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ダリドレキサントとゾルピデムの比較と使い分け方
はじめに

あなたは、夜中に目が覚めてしまう、寝付きが悪い、朝までぐっすり眠れないなど、不眠の悩みを抱えていませんか。医師の診察を受けて睡眠薬の処方を検討されている方の中には、次のような心配があるかもしれません。
・依存性が心配です。
・翌朝に眠気が残らないか不安です。
・仕事や運転に影響はないのか。
不眠症に用いられている治療薬として、超短時間型の睡眠導入剤であるマイスリーがあります。国内では処方患者数が多い薬です。一方、依存性のない薬を希望される方も多く、オレキシン受容体拮抗薬が選ばれる機会が増えています。具体的な薬剤名としてデエビゴとベルソムラがあります。
今回は、2024年12月に上市された睡眠薬であるクービビックと、発売されてから25年経過しているマイスリーについて、医師の視点から詳しく比較、検討してきます。睡眠薬の選択には慎重な判断が必要です。両者の注意点、特徴を理解することで、使い分け、選び方のヒントになれば幸いです。
クービビックとマイスリーの比較
マイスリー | クービビック | |
---|---|---|
製造会社 | アステラス製薬 | イドルシア |
有効成分 | ゾルピデム | ダリドレキサント |
剤形 | 5mg、10mg | 25mg、50mg |
一包化 | できる | できる |
ジェネリック医薬品 | あり | なし |
効能と効果 | 不眠症 | 不眠症 |
成人の用量 | 5mg~10mg | 25mg~50mg |
高齢者の用量 | 5mg~10mg(最大) | 25mg |
禁忌 | 急性閉塞隅角緑内障 | CYP3Aを強く阻害する薬剤投与中、重度の肝機能障害 |
最高血中濃度到達時間 | 0.5~1.1時間(5mg単回投与) | 1.0時間(50mg反復投与) |
血中濃度半減期 | 2時間(5mg単回投与) | 6.6時間(50mg 反復投与) |
副作用 | 眠気、頭痛、残眠感、めまい、睡眠随伴症状、悪心、嘔吐、食欲亢進 | 傾眠、頭痛、浮動性めまい、悪夢、睡眠時麻痺、異常な夢、入眠時幻覚 |
効き目が長い薬はどちらか?

両薬剤の電子添文によれば、マイスリーの血中濃度半減期は、クービビックよりも短いことが分かっています。ゆえに、薬の有効成分が体内で代謝される時間を考慮すると、クービビックの効果時間がマイスリーより長く、効き目が持続すると考えられます。もちろん、年齢、体質などの個人差があります。
ところで、ダリドレキサントとゾルピデムの睡眠への効果を比べた研究報告がありました。
ダリドレキサントでは:
夜中に目が覚める回数が減少
目が覚めても、すぐに眠りに戻れる
夜通しの安定した睡眠効果が期待できる
ゾルピデムでは:
寝つきはよい傾向にある
しかし、深夜から朝方にかけて目が覚めやすくなる
薬の半減期が短く効果が比較的早く弱まることが原因と推定
薬の効果が切れた後に、かえって目が覚めやすくなることがある
上記のような違いは、それぞれの薬の特徴によるものです。ご自身の生活リズムや睡眠のパターンに合わせて、担当医と相談しながら適切な薬を選んでいくことが大切です。
私の処方経験でも、クービビック、デエビゴなどのオレキシン受容体拮抗薬の場合、途中で目が覚めても再び眠れたという患者さんの声を聞くことが多い印象です。おそらく、クービビックの半減期が長いという理由であると推察しています。
副作用の違いはあるのか?
クービビックとマイスリーによる副作用の発現について考えると、作用機序の違いが副作用の違いを生んでいます。
クービビックはオレキシン受容体拮抗薬という新しい作用機序を持つ薬剤です。従来からある非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬であるマイスリーに比べ、依存性や反跳性不眠のリスクが低い特徴をもっています。
添付文書によれば、翌日の傾眠あるいは眠気については、両者とも3%前後であり、大きな差はないようです。しかし、クービビックは服用後7時間くらいの睡眠がとれないと、翌朝に眠気が残る可能性があります。
海外のデータでは、頭痛、眠気、下痢、疲労などの有害事象の発生率はダリドレキサント50mgが投与された人で34%でした。それに対して、ゾルピデム10mgを投与された人では、40%でした。
出典:Robinson et al. Daridorexant for the Treatment of Insomnia. Health Psychol Res. 2022;10(3):37400.
レム睡眠関連症状の副作用については、クービビックでは悪夢、幻覚がみられます。それに対して、マイスリーでは、異常行動(夢遊症)が報告されています。
副作用の観点から考察すると、長期使用なら依存性のリスクが少ないクービビック、即効性を求めて屯用ならマイスリーが向いているかもしれません。ただし、マイスリー処方を考えるときは、健忘と依存性、そして眼圧に注意しなければなりません。
一般的に、高用量であると副作用の発現は高くなる傾向がります。そのため、もし、副作用かもしれないという症状が現れたら、用量を減らすことを勧めます。医師に相談してください。
マイスリーとクービビック:薬価の違い
1.マイスリーの価格
ゾルピデム | 薬価 |
---|---|
マイスリー錠5mg | 20.6円/錠 |
マイスリー錠10mg | 31.0円/錠 |
※マイスリーには後発品があります。
ゾルピデム酒石酸塩という一般名に製薬メーカーの名称が追加されたものです。ジェネリックの場合、5mg錠の薬価は10.1円です。それに対して、10mg錠の薬価は10.1~23.4円です。
2.クービビックの価格
ダリドレキサント | 薬価 |
---|---|
クービビック錠25mg | 57.3円/錠 |
クービビック錠50mg | 90.8円/錠 |
クービビックとマイスリーについて薬のコストを比較すると、マイスリーのお薬代のほうが安くなります。
クービビックとマイスリーを併用してもよいか?
クービビックはオレキシン受容体拮抗薬に分類されています。それに対して、マイスリーは非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬です。同時に服用すると過度の鎮静が起こり得るので、原則として併用しません。
使い分けのヒント
依存性の少ない薬を求めるなら、薬理作用の特性を考慮するとクービビックが優位と言えます。
不眠のタイプによって、睡眠薬の選択をするなら、入眠困難であれば、クービビックとマイスリーは共に選択肢になります。一方、中途覚醒が主体の不眠であるなら、マイスリーの作用時間ではカバーできない可能性があり、クービビックが適しています。