- ホーム
- ダリドレキサントの副作用の種類
ダリドレキサントの副作用の種類
はじめに
クービビックは、不眠症の患者さんの睡眠を改善するために使用される新しいタイプの睡眠薬です。覚醒物質のオレキシンの作用を抑えることで、自然な眠気を促進し、睡眠の質を高める効果があります。
従来からあったベンゾジアゼピン系の睡眠薬にある依存性の問題が少ないことから、外来で処方されることが予想されます。
国内では類薬としてデエビゴとベルソムラがありますが、欧米ではQUVIVIQという薬剤名で先行して発売されています。日本では、厚生労働省の製造販売承認を受けた段階ですが、令和6年12月19日に発売されました。
新薬であるクービビックに興味がある方にとって、不眠症への効果に期待もありますが、同時に副作用に関する不安もあると考えます。
「副作用は本当に大丈夫なの?」
「眠気は仕事に影響するのか?」
「副作用が出たときの対処法は?」
このページでは、クービビックの添付文書、インタビューフォーム、海外において報告されたダリドレキサントの研究報告を参考にして、睡眠専門医がクービビックの副作用に関する情報と対処法を語ります。
クービビック:どんな特徴をもつ睡眠薬なのか?
クービビックは、スイスの製薬企業イドルシアが開発した不眠症の治療薬です。日本では塩野義製薬が販売元になっています。有効成分のダリドレキサントは、入眠困難や中途覚醒の症状を軽減する効能があります。
クービビックはオレキシン受容体拮抗薬として分類される薬で、覚醒作用を有しているオレキシンと呼ばれる神経伝達物質の作用を抑制する特徴があります。脳内のオレキシンの覚醒作用を抑えることで、誘導することが期待されています。
従来からあるベンゾジアゼピン系の睡眠薬と比較して、依存性の少ない睡眠薬です、日中への持ち越し効果が少なく、選択肢の一つになるかもしれません。
副作用について
クービビックの安全性プロファイルについて、信頼性の高い情報源に基づいてお伝えします。今回は信用できる情報として、公式の電子添文に報告されている副作用データ、海外の医学論文を採用しました。それに加えて、医師である筆者が2024年6月に米国睡眠学会の企業展示で、開発元のイドルシア社の担当者から直接聞き取った情報を元に記事を構成しています。
これらの情報を組み合わせることで、クービビックの副作用についてより包括的で最新の理解を提供できると考えています。
国内の臨床試験データから、クービビックの副作用の発現が明らかになっています。最も多く報告されたのは傾眠で、発生率は3%以上でした。次いで、頭痛、疲労、悪夢が1~3%未満の頻度で観察されました。さらに、めまい、吐き気、金縛りなども報告されていますが、これらの発生率はより低いものでした。
注目すべきは、レム睡眠に関連した症状がみられたことです。幻覚や異常な夢、そして、寝言や夢遊病のようなパラソムニアが含まれます。
これらの症状によって、日中の活動に支障をきたす場合があります。ただし、先行して発売されている類薬のデエビゴよりは傾眠の出現は少ない印象です。
クービビックの国内第Ⅲ相長期投与試験の結果によると、副作用として体重増加と健忘が報告されました。しかし、これらの症例は25mg投与群において、それぞれ1例のみであり、発生頻度は極めて低いものでした。
一方、アメリカ食品医薬品局(FDA)および欧州医薬品庁(EMA)は、よくある副作用として頭痛と眠気の発現を指摘しています。しかし、ほとんどの例で、副作用は軽度または中等度です。
出典:Quviviq (daridorexant) – European Medicines Agency
他の睡眠薬と同様に、ダリドレキサントにも稀ではあるものの、うつ症状の悪化、睡眠麻痺、幻覚なども報告されています。
出典:Drug Trials Snapshots: QUVIVIQ – FDA
具体的な副作用の特徴について、電子添文に記載されているものから抜粋して、以下に示します。
副作用 | 特徴 |
---|---|
眠気 | 薬物に対する感受性には個人差があり、翌日の眠気が生じる場合あります。運転、集中力を要する仕事があるときに注意しなければなりません。 |
頭痛 | 国内、海外での臨床試験で報告されている副作用の一つです。脳内の神経伝達物質のバランスおよび脳血流の変化が発生に関わっている可能性があります。 |
