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ボルノレキサントとダリドレキサントの比較と使い分け方
はじめに
「眠れない」「夜中に何度も目が覚める」「朝すっきり起きられない」――そんな不眠の悩みを抱える方にとって、睡眠薬は症状を改善するための一つの選択肢です。
2014年以降に登場した新しいタイプの睡眠薬であるオレキシン受容体拮抗薬は、従来のベンゾジアゼピン系の睡眠導入剤と比べて依存性が少なく、自然な眠気を促すことができると注目されています。
ベルソムラ、デエビゴに加えて、2024年からはボルズィ(一般名:ボルノレキサント)とクービビック(一般名:ダリドレキサント)の2種類が処方可能になっています。いずれもオレキシンという脳内の神経伝達物質の働きを抑えることで、脳を覚醒モードから睡眠モードへと穏やかに切り替える作用があります。
その中でも、消失半減期が短く朝に眠気が残りにくい2種類のオレキシン受容体拮抗薬、ボルズィとクービビックに焦点を当てます。患者さんの中には「どちらを選んだらいいのかわからない」「自分の症状にはどちらが合っているのか知りたい」と感じている方も多いでしょう。
本記事では、睡眠専門医の視点から、ボルズィとクービビックの違いやそれぞれの適したケースについて、わかりやすく解説します。
ボルズィとクービビックの比較
| ボルズィ | クービビック | |
|---|---|---|
| 製造会社 | 大正製薬 | イドルシア |
| 有効成分 | ボルノレキサント | ダリドレキサント |
| 剤形 | 2.5mg、5mg、10mg | 25mg、50mg |
| 一包化 | できる | できる |
| 効能と効果 | 不眠症 | 不眠症 |
| 成人の用量 | 2.5mg~10mg(最大) | 50mg |
| 高齢者の用量 | 5mg~10mg(最大) | 25mg |
| CYP3Aを阻害する薬の併用時 | 2.5mg | 25mg |
| 禁忌 | 重度の肝機能障害 | CYP3Aを強く阻害する薬剤投与中 |
| 最高血中濃度到達時間 | 1.75時間(10mg反復7日投与) | 1.5時間(50mg反復14日投与) |
| 血中濃度半減期 | 2.13時間(10mg 単回経口投与) | 8時間(50mg 単回経口投与) |
| 副作用 | 傾眠、悪夢、倦怠感、浮動性めまい、睡眠時麻痺 | 疲労、傾眠、頭痛、浮動性めまい、悪夢、睡眠時麻痺、異常な夢、入眠時幻覚 |
薬の強さの比較について
「どちらが強い薬ですか?」とよく質問されますが、ボルズィとクービビックは、単純に“強さ”だけで比較できる薬ではありません。また、直接、二つの睡眠薬を比較したデータがありません。
両方とも、脳の覚醒スイッチである「オレキシン受容体」をブロックして眠りを促す薬ですが、効き方の特徴が少し違います。
ボルズィは、寝つきを助ける作用が比較的早く出やすいタイプで、「ベッドに入っても頭が冴えてしまって眠れない」という人に向いています。一方、クービビックは、夜中に目が覚めてしまうタイプの不眠に効果が期待でき、睡眠の質や深さの改善につながりやすい薬とされています。
もちろん、大切なのは「強さ」ではなく、「あなたの睡眠の悩みに合っているかどうか」です。
どちらが早く薬の効果が現れるか?
クービビックと比べると、ボルズィは飲んでから血中濃度が上がるまでの時間が短く、比較的短時間で効き始める印象です。ただし、用量、使うタイミングや食事の有無で効果の出る速さに差が出ます。
つまり、すぐ寝つきたい人にはボルズィ、ゆるやかに自然な眠りに入りたい人にはクービビックという使い分けがあるかもしれません。
どっちが効き目が長いか?
ボルズィとクービビックは、効き方の長さが少し異なります。両者の消失半減期の長さを考慮すると、ボルズィは体から早く抜けやすく、入眠困難がある人で朝の眠気に不安を抱いている場合に候補になります。
その一方、クービビックはボルズィより効果が比較的長く続き、中途覚醒がある人や眠りが浅い人に向いています。つまり、総睡眠時間の改善、睡眠維持を期待したい場合の選択肢と言えます。もちろん、ボルズィでも用量を調節しながら中途覚醒に用いることができます。
どちらの薬剤が副作用が少ないか?
クービビックとボルズィは、どちらも不眠症の治療として処方されていますが、患者さんにとって最も注意していただきたい副作用は共通しています。それは、内服後に翌朝まで眠気が残ってしまう傾眠です。
どちらの薬を服用されている場合でも、服用後の翌日は自動車の運転や集中力を要する機械の操作には注意しなければなりません。
ボルズィの薬