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産後ママに多い不眠の悩みと対策
産後のお母さんたちが経験する睡眠の問題
産婦人科の病院で待望の赤ちゃんを出産した後、退院し自宅に戻ると新たな生活のステージが始まります。これは、自宅での育児が本格的にスタートするタイミングです。
初めての育児や赤ちゃんの夜泣き、真夜中の授乳、頻繁なおむつ替えなど、日々の様々なケアに追われることで、多くの新しいお母さんたちが十分な睡眠を取ることが難しくなります。
長時間の寝不足が続くと、それはただの疲れだけでなく、身体的・精神的な健康を脅かす要因となります。今回のブログ記事では、産後のママたちが抱えやすい睡眠障害の特徴、そして、それによる体調の変化について詳しく解説します。
原因について
産後の期間は、妊娠中に高まっていた女性ホルモンのレベルが急激に低下する時期となります。この急なホルモンの変動に対して、体がすぐに適応するのが難しく、自律神経の働きに影響を及ぼします。その結果、睡眠の質やリズムに悪影響を与えることが考えられます。
新生児の夜泣きや授乳のために頻繁に目を覚ますことで、睡眠の連続性が失われます。安定した眠りがとれないので、疲労や睡眠不足の症状を引き起こします。深夜になっても体が緊張した状態を保ち続けると、質の良い深い眠りへと移行するのが難しくなります。
新しい生活のリズムや慣れない子育ての負担は、精神的ストレッサーとして作用します。これが原因で心の病気、特に抑うつ症状の発症リスクが高まり、不眠を引き起こします。
筆者の外来での観察や経験からも、特に第一子の世話をするときに、多くのママたちが睡眠に関する問題を抱えていることが伺えます。
死産を経験した女性の中には、その深い精神的なショックから不眠に悩む方も少なくありません。このような場合、不眠が継続してしまうこともあるため、適切なサポートやケアが必要となります。
症状について
赤ちゃんの育児は昼夜を問わず行われるため、新しいお母さんたちは、まとまった睡眠時間を確保するのが難しくなることが多いです。
赤ちゃんの夜泣きや授乳など、頻繁に目を覚まし続けることで、徐々に疲労が蓄積していきます。その結果、昼間にも眠気を感じ、家事ができないばかりか、知らないうちにソファーでウトウトしてしまうことが少なくありません。
一方で、体が極度の疲れを感じている状態でも、不思議と眠りにつくことができない場面が出てくることがあります。実際に眠りたいと感じながら、寝付けないという経験を持つママがいます。入眠困難を主体とする不眠症の一つと言えるでしょう。
産後うつと睡眠の関連について
赤ちゃんを出産した後の最初の6週間程度は、産後のリカバリーと新たな生活リズムに慣れるための時期と言えます。多くの新米ママは未経験の子育てに直面し、そのためのストレスやプレッシャーを感じることが一般的です。
この状態が続くと、慢性的な睡眠不足を経験します。不十分な睡眠時間は、メンタルヘルスにも悪影響を及ぼし、うつ症状の出現の原因となることが報告されています。
産後うつの発症率はどのくらいですか?
約10%です。
出典:渡辺綾子 他, 妊娠期・産後における睡眠・不安・抑うつの違いと各時期における関連, 心理学研究. 2018;89,130-138.
実際、研究データによれば、適切な睡眠を確保できていないママは、良好な睡眠状態を持つママに比べて、3倍以上のリスクでうつ病を発症する可能性があるとされています。この統計は、睡眠と精神面の間に明確な関連性があることを示しています。
筆者が診療をしている睡眠外来でアンケートをとると、多くのママたちが「どうにかしてよく眠りたい」というコメントがよくみられます。産後の疲労感や睡眠の問題を持つママたちへの適切なサポートやカウンセリングが求められることは明らかでしょう。
対処法について
産後ママにとって、睡眠の確保は大切です。本人の負荷を軽減するために、子育てを実家の両親に部分的に頼むことを検討しましょう。
特に初産のときは、本人の緊張を軽減することが重要です。仲の良い友人、出産した病院の看護師・保健師に不安なことを、気軽に相談できる体制にしておくと良いでしょう。
まとまった睡眠がとれないこともありますが、産後の睡眠不足を軽減するために、子どもと一緒に昼寝をすることを勧めます。
夫も積極的に参加することが求められます。夜に数時間でも、ママを一人で寝かせてあげられるようにサポートすることが重要です。夜間の授乳についても、夫の協力が欠かせません。
出典:Sleep and tiredness after having a baby – NHS
基本的には、環境調整が主体となります。抑うつ症状が問題となっているときは、抗うつ薬を検討します。不眠に対しては、睡眠導入剤、抗不安薬などを処方する場合もありますが、断乳が必要になります。依存性のない睡眠薬を希望されるときは、オレキシン受容体拮抗薬の処方が検討されます。
授乳しているときは、睡眠薬の使用を控えたい要望が多く、漢方薬を使うことが多いです。具体的な生薬の種類として、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏などがあります。