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子どもの扁桃腺の手術でいびきは治るのか?
扁桃肥大といびきの関係性はあるの?
あなたのお子様、毎晩、いびきをかいていませんか。一般的に、子どもはすやすや寝ることが正常ですが、大人でも分かるような大きないびきの音が聞こえたら、深刻な病気が隠れているかもしれません。
睡眠は、一日の疲れを癒し、体力を回復するために欠かせないものです。しかし、扁桃腺の問題によるいびきは、睡眠の質を低下させて、日中の活動にも影響を与えることがあります。そればかりか、小児期では成長と発達にも弊害が現れる危険があります。
このブログ記事では、扁桃腺がいびきにどのように関わり、どのような影響を及ぼすのかを解説し、良い睡眠を得るための基礎知識、具体的な対策を語っていきます。より快適な睡眠への一歩を踏み出すためのヒントになれば嬉しいです。
扁桃腺とは何か?
扁桃腺は、私たちの喉の奥に位置する重要なリンパ組織です。のどちんこの両側に位置しているので、口を開けると観察することができます。扁桃腺は体内に侵入する細菌やウイルスと戦う免疫系の役割と担っています。つまり、呼吸を通じて体内に入る様々な病原体を捉えて、感染を防ぐための最初の防衛線と言えます。
ところで、扁桃腺自体が医学的な問題を引き起こすことがあります。
よくみられる問題の一つに扁桃肥大があります。一般的には6歳ごろに大きさがピークになり、その後、小さくなっていく傾向です。
しかし、病的に扁桃腺が肥大することもあります。なぜ扁桃腺が大きくなるのかというと、繰り返しの感染や慢性的な炎症による影響と考えられています。普段から大きいサイズの扁桃腺は気道を狭くするので、この変化がいびきを引き起こします。
急性感染症による扁桃肥大も、いびきの原因となります。急性化膿性扁桃炎は、細菌やウイルスによって引き起こされます。扁桃腺が腫れて、発熱、喉の痛み、などの症状を伴う病態です。感染がひどくなると、真っ赤に腫れた扁桃腺に白苔が不着していることがあり、その正体は膿です。病原体によって腫れた扁桃腺は、いびきの発生に関与しています。
生まれつき扁桃が大きい場合もあり、遺伝あるいは体質などが関係している可能性があります。
扁桃腺の種類と特徴
扁桃腺にはさまざまな種類がありますが、代表的なものは咽頭扁桃と口蓋扁桃です。両者は、私たちの体を病原体から守ってくれています。
口蓋扁桃は、喉の両側に位置し、一般の人において、「扁桃腺」と呼ばれることが多いです。口を開けて観察すると、自分で鏡で見ることもできます。両側の口蓋扁桃が肥大したり、炎症を起こして腫れたり、気道を狭小化させることがあります。
一方、咽頭扁桃は、鼻の後ろの上部に位置し、「アデノイド」と呼ばれることが多いです。アデノイドは口を空けても観察することはできません。そのため、耳鼻科の医師が、鼻の穴から挿入したファイバースコープやレントゲン検査によって、咽頭扁桃の大きさを評価します。
扁桃腺が病的に肥大すると、睡眠時無呼吸症候群を引き起こします。
いびきとは?
いびきは、睡眠中に上気道が部分的に閉塞することで発生する「呼吸に伴う音」です。のどは空気の通り道ですが、その幅が狭くなると、空気の流れが妨げられてしまいます。狭窄した気道粘膜が振動するので、音が発生します。
いびきの音は、弱いものから、部屋に響くような大きなレベルまで、さまざまです。寝室環境にも影響を及ぼし、具体的には、他人に対しては騒音として不眠の原因になります。その一方、本人にとっては、いびきによって睡眠の質が低下するという弊害が生じます。
いびきをかく一般的な理由として、以下のようなものがあります。
原因 | 特徴 |
---|---|
解剖学的な要因 | 顎の構造、狭いのど、鼻の問題など、個人の解剖学的特徴が気道の狭窄を引き起こすことがあります。 |
肥満 | 体重が増えると首周りに脂肪が蓄積し、舌根の脂肪組織が増えるので気道が狭くなってしまいます。 |
扁桃腺の問題 | 扁桃腺が肥大すると、特に子供において気道を塞ぐ原因となり、いびきを引き起こすことがあります。 |
年齢 | 加齢にともなって、上気道を構成する筋肉の緊張が低下するので、気道が狭くなりやすくなります。 |
生活習慣 | アルコール摂取、喫煙、不規則な睡眠パターンなどが、上気道の幅を狭くしてしまします。 |
小児のいびきが起きる要因として多いものは、扁桃肥大、アデノイド肥大、そして、鼻炎による上気道の狭窄です。幼稚園から小学校低学年の時期において、大きな扁桃腺が気道の閉塞に関与することが多いです。
どんな症状が問題になるのか?
