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旅行や出張中【ホテルで不眠に悩むときの対処法】
はじめに

旅先でホテルのベッドに横になったあの瞬間、あなたも経験したことがあるのではないでしょうか。いつもより早く床についたのに、なぜか眠れない。家なら数分で眠れるのに、ホテルでは天井を見つめて時計の針だけが進んでいく。そんな焦りと不安を感じたことはありませんか。
出張の翌日は重要なプレゼンがあるのに、旅行では早朝からのツアーが待っているのに、どうしても眠りにつけない状況があると、「このまま一睡もできなかったらどうしよう」という不安な気持ちになってしまいます。そして、その心理面の変化が、さらに不眠を引き起こすという悪循環につながります。
この記事では、旅行者、出張者のために、睡眠専門医がセルフケアから緊急時の対処法まで、ホテルで眠れるためのヒントをお伝えします。
ホテルで眠れない原因とは?

慣れない環境での睡眠は、多くの方が抱える悩みです。ホテルで寝付けない原因は、主に環境要因と心理的要因に二つに分けられます。
要因 | 特徴 |
---|---|
環境 | 自宅とは異なる寝具の硬さや感触、エアコンの音や廊下の足音などの騒音、部屋の温度や湿度の違い、カーテンからもれる光などが、あげられます。特に、枕、マットレスの硬さは人によって好みが大きく異なるため、ホテルの標準的な寝具が合わないことも少なくありません。 |
心理面 | 「知らない場所で眠ることへの無意識の警戒心」「翌日の予定への不安」「自宅から離れているストレス」など、私たちの心は慣れない環境に対して自然と緊張してしまいます。この「初夜効果」と呼ばれる現象は、進化の過程で身についた防衛本能の一つでもあります。 |
場所が変わると眠りにくい人は、センシティブ・スリーパーと呼ばれることがあります。旅先のホテル、友人や親戚の家などにおいて、不眠が生じることがあります。具体的には、以下のような影響があります。
HSPと似ていますが、センシティブ・スリーパーは、睡眠に対して敏感になっていることを表現しています。ストレスなどの外的要因によって睡眠がどれだけ影響を受けやすいかという概念(睡眠反応性)に類似しています。
日本の大手ホテルチェーンによる調査結果から、ビジネス出張者の睡眠状況について実態が明らかになりました。9割もの人が普段の自宅での睡眠と比較して「ぐっすり眠れていない」と自覚しており、さらに約7割の人が通常より睡眠時間が短くなっているというのは注目すべき結果です。
出典:出張と睡眠に関する意識調査 – 阪急阪神第一ホテルグループ
海外の研究報告ですが、興味深いものがあるので紹介します。505人の旅行者を対象に、旅行中の睡眠にどのような影響が出るかを調べた結果です。
その報告によれば、眠りにくくなるリスクが高い人にはいくつかの共通点があることがわかりました。まず、普段から早寝早起きをしている「朝型」の人は、環境の変化に敏感で、旅先で睡眠リズムが乱れやすい傾向があります。また、旅行中に睡眠時間が普段より短くなってしまうと、さらに不眠の傾向が強まることがわかっています。音や光などに敏感な人も、ホテルなどの慣れない環境の影響を受けやすいでしょう。
さらに、観光や休暇ではなく仕事での出張中の人は、レジャー目的の旅行者よりも睡眠トラブルを起こしやすい傾向が明らかになりました。
これらの調査結果から明らかなように、出張や旅行のときに睡眠パターンが変化することは、よくある出来事と言えるでしょう。
ホテルの部屋:環境の対策について

