- ホーム
- アフリカトリパノソーマ症の睡眠障害
アフリカトリパノソーマ症の睡眠障害
アフリカ睡眠病とは
トリパノソーマと呼ばれる寄生虫が中枢神経系に侵入して発症する感染症です。平衡感覚が保てず歩行が困難になったり、錯乱、けいれんなどの症状が出現します。
睡眠の症状として、眠気、嗜眠が現れることが特徴で、眠り病と呼ばれています。治療せずに放置すると、昏睡、死亡に至る危険な病気です。
英語の病名は、どのように表現されていますか?
Human African trypanosomiasisです。頭文字をとって、HATと表現されることもあります。
日本では、報告例はありますか?
WHOが発表している統計によれば、日本において、アフリカ睡眠病の新規発症は報告されていません。
出典:Human African trypanosomiasis – WHO
どの国で発生が多いですか?
コンゴ民主共和国です。新規の発生患者数が最多です。
アフリカ以外で、アフリカ睡眠病が発症している理由は何ですか?
ヨーロッパ、アメリカ、中国などで報告されています。中国の一帯一路などの経済的な結びつき、欧米諸国との交流によって、アフリカの流行地で感染した渡航者が移動によって、自国で発症することがあります。輸入感染症の側面があることが理由の一つです。
日本において、どんな人がアフリカ睡眠病を発症する可能性がありますか?
ツェツェバエが生息しているアフリカの地域に滞在した旅行者、同地から帰国した人は、トリパノソーマに感染してアフリカ睡眠病を発症する可能性があります。日中の耐え難い眠気があるときは、アフリカ睡眠病を考慮する必要があります。渡航歴があれば、疑いが高くなります。
原因について
アフリカ睡眠病は、ブルーストリパノソーマと呼ばれる原虫がヒトに寄生することで発病します。二つの亜種があり、ガンビア型とローデシア型と呼ばれています。
アフリカの赤道付近では、川の近辺、サバンナにおいて、ツェツェバエが生息しています。このハエは、トリパノソーマを媒介する昆虫です。
ツェツェバエが人の皮膚を刺して吸血するときに、トリパノソーマが体内に侵入するという感染経路です。
人から人に感染する場合は、ありますか?
稀ですが、症状が発現していないアフリカトリパノソーマの感染者から性行為で感染した可能性が報告されています。
妊娠中の人が、胎児に感染する可能性はありますか?
母体から胎盤を通して、アフリカトリパノソーマが胎児に感染した症例が報告されています。
症状について
ツェツェバエの皮膚の刺入部が隆起して硬結が現れ、局所の疼痛を伴います。急性期には、全身症状として、発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛が生じます。
後頚部のリンパ節腫脹が所見として有名で、ウィンターボトム徴候と呼ばれています。
その後、脳、髄液に感染が進むと、中枢神経系の症状が発症します。トリパノソーマの種類によって、経過が異なります。
種類 | 症状 |
---|---|
西アフリカ睡眠病 | 大多数の人が罹患するガンビア型です。初期症状から数百日の経過で、第二期に進行します。中枢神経系に影響が及ぶと、昼夜逆転、日中の眠気、不眠のほか、情緒不安定、幻覚、錯乱、錯乱やけいれん状態が現れます。未治療の場合は、3年以内に死亡します。 |
東アフリカ睡眠病 | 稀なタイプです。ローデシアトリパノソーマが感染して発症します。ガンビア型と比較すると、急性に経過し、数週間で病状が進行します。中枢神経系に病気が及ぶと、精神が不安定になり、夜間の不眠と日中の嗜眠が現れます。放置すると数カ月で死亡します。 |
致死率はどのくらいですか?
未治療の場合、100%の人が死亡します。
出典:アフリカ睡眠病 顧みられない熱帯病について – Eisai ATM Navigator
どんな睡眠障害が現れるか?
感染の初期症状が過ぎると、睡眠と覚醒リズムが乱れ、日中の傾眠が現れます。
病状が進行すると、もうろう状態になり眠り続ける症状が顕在化します。
嗜眠を特徴とする病気の流行地がアフリカ諸国であることが由来となって、アフリカ睡眠病と名付けられています。
なぜ睡眠障害の症状が発症するのか?
脳の視床下部の中に視交叉上核という領域があります。その部位は、体内時計を調節しています。一方、視床下部外側の領域には、覚醒作用のあるオレキシンおよび睡眠を促すメラトニンに関わる神経細胞があります。
トリパノソーマは、睡眠と覚醒に関係する神経伝達物質を産生する領域と体内時計を調節する領域に障害を引き起こしていると考えられています。
出典:Tesoriero et al. Sleep and brain infections. Brain Res Bull. 2019 Feb;145:59-74.
診断の方法
トリパノソーマ症の初期症状には、特異的なものがないため、感染初期に診断することが困難です。一般的には、血液あるいは髄液中にトリパノソーマの存在を確認すると、確定診断ができます。
血液検査および腰椎穿刺による評価が行われています。
出典:Parasites – African Trypanosomiasis – CDC
治療について
中枢神経系に感染が広がっていない時期は、ペンタミジンの投薬、あるいはエフロルニチンとニフルチモックスの併用を行います。経口薬のフェキシニダゾールも、第一選択として用いられます。
病期が進み、中枢神経系に障害がある場合は、メラルソプロール、エフロルニチンが選択されます。
予防法について
アフリカの流行地域への訪問を避けること、流行地に渡航するときはツェツェバエに刺されないように防御することが対策です。
長袖、長ズボン、帽子、ブーツなどで自分の皮膚の露出をさけ、ハエに刺されることを防ぐようにしましょう。薄い生地の衣服を着ているとハエに刺される危険があるので、厚い生地の衣服を着るほうが良いです。
出典:African trypanosomiasis- Government of Canada