めまい | クービビックの内服によって、覚醒系の抑制によって平衡感覚に影響が及んでいる可能性があります。立ちくらみやふらつきに注意を要します。 |
悪夢 | 発生頻度は少ないですが、通常の夢よりも不安は恐怖の内容の夢を見ることがあります。睡眠覚醒サイクルへの影響、レム睡眠の増加が関係しています。 |
幻覚 | 一部の人は、薬剤を服用すると入眠時あるいは覚醒時に幻覚を経験することがあります。レム睡眠関連症状の一つですが、頻度は不明です。 |
睡眠麻痺 | 金縛りと呼ばれています。寝付くとき、あるいは覚醒するときに体が動かない状態になります。不安や恐怖を併発することがあり、レム睡眠が関与しています。 |
特定の病気をもっている人への注意点もあります。ナルコレプシー、カタプレキシーがある場合は、デエビゴを服用すると症状が悪化するので、注意しなければなりません。海外では、ナルコレプシーの患者さんへの投薬は禁忌となっています。
出典:QUVIVIQ HIGHLIGHTS OF PRESCRIBING INFORMATION – FDA
副作用への対処法について
クービビック(ダリドレキサント)の副作用かもしれないと感じたら、適切な対処が重要です。体が薬に慣れるにつれて経過中に症状が落ちつくケースもありますが、めまい、頭痛、吐き気、強い眠気、精神症状の悪化があれば、医師に相談すべきです。
出典:Daridorexant (Oral Route) – Mayo Clinic
よくある副作用と対策について、紹介します。
1.眠気
まず、クービビックを服用するタイミングを見直してみましょう。就寝時刻に合わせて服用時間を調整する方法があります。
次に、50mgを服用されている方は、担当医と相談の上、25mgへの減量を検討してみるのも一案です。個人差はありますが、用量を減らすことで日中の眠気が改善する場合があります。
それでも、眠気が残る場合には、他の睡眠薬への変更について相談となります。他のオレキシン受容体拮抗薬への変更も代替案となります。しかし、デエビゴ、ベルソムラの両者とも半減期が長いので、起床時の眠気が消失するかは不明です。
それ以外になると、従来型の睡眠薬(ベンゾジアゼピン系あるいは非ベンゾジアゼピン系)が候補です。しかし、持ち越し効果や副作用は個人によって異なりますので、慎重に選択する必要があります。
2.悪夢・金縛り
クービビックを飲み始めてから、異常な夢や悪夢、幻覚、さらには睡眠麻痺(体を動かせない感覚;金縛り)を経験される方がいらっしゃいます。これらの体験は精神的に不快で、日常生活に影響を与えます。そればかりか、睡眠そのものへの恐怖と不安を感じる懸念があります。
有効成分であるダリドレキサントによって、レム睡眠(夢を見やすい睡眠段階)の時間が増えることが原因の一つと考えられています。このような症状でお悩みの方は、まず就寝前のリラックス方法を試してみましょう。深呼吸、軽いストレッチ、瞑想などを行い、心身をリラックスさせることを勧めます。
寝酒の習慣はありませんか。もし、アルコールを飲む習慣がある方は、就寝前の飲酒を控えてみてください。
これらの対策を試しても症状が改善しない場合は、遠慮せずに医師に相談しましょう。薬の減量や他の睡眠薬への変更を検討することもあります。
3.頭痛
クービビックを服用中の患者さんの中には、頭痛を副作用として経験する方がいます。通常は軽いものですが、頭重感と表現される場合もあるようです。
頭痛に悩まされた場合、脱水にならないような水分摂取を心がけましょう。なぜなら、脱水は頭痛を悪化させることがあるからです。同時にアルコール摂取も頭痛を悪化させる要因になりますので、飲酒を控えてください。そして、クービビック内服中も、規則正しい睡眠習慣を維持しましょう。ストレス管理も頭痛の誘発を防ぐのに役立ちます。
頭痛が続く場合や日常生活に支障をきたす場合は、担当医に伝えましょう。用量の調整やあるいは別の睡眠薬への切り替えを検討します。
4.その他
頻度は不明ですが、睡眠時随伴症の報告があります。夢遊病の症状が現れたら、薬を中止して速やかに再診してください。
出典:Daridorexant Oral Tablets – Cleveland Clinic