1. 騒音対策
ホテルで眠りを妨げる要因として、隣室からの声や廊下の足音、エレベーターの動作音、外界の交通音などがあります。対策としては、携帯型の耳栓を持参することが最も手軽で効果的です。シリコン製やフォーム製など材質によって遮音性や装着感が異なるので、事前に自宅で試してみることをおすすめします。また、ホワイトノイズアプリを活用すれば、一定の音で不規則な騒音をマスキングできます。
予約時にはエレベーターから離れた部屋や高層階を選ぶことも有効です。そして、騒音源となるレストラン、大通り沿いから離れた部屋を勧めます。チェックインのときに、フロントに静かな部屋を希望していることを相談してみましょう。
出典:Shah et al. Travel and Sleep. Am J Respir Crit Care Med. 2021;203:P1-P2.
2. 温度と湿度の対策
快適な睡眠のために、寝室の温度として夏季:25~26℃、冬季:18℃前後、そして、湿度は50〜60%を目安に調整しましょう。空調の調節は大切です。
多くのホテルではエアコンの設定が可能ですが、乾燥しがちな冬季は携帯用の加湿器があると便利です。なぜなら、部屋の乾燥は、ホテルで寝付けない原因として多いからです。ホテルで加湿器を借りられる場合もあるので、尋ねてみましょう。濡れたバスタオルを部屋に干しておくアイデアもあります。
夏場は冷房による冷えすぎに注意し、タイマー設定を活用しましょう。また、寝間着も快眠のために欠かせない要素です。具体的に、吸湿性と放湿性に優れた素材のものを選ぶと体温調節がスムーズになります。温度に敏感な方は、ブランケットをホテルに事情を話して借りましょう。
3. 照明対策
ホテルの照明は、カーテンの隙間からの漏れる外界の光や、空調などの機器のランプが意外と眠りを妨げます。アイマスクを用意すると良いでしょう。軽量で持ち運びやすいタイプを、あらかじめ自宅で試しておくことを勧めます。
また、就寝前にはテレビやスマートフォンなどのブルーライトを発する機器の使用を控えめにし、最低でも就寝30分前には電源を切るようにしましょう。
どうしても気になる小さなランプは、バスタオルなどで覆うという簡易的な方法も効果的です。
慣れない寝具への対応方法

1. 固いベッドの対処法
ホテルのベッドは、幅広い客層に対応するため、やや固めのものが選ばれている場合が多いです。固すぎるベッドに対しては、室内にあるバスタオルを二つ折りにしてシーツの下に敷く方法を試してみてはいかがでしょうか。
特に肩や腰が当たる部分に追加のクッション性を持たせることで、体圧分散に役立ちます。選んだホテルによって、「できること」と「できないこと」がありますが、フロントに相談することを勧めます。案外、良いアイデアを提案してもらえることがあります。
2. マットレスの違いに適応するコツ
自宅とホテルでは、マットレスの種類や素材が異なるため、体が違和感を覚えるのは自然なことです。チェックインして、部屋に到着したらベッドに横になって感触を確かめましょう。
いつもと違う寝姿勢を試してみるのも有効です。例えば、いつも仰向けで寝る人は横向きを試すなど、そのマットレスに合った寝方を探ってみましょう。
就寝前のストレッチも効果的です。腰や肩の筋肉をほぐしておくと、体が適応しやすくなる助けになります。
3. まくらをどうするか?
枕についても同様で、高さや硬さが合わない場合は、複数の枕を組み合わせたり、タオルを巻いて調整すると良いでしょう。
筆者が取材したホテルでは、枕の材質、形状を選べるところがありました。荷物になりますが、普段使っている枕を持参する経験談を聞いたこともあります。
不眠を解消するためのヒント
出張・旅行時の睡眠リズム調整
出張や旅行では、環境の変化だけでなく生活リズムの乱れも睡眠に影響します。対策としては、出発前から少しずつ目的地の時間帯に合わせた生活リズムに調整することが効果的です。
特に海外に渡航される場合は、フライト中の水分摂取を心がけ、到着後は現地時間に合わせた食事と光の浴び方を意識しましょう。
また、いつもの就寝時間の2〜3時間前から、スマートフォンやパソコンの使用を控え、体内時計を乱さないよう注意することも大切です。毎晩同じ時間に風呂に入る習慣をつけることで、どこにいても体が「もうすぐ眠る時間」だと認識しやすくなります。
初めてのホテルでのリラックス法
場所が変わると眠れない緊張感を和らげるには、まず到着したらホテルの部屋を「自分の空間」として認識させることを提案します。自分の荷物を広げ、化粧ポーチやスリッパなど馴染みのあるアイテムを目につく場所に配置しましょう。
リラックスするための儀式も効果的で、自宅で行っている就寝前のルーティン(読書や軽いストレッチ、ヨガ、ハーブティー、ミルクを飲むなど)をホテルでも再現することで、気持ちが落ち着きます。
知らない土地、窓越しに見える「慣れない風景」による不安が強い場合は、深呼吸や瞑想アプリを活用した呼吸法も試してみてください。
どちらかというと、自律神経の中で、興奮を司る交感神経が優位になっています。そのため、高ぶる気分を鎮めるために、睡眠BGMを活用する方法もあります。普段よく聴いている穏やかな音楽をスマホにダウンロードしておき、音量を小さめにして睡眠BGMを流す人もいます。もちろん、1時間くらいでOFFになるようなタイマー設定をしておいてください。
人によっては、自宅から小さなお気に入りの毛布や枕カバーを持参するケースもあります。自分にとって馴染みのある触感と香りが、リラックスを促進します。大人になっても、旅先にぬいぐるみ、お気に入りのタオルを持っている経験談を聞いたことがあります。
ビジネスマンで、同じ土地への出張があるときは、常宿を選択するという工夫もあります。いつも泊まりつけのホテルなら、見慣れている寝室空間であるので、緊張感が少なくなるメリットがあります。
睡眠専門医が提案する持ち物リスト

