- ホーム
- 心的外傷後ストレス障害があって眠れない人の対処法
心的外傷後ストレス障害があって眠れない人の対処法
心的外傷後ストレス障害はどんな病気なの?
心的外傷後ストレス障害は、激しい恐怖や無力感を伴うトラウマ体験後に発症する「心の病気」です。英語では、頭文字をとってPTSDと略されています。
例えば、交通事故、自然災害、戦場、性的被害や暴力の事件など、ショッキングな出来事を経験した後に、その記憶や感情が何度もよみがえることが特徴です。悪夢やフラッシュバックなどの症状が現れることがあります。
あなたが夜、目を閉じるたびに過去のトラウマが頭の中で再生されて、質の良い眠りが取れない経験はありませんか?PTSDと睡眠障害が併発すると、ぐっすり眠れないばかりか、日常生活に深刻な影響を及ぼします。
今回のブログ記事では、PTSDと関連する睡眠の問題を詳しく取り上げます。あなたの不安や疑問、夜の悩みを和らげる手助けとなり、その解消への第一歩になることを願っています。
PTSDが発症する原因
PTSDの発症には、一人一人のメンタル面の強さやこれまでの経験、身近なサポートの存在や、トラウマを受けた後の環境など、さまざまな要素が影響します。
原因 | トラウマの具体的な内容 |
---|---|
極端な暴力や脅迫 | 戦争やテロリズム、暴動や集団的な暴力事件での経験者は、これらの場面で受けたショックや恐怖からPTSDを発症することがあります。 |
自然災害 | 地震や津波、洪水、台風、土砂崩れ、竜巻などの自然災害を経験した人も、その恐怖や悲劇の記憶からPTSDを発症するリスクがあります。 |
身体的、性的被害 | 強姦や身体的な暴行を受けた人、痴漢、虐待を経験した人、特に繰り返し性暴力を受けた人は、PTSDのリスクが高まります。 |
重大な事故や怪我 | 交通事故や労働災害、火事などの事故での体験から、そのショックや痛みの記憶がトラウマとして残り、PTSDを発症することがある。 |
突然の喪失 | 家族や友人、自分が親しく付き合ってた人の突然の死は、生き残った人々に深い悲しみや衝撃をもたらし、これがPTSDの原因となることもあります。 |
児童虐待 | 幼少期の感情面の虐待やネグレクト(育児放棄)、性的虐待などは、成人期にPTSDを発症させる引き金になる可能性があります。 |
すべての人が同じような出来事からPTSDを持つわけではありません。同じような大変な経験をしても、PTSDにならない人もいます。なぜそうなるのかは、まだ解明されていません。しかし、幼少時の生活で得た経験、遺伝、脳の神経構造の違いなどが、PTSDの発症に関係している可能性があります。
出典:PTSDの病態研究 – 国立精神・神経医療研究センター
どのような症状が現れるか?
症状 | 具体的な内容 |
---|---|
再体験 | 過去のつらいイベントが、まるで今起こっているかのように頭の中で繰り返し再生されます。そして、現実感のある映像や感情、悪夢として夜間に現れることもあります。 |
回避と無感動 | トラウマに関係している場所や人、活動を思い出したくないので、それらを避ける傾向があります。また、感情を鈍くなったり、孤独感、疎外感を抱くことがあります。 |
過度の覚醒 | 常に緊張した状態にあり、驚きやすくなります。不眠、集中力の低下など、神経が高ぶり、自律神経のバランスが崩れます。些細なことがあっても、怒りっぽくなります。 |
負の思考や気分 | 自分や他人、未来に対して極度に悲観的になったり、何をしても楽しめくなります。自責の念が強くなったり、人間不信に陥ったり、気分が不安定になります。 |
PTSDと睡眠障害の症状
トラウマを体験した後は、身体や心にさまざまな反応が生じます。PTSDでは、過去のトラウマ体験を頻繁に思い出すため、緊張と不安感が高まっている状況が続きます。そして、さまざまな睡眠の問題が引き起こされます。ぐっすり眠れないということは、質の良い眠りが得られないことを意味するので、日常生活の質を大きく低下させる要因となります。これから、頻度の高い睡眠障害について、紹介します。
病名 | 病状の内容 |
---|---|
不眠症 | PTSDがある人の90%の割合で、不眠がみられます。眠れない理由として、リラックスできない過覚醒のためです。自律神経の調節がうまくいかず、安定した睡眠がとれません。夜間にも警戒する気持ちが高まっているので。浅い眠りになります。眠れないというストレスは、アルコール摂取、不適切な昼寝などの要因になります。 |
悪夢 | 恐ろしい内容の夢、夜の恐怖に悩まされることが、大多数です。夜中に目が覚め、再び眠りにつくことが難しくなります。これらの鮮明な夢の内容は過去のトラウマに関係していることが多く、繰り返しの悪夢を見ます。夢見が悪いことを知っているので、就寝時間を遅らせたり、あるいは睡眠時間を短くしたり、睡眠を避ける傾向があります。 |
閉塞性睡眠時無呼吸 | PTSDの症状で悩んでいる人の中で、なぜ睡眠呼吸障害がみられるかの理由は明確ではありません。眠れないストレスによるアルコール摂取、PTSDの治療のために用いられる向精神薬の副作用(筋弛緩作用、食欲亢進による体重増加)などが考えられます。夜間の呼吸異常は、安定した睡眠を妨げます。 |
