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心不全と睡眠ケア:看護師の役割が分かる
心不全患者の「睡眠の重要性」
心不全の患者というと、一般的には血圧管理や食事療法(塩分と水分量など)、運動療法、服薬指導などが主なケアの焦点となります。しかし、睡眠の質と睡眠時間は、生活の質、そして病状にも大きな影響を与えます。さらに、睡眠障害は心不全を悪化させる要因になります。
ここで問題となることが、心不全の患者が自身の睡眠障害に気付かないことが多いという事実です。そのような状況では、患者と身近に接することが多い看護師が果たす役割がとても大切です。
このページを読むことで、心不全と睡眠に関する知識のアップデートを行い、具体的なケアの方法、効果的な患者とのコミュニケーションができるようになるヒントになれば、嬉しいです。
睡眠の問題と心不全は相互に影響します
睡眠と心不全の関連性は、いくつかの医学論文において証明されています。具体的には、心不全の患者は、睡眠時無呼吸症候群を発症しやすく、これが病状を不安定にさせます。
心不全に多い睡眠呼吸障害として、中枢型睡眠時無呼吸、チェーンストークス呼吸があります。そして、これらの異常呼吸は予後を悪化させることが知られています。
一方、閉塞型睡眠時無呼吸があると、交感神経が亢進するため心臓および血管にストレスがかかります。その結果、血圧を上げたり、不整脈を発生させたり、循環器の病気を発症させるリスクが高くなります。
出典:Lévy et al. Sleep apnoea and heart failure. Eur Respir J. 2022;59(5):2101640.
このような病気の関連性を理解することで、看護師は心不全患者に対して、より質の高い看護を行うことができます。
心不全患者の睡眠管理:具体的なケア方法
心不全患者の睡眠アセスメントには、いくつかの重要なポイントがあります。
まず、患者の睡眠習慣や症状の有無について、情報を集めましょう。特に、眠っている間に起きていることは本人が分からないので、家族からの聴取も必要になります。
1.睡眠中の観察とアセスメント
夜間の巡視は、看護師が心不全患者の睡眠の様子を見ることができる絶好の機会です。特にいびきは、心不全患者が睡眠時無呼吸症候群を患っている可能性を示すサインと言えます。
しかし、いびきだけではありません。寝言、歯ぎしりなどの行動も、睡眠障害やストレスの兆候である可能性があります。ラウンドをしているときの観察は、心不全の病状、患者の心理的な状態などを把握するのに有用な手がかりとなるでしょう。
病棟の看護師は、心不全患者の眠っているときの様子について、詳細に記録することがポイントです。少なくとも「いびきをかいているか」について、記載することを勧めます。
2.家族からの情報収集の重要性
心不全患者が睡眠中にいびきをかいている場合、その家族からも普段の様子について聞いてみましょう。
特に、いびきをかくようになった時期、呼吸が止まることがあるか、苦しそうな呼吸が伴っているかどうか、寝相が悪いかどうかなど、詳細な情報は、睡眠時無呼吸症候群を発見する手がかりになります。
家族から情報を得ることで、患者の日常生活における睡眠習慣の理解にもつながります。例えば、寝不足があったり、不規則な睡眠リズムをとっていたり、聞き取りによって、心臓病の発症との関わりが分かるかもしれません、そして、それらの情報は、患者の適切なケアプランを立てる上で重要です。
看護師が心不全患者とその家族とコミュニケーションをとるときは、いびきや不眠についても尋ねることを忘れないようにしましょう。
3.心不全患者の睡眠障害を見抜くポイント
心不全患者の看護において、睡眠の質に対して気に掛けることは、患者の生活の質を高めて、病状の安定に役立ちます。以下に、看護師が病棟で担当している心不全患者と接するときに見逃してはいけない睡眠のサインをお伝えします。