ホテルでの眠りを安定させるために役立つグッズのリストがありますので、参考にしてください。いきなり、旅先の宿で試すより、自宅で効果をテストしてみることを勧めます。
- 耳栓
- アイマスク
- 卓上加湿器
- 枕カバー、タオル
- ホワイトノイズマシン
ホテルによっては、部屋の壁が薄い場合もあります。その場合に、隣室の大きないびきが気になって眠れないケースがあります。また、同じ部屋に複数人で泊まるときは、いびきをかく人がいると不眠の原因になります。そんなときは、耳栓が役立ちます。
ホテル滞在中の不眠:緊急時の対処法

ホテルでどうしても眠れない夜になった場合は、横になって目を閉じるだけでも、脳と身体は部分的に休ませることができます。
体を休息させるために、「意識的休息」を試みましょう。具体的には、体の力を抜いて深い呼吸を繰り返し、「今は眠れなくても大丈夫」と自分に言い聞かせることで、睡眠へのプレッシャーを軽減します。20〜30分ごとに体勢を変えて同じ寝姿勢による身体的なストレスを減らすことができます。
眠れないという焦燥感が強い場合は、一度、ベッドから離れて、気分を転換させるのも一案です。普段から、ストレッチのやり方を自宅で練習しておいて、旅先でストレッチして眠りにつくというビジネスマンの体験談を聞いたことがあります。
それでも改善がみられない場合の選択肢の一つとして、ドラッグストアの睡眠改善薬(リポスミン、ドリエル、ネオデイなど)があります。同薬剤を使うときは、必ずドラッグストアの薬剤師に相談し、飲み方と副作用などの注意事項について、説明を受けてください。
不眠と医療機関への相談のタイミング

多くの場合、ホテルでの不眠は一時的なものであり、これまでご紹介した対策で対処できる可能性があります。しかし、以下のような状況では、医師への相談を検討する余地があります。
毎回、ホテルに泊まると不眠になる場合、具体的には、出張や旅行のたびに寝付かれない状況となっていて、日常生活や仕事に支障をきたしていることを目安としてください。
- 仕事に支障をきたすような眠気がある
- 運転中の集中力が低下する
- ホテルに泊まることに強い不安を感じる
- 市販の睡眠改善薬を常用して依存している
- いびき、無呼吸などの症状がある