悪夢による症状として、発汗、動悸などを経験する人もいます。自律神経が乱れることで起きる症状と言えます。恐怖体験のために、激しい寝言、うなされる様子がパートナーによって観察されることも少なくありません。奇声を上げることもあるので、周りの人がびっくりする事例もあります。
PTSDのある若年の成人について終夜睡眠ポリグラフ検査で睡眠の状態を評価した研究報告があります。その結果として、睡眠の質が低下しており、特に夜間の覚醒している時間が増加し、レム睡眠のときに中途覚醒が増えることが確認されました。そして、トラウマに関係した悪夢の重症度と睡眠の異常について、正の相関が観察されました。この事実から、PTSDはレム睡眠が病態に大きく関わっていることが分かります。
外来で聞き取りをした経験では、PTSDの人には不眠が多いことが特徴的です。特に悪夢が長年続くことで、つらい思いをされているようです。睡眠の異常によって、日常生活が影響を受けています。長期に続く睡眠不足は、集中力の低下や記憶力の障害、気分の悪化などさまざまな身体的、精神的なトラブルを引き起こします。
毎日の睡眠が妨げられる結果、PTSDの症状自体も悪化するリスクがあります。そのため、不眠のコントロールが病状の安定化に不可欠です。
筆者は睡眠専門医として患者さんとお話ししたことがありますが、印象として、トラウマ体験を他人に打ち明けることの難しさを推察しています。性被害など、辛い体験に対する羞恥心や自分を責める気持ちから、詳しくは語りたくないということがあります。
医師と面談することで過去のトラウマの再体験の恐れや、医師の反応を心配する気持ち、そして、プライバシーへの懸念があるようです。これらの要因は、「今まで誰にも話せなかった心の内」を打ち明けることの大きな壁になっていると思います。
PTSDに併発した中途覚醒が主体である不眠に対しては、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬を検討することがあります。さらに、悪夢による影響が強いときは、クロナゼパムあるいはレム睡眠を減少させる働きのある抗うつ薬を考慮します。薬剤の依存性の問題に注意しながら、適切な管理を受けることが大切です。
出典:内山 真 他, 精神疾患にみられる不眠と過眠への対応,精神神経学雑誌,122,899-905,2010
睡眠薬に抵抗がある場合は、依存性の心配がない漢方薬を試みることもあります。詳しくは担当医と相談してみることを勧めます。
PTSDの人が、睡眠がとれないと、どのような影響がありますか?
集中力と記憶力の低下、メンタルヘルスの不調が起きる恐れがあります。
出典:Sleep Problems and PTSD – U.S. Department of Veterans Affairs
診断する方法とは
心的外傷後ストレス障害の診断は、どんな症状が、どのようなトラウマと関係があって発症しているか、こころの状況について、評価していきます。トラウマの体験があると、どんな反応が出現するか問診で確かめます。ただし、本人にとって、とても辛いことを話すことになるので、家族、パートナーが同席して診察を進めることもあります。
PTSDの診断をするためには、米国精神医学会の精神疾患の診断分類(DSM-5-TR)が用いられます。他のこころの病気、例えば、うつ病、不安障害の症状と似ている点があるので、鑑別していくことが大切です。身体症状の評価も併せて行われます。
何科を受診すれば良いですかか?
PTSDを専門に診る診療科として、心療内科、精神科があります。
治療について
PTSDの治療は、その人の症状や状態に合わせて、決められます。主な治療法は、心のケアと薬を使った治療の2つが中心です。
種類 | 特徴 |
---|---|
メンタルケア | 心理療法は、6~12週にかけて行われることが多いです。その中で、認知行動療法は、PTSDの治療に有効とされています。この治療法は、患者さんと臨床心理士が一緒になって、トラウマの出来事やそれに関連する考え方、反応を取り上げて、その考え方を変えていきます。家族、友人のサポートがあると、より効果的です。 |
薬物療法 | 抗うつ薬や抗不安薬が、症状を和らげる助けとなり、日常生活の質を向上させる目的で使用されます。選択的セロトニン再取り込み阻害薬、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬は気持ちを落ち着かせたり、不安やうつの症状を減少させる助けとなります。一方、非定型抗精神病薬は、フラッシュバックの対処として用いられることがあります。 |
出典:Post-Traumatic Stress Disorder – The National Institute of Mental Health
具体的にどのような薬が処方されることがありますか?
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の中で、セルトラリン、パロキセチンが使われることが多いです。日本では、これらの薬剤は、外傷後ストレス障害の治療に対して保険適用があります。
出典:Medications for PTSD – American Psychological Association
PTSDによる睡眠の問題でお悩み方々へ。一人で悩みを抱え込まず、勇気をもって、医師に相談しましょう。あなたのトラウマを共有することで、心の負担が軽くなる第一歩となるかもしれません。あなたの気持ちを大切にしてください。