大きくなった口蓋扁桃あるいはアデノイドは、いびきの音を発生させるだけではなく、睡眠への影響が問題になります。子どもでは、睡眠中に頻繁に寝返りをうったり、息苦しくなって目を覚ましたり、安定した眠りが妨げられます。
出典:Enlarged tonsils and adenoids: Overview – InformedHealth.org
小児期に咽頭扁桃が肥大すると、鼻呼吸が難しくなり口呼吸が目立ちます。長期に続くと、普段から口を空いて舌を突き出したような顔立ちに変化することがあり、アデノイド顔貌と呼ばれています。
病的に肥大した口蓋扁桃あるいはアデノイドが、睡眠中に気道を閉塞させると、無呼吸発作が生じます。
睡眠の質の低下は、子どもの成長と発達に深刻な影響を及ぼします。不十分な睡眠は成長ホルモンの分泌を妨げ、低身長のリスクを高めます。同世代と比較して小柄になる場合があります。
情緒面においても、疲労やイライラといった症状が現れることがあり、学校の成績、コミュニケーションの問題が心配になります。激しいいびき、無呼吸発作が繰り返し起きると、夜間の低酸素血症が引き金となって、おねしょの原因になる事例もあります。
出典:Pediatric Obstructive Sleep Apnea – Yale Medicine
小児の睡眠時無呼吸症候群では、落ち着きがないという、ADHDと類似した症状が現れることもあるので注意しましょう。幼児、小学校低学年の多動の原因として、発達障害の鑑別を要します。
参考までに、大人の口蓋扁桃肥大では、一般的な睡眠時無呼吸の症状が出現します。いびき呼吸のほか、熟睡感の欠如、日中の眠気などです。上気道の感染を受けると、両側の扁桃腺が真っ赤に腫れあがり、喉の痛み、発熱を生じます。
診断の方法
扁桃腺の診察は耳鼻咽喉科で行われます。口蓋扁桃とアデノイドの大きさ、気道閉塞に及ぼす影響が評価されます。外来では、レントゲンおよびファイバースコープが用いられます。口を開けてもアデノイドを見ることができないので、鼻から内視鏡を挿入して、アデノイドの様子が確認されます。
いびきの症状や睡眠の質に関する詳細な情報について、家族から聞き取りをします。小さな子どもの場合は、養育者による眠れているときの呼吸の観察、スマホでの動画撮影の情報は診断に役立ちます。
眠りの質と夜間の呼吸異常を調べるときは、終夜睡眠ポリグラフ検査が施行されます。この検査は病院に宿泊して受けるものですが、睡眠の精密検査と呼ばれています。睡眠中の呼吸パターン、心拍数、酸素レベルなどを記録し、睡眠時無呼吸症候群の有無やその重症度を知ることができます。
いびきの原因が扁桃腺である場合、病的に肥大した口蓋扁桃およびアデノイドを手術で切除することがあります。これまでに述べた検査の結果は、アデノイド・口蓋扁桃の手術が適切であるか判断するための根拠になります。
治療法:耳鼻科の手術について
小児では、10歳頃までに扁桃腺が自然に退縮することがあります。しかし、肥大した扁桃腺が子どもの健康と発達に好ましくない影響を及ぼしているときには、耳鼻科での手術が有効な治療法になります。この手術は外科的に取り除く病巣に応じて、口蓋扁桃摘出手術あるいはアデノイド切除術と呼ばれています。
咽頭扁桃と口蓋扁桃の両方が肥大しており、睡眠時無呼吸症候群を引き起こしていると考えられるときは、同時に手術が行われます。
これらの術式によって気道を拡げて、いびきを消失させます。さらに、睡眠中の呼吸が正常化するので、睡眠の質が改善する効果があります。
国内では、大きな病院の耳鼻科に入院して、全身麻酔で手術を受けることが多いです。日帰り手術は少数派のようです。手術時間は1時間程度で、入院期間は病院によって異なりますが、1週間以内です。
扁桃腺摘出手術は、扁桃肥大がある小児の睡眠時無呼吸症候群において有効な治療法です。手術によって改善を見込むことができます。
出典:Obstructive Sleep Apnea in Children – Stanford Medicine Children’s Health
何歳になれば手術を受けられるかという疑問を持っている養育者もいるかもしれません。一般的に、2~3歳になれば、手術を受けることができます。ただし、3歳以下の場合は、術後の合併症について注意を要するため、子どもの麻酔の経験が豊富な医師がいる高次医療施設での手術が望ましいです。
出典:阪本 浩一; 乳幼児の呼吸障害に対する対応 ―3歳未満の睡眠時無呼吸症候群に対する手術療法の手技と術後管理,周辺疾患との関連まで―, 小児耳 2012; 33: 272-280
2歳以下の子どもでも、肥大した口蓋扁桃やアデノイドがいびき、無呼吸発作を引き起こしている場合は、手術をを行うことがありますか?
重度の睡眠時無呼吸があれば、高次医療施設において根治を目的とした手術を行うことがあります。
出典:重症睡眠時無呼吸(2歳以下) – 国立成育医療研究センター
子どもの頃に扁桃肥大を治療せずに経過した成人においても、睡眠時無呼吸の重症度に応じて行われることがあります。ただし、手術適応の判断が重要です。肥大した口蓋扁桃あるいはアデノイドを切ることで、いびき、無呼吸が治る見込みがあると判定されたときのみ、手術が選択されます。
いびきや扁桃腺の問題が気になる場合は、耳鼻科を受診して、耳鼻咽喉科専門医の意見を聞くことが大切です。