については、主治医と相談して決めることが大切です。
薬物療法
食事療法と運動療法を組み合わせて2~3ヵ月続けているにもかかわらず、血糖がなかなか下がらない場合に、飲む薬、注射薬を用いた治療を行います。
血糖降下薬
薬剤名 | 特徴 |
---|---|
スルホニル尿素(SU)薬 | 膵臓のβ細胞を刺激してインスリン分泌を促進します。インスリン分泌が弱くなった患者さんに適応があります。低血糖と体重増加に注意する必要があります。 |
速効型インスリン分泌促進薬 | 食事直前に服用する短時間作用型のインスリン分泌促進薬です。食後の高血糖の改善に効果があります。SU薬と同じく低血糖に注意が必要です。作用時間が短いため、食事のタイミングに合わせやすいです。 |
α-グルコシダーゼ阻害薬 | 小腸での糖の吸収を遅らせて食後血糖値の急上昇を抑えます。食事直前に服用するタイプの薬です。お腹の張りや下痢、おならなどの消化器症状が出やすい。他剤との併用時の低血糖に注意が必要です。 |
ビグアナイド薬 | 肝臓からのブドウ糖の放出を抑えて血糖値の上昇を防ぎます。体重増加しにくいという大きな利点があります。乳酸アシドーシスという重篤な副作用が起こる可能性があります。肝臓と腎臓の機能が悪い、心不全の方は使用に注意です。 |
チアゾリジン系薬 | 筋肉や肝臓でのインスリンの効きを改善させます。インスリン分泌量には直接的な影響を与えません。浮腫、貧血、息切れなどの副作用に注意が必要です。他のインスリン分泌促進薬との併用時は低血糖に注意を要します。 |
DPP-4阻害薬 | インクレチンというホルモンの働きを高めてインスリン分泌を促します。副作用が少なく使いやすい薬剤です。単剤で用いると、低血糖のリスクが低いです。比較的、新しいタイプの血糖降下薬の一つです。 |
SGLT2阻害薬 | 腎臓においてブドウ糖の再吸収を阻害して尿から糖を排出させる働きがあります。体重減少の効果が期待でき肥満の方に向いています。心臓や腎臓を保護する効果も報告されてます。尿路感染症や脱水に注意が必要を要します。 |
GLP-1受容体作動薬 | 内服薬と注射薬の両方があり、インクレチンと同じ作用を示す薬です。食欲を抑制する働きがあり体重減少の効果ができます。肥満のある糖尿病ときに考慮します。吐き気、嘔吐、下痢などの胃腸症状が副作用として多いです。 |
インスリン治療
経口薬でも血糖コントロールが困難な場合や、膵臓のインスリン分泌能力が著しく低下した場合にインスリン治療を開始します。参考までに、1型糖尿病では診断したときから、インスリン治療が必須です。なぜなら、膵臓からインスリンが出なくなるからです。
インスリンには作用時間により超速効型から持効型まで複数の種類があり、患者さんの状態に応じて組み合わせます。自己注射は腹部などの皮下に行う簡単な手技で、痛みもほとんどありません。
予防法について
2型糖尿病は生活習慣病の一つで、日常生活の見直しにより予防することができます。
食生活の改善では、規則正しい食事時間を心がけ、食べ過ぎに注意することが大切です。野菜を多く摂取し、甘い食べ物や飲み物を控えることで血糖値の急上昇を防げます。
適度な運動として、1日30分程度の有酸素運動を目標にしましょう。職場ではエレベーターではなくて階段を使う、一駅分歩くなど日常的な工夫に加え、筋力トレーニングも効果的です。その他、適正体重の維持、禁煙、適量の飲酒、十分な睡眠、ストレス管理も重要な要素です。
睡眠時無呼吸症候群や睡眠障害は血糖コントロールを悪化させるため、いびきや日中の強い眠気がある方は睡眠外来での相談をお勧めします。
定期健診も欠かせません。糖尿病は初期症状がほとんどないため、年1回以上の血液検査が必要です。職場の健康診断あるいは特定健診(メタボリックシンドロームに着目した健康診断)などで自分の状況を把握しておくと良いでしょう。
特に家族に糖尿病の方がいる、肥満気味、運動不足、ストレスが多い、血圧が高いという方は、40歳を過ぎたらより頻繁な検査をお勧めします。早期発見により、より効果的な予防が可能になります。