症状 | 特徴 |
---|---|
大きないびきや無呼吸 | 睡眠時無呼吸症候群は、心不全の患者に多くみられます。寝ているときに、いびきをかいている、呼吸が止まることがあるなら、病気を発見する手がかりになります。巡視のときに見つかることがあります。 |
夜間の排尿回数の増加 | 夜中に何度もトイレに行く症状は、心不全の症状の1つです。尿意のため途中で目覚め、睡眠の質が低下します。睡眠時無呼吸があると、低酸素血症が心臓に負担を与えるので、夜間の排尿回数が増える要因になります。 |
昼間の眠気 | 患者が日中に眠気を訴える場合、睡眠不足、睡眠リズムの異常あるいは睡眠の質の低下があるかもしれません。何らかの睡眠障害が疑われる徴候と言えます。昼間に眠そうにしていないか、確認しましょう。 |
4.担当医に報告する方法
上記のようなサインを見つけたら、担当医に伝えることが重要です。具体的な症状と頻度、患者が抱えている症状の悩みを伝えると良いでしょう。その際に、自分の見解や提案も報告します。適切な患者の観察、そして、医師、他のコメディカルに情報を共有することで、チームとしての看護ケアが向上します。
特に、心不全は夜間に増悪することが多いので、睡眠中の低酸素血症があるか評価することは有用です。睡眠時無呼吸が疑われる場合は、医師の指示を求めて、夜間のパルスオキシメーターによる連続測定を行うことを勧めます。心不全患者の低酸素血症の程度について、医師に具体的に伝えることができます。
海外では、外来において、看護師が閉塞型睡眠時無呼吸の診断のため、夜間の携帯型装置(呼吸センサーとパルスオキシメーター)による睡眠呼吸障害の評価を行うという試みが報告されています。
コミュニケーション:患者への説明と教育
患者および家族に対して、分かりやすい説明と教育を行うことは、心不全の治療の成功のカギとなるでしょう。具体的には、「なぜ睡眠が大事なのか」、「どのように生活を改善すれば良いのか」を明確に伝えることが大切です。患者が家庭に戻ってから、日常生活において健康を維持するための手助けになります。
肥満がある場合、睡眠時無呼吸症候群の治療管理として減量に成功することは、慢性心不全のコントロールが良くなることにつながります。
退院前の対策【心不全の再入院を予防する】
心不全の治療が一段落し、もうすぐ退院できるという時期になっても、油断は禁物です。特に、患者がいびきをかいているようなら、その背後に潜む可能性のある睡眠時無呼吸症候群を見逃さないようにすることが大切です。
日常生活への復帰支援に移行していくときに、睡眠時無呼吸症候群の存在が疑われる場合、退院前のカンファレンスで話し合いましょう。そして、睡眠の診察を受けることを提案するべきです。なぜなら、未治療の睡眠時無呼吸症候群があると、慢性心不全の急性増悪のリスクが高くなり、結果として再入院の可能性が高くなるからです。
重度の閉塞型睡眠時無呼吸を併発した心不全の場合、CPAP治療の開始を検討しても良いかもしれません。一方、中枢型睡眠時無呼吸が優位であるときは、夜間酸素療法あるいはASV(適応補助換気)を使うことがあります。
まとめ
心不全患者の中には、眠りの問題を抱える人が多く、その中でも睡眠時無呼吸が好発します。未治療の睡眠障害は心不全の悪化を引き起こす可能性があります。退院後の生活を安定させるためには、入院中に早期に発見して、治療介入を開始することが得策です。
看護師は睡眠の観察(いびき、無呼吸、夜間の排尿回数、眠気など)、情報の収集(本人と家族)、教育、医師への報告などを通じて、患者の睡眠の質を改善する重要な役割を担います。必要に応じて、「低酸素血症の評価」として、夜間のパルスオキシメーターの測定を行いましょう。
以上のような取り組みを看護チームとして行うことで、看護師は心不全患者の睡眠の改善と心不全の病態の管理に大きく貢献することができます。そして、これによって患者の生活の質が向上します。