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小児の不眠症に効果がある漢方薬とは?
子どもの不眠症とは
子どもの不眠症は、寝つきが悪い、途中で目が覚める症状に加えて、日中の眠気、集中力の低下、情緒不安定などが現れて、生活に困難が生じた状態を意味します。
眠れない症状は、こころの病気で現れます。そして、不眠は「体の不調」を知らせるサインとも言えます。
日常生活において、ストレスは睡眠障害の要因として多いです。小学校、中学校になると、友達関係、受験勉強など心理的なプレッシャーは大きくなります。具体的には、子ども同士の人間関係にまつわる問題は、いじめ、仲間外れ、部活の先輩との上下関係などがあります。進路面では、成績、内申点のことが気がかりになります。
度重なるストレスによって、適応障害が発症する子どもがいます。
家庭の問題で、眠れないという子どもが多くなっています。事例として、家庭内暴力、ヤングケアラーなどの存在があり、これらの要因は眠りの質に影響を及ぼします。
最近では、スマートフォン、タブレットの所持が当たり前のようになりました。夜遅い時間に電子機器のスクリーンから発せられるブルーライトは、体内時計に影響して、寝つきを妨げます。夜更かしによる睡眠不足、睡眠リズムの乱れが、小学校の低学年から始まる場合があります。
日常生活で受けているストレスの発散のためにスマホを操作することがあり、この日々の行動が睡眠障害の悪化を助長しています。
眠れないからと言って、成人に処方される睡眠薬は小児に対して保険適用がありません。そこで、依存性の問題がない「自然の生薬で作られている漢方薬」を活用することがあります。
漢方薬の特徴について
漢方薬は東洋医学の理論に基づく自然治癒力を高める薬です。体質に合わせた個別の処方が行われます。西洋医学の薬とは対照的に、漢方は複数の「自然の生薬」で作られています。
漢方の種類はさまざまですが、不眠症に効果があるタイプもあり、睡眠障害の治療管理に応用されています。
なぜ、漢方は不眠に対して効果があるのですか?
漢方は様々な生薬から構成されており、中枢神経を鎮めたり、気分を安定させたり、自律神経を調節する作用があるから、不眠に効能があります。
漢方薬のメリット
漢方薬は副作用が少なく、子どもの不眠症に対しても使うことができます。成人に処方されているような睡眠薬とは異なり、漢方薬には依存性と離脱症状がないことが利点です。
子どもに中枢神経に作用する西洋医学の薬を飲ませることに抵抗がある養育者にとって、漢方薬は代替の手段になります。
睡眠障害に対する効果としては、自律神経の中で、気持ちを落ち着かせる副交感神経の作用を高め、緊張状態のときに発現している交感神経の作用を抑えます。この調節によって、眠りに入ることを助けます。情緒面の落ち着きを取り戻すことも期待できます。
副作用と注意点
頻度は高くありませんが、漢方薬に対するアレルギー反応、肝機能障害などの有害事象が現れることがあります。そのため、適切な診断、用量の調節など、医師による治療管理が必要です。
生薬の種類によって副作用の症状が異なりますが、血圧の上昇、むくみ、発疹などがあります。
体質や症状の程度によって、漢方が合わない小児もいます。そして、長期間服用することで効果が発現される漢方の種類もあるので、効き目を体感するまでに時間がかかる場合があります。
さらに、粉薬で苦味を感じることが多く、薬を飲みにくいというデメリットがあります。子どもによっては、「漢方を全く飲めない」という事例もあります。
薬の選び方
どんな漢方薬が、子どもの不眠に効能があるか、医師の診断を受けることが大切です。他の子どもに効くからと言って、自分の子どもに効果があるとは限りません。
子どもの体質、睡眠障害の程度、不眠になった経緯など、総合的な判断によって、適切な漢方が選ばれます。もちろん、年齢によって用量が異なり、服用の間隔とタイミングが異なります。
不眠に効能がある漢方薬の種類
1.抑肝散
不眠症の症状を改善するために、睡眠外来でよく使われる漢方薬の一つです。
- 神経が高ぶっている
- 怒りっぽい
- せっかちである
- イライラしている
上記のような症状があり、眠れない場合に処方を検討します。神経症、不眠症などの病気に対して保険適用があります。夜泣き対策にも応用されています。
こころの状態を穏やかにする働きを持っています。その効能から、落ち着きのない小児に対しても活用されています。
2.柴胡加竜骨牡蛎湯
ストレスによってイライラ感がある、緊張状態が続いているなど、交感神経が亢進しているために眠れない場合に活用できます。
受験ストレス、試験前に緊張する場合に検討しても良いでしょう。何らかのストレッサーによって、チックが生じて、落ち着きがない子どもに対して、柴胡加竜骨牡蛎湯は選択肢の一つとなります。
3.抑肝散加陳皮半夏
中国の明代に創薬された抑肝散は、江戸時代の日本において、広く使用されるようになりました。そして、国内の医師によって改良が加えられ、抑肝散加陳皮半夏が誕生しました。
抑肝散に、陳皮と半夏という生薬が追加されており、抑肝散と比較すると、体力が低下して胃腸の働きが弱い場合に用いられます。抑肝散と同じく、不眠症、神経症に効能があります。
4.甘麦大棗湯
不眠症、子どもの夜泣き、ひきつけの症状の改善のために処方されます。ナツメを乾燥させた生薬が入っているので甘味があります。そのため、子どもが飲みやすい漢方の一つです。
神経過敏になっている状態を抑える働きがあります。乳幼児の夜泣きに使われることが多い漢方薬です。
出典:甘麦大棗湯 – ツムラ
、注意欠如・多動性障害の不眠に、漢方が使われることはありますか?
小児(15歳未満)では、成人が服用するような睡眠導入剤を使うことはなく、メラトニン製剤あるいは漢方薬などで対処する場合が多いです。
発達障害の子どもに漢方薬を投薬したころ、不眠に効果があった症例報告があります。その論文によれば、漢方薬によって緊張・興奮状態が抑えられ睡眠が改善したと考察されています。
出典:武原 弘典 他; 発達障害に合併する睡眠障害に対して 漢方治療が有効であった2症例, 日東医誌 Kampo Med;69(3)246-251,2018
まとめ
子どもの不眠症に対する漢方薬は、適切な生薬の選択と用法によって、不眠症の改善に活用することができます。自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症などの発達障害を抱えている子ども、グレーゾーンの場合にも、治療の選択肢になる可能性があります。
代表的な不眠症の漢方として、抑肝散、柴胡加竜骨牡蛎湯、抑肝散加陳皮半夏、甘麦大棗湯、酸棗仁湯があります。しかし、これらの漢方薬は、体質の傾向、病状の程度によって、効果が得られないこともあります。そのため、自己判断で服用するよりは、医師の診察を受けるほうが望ましいと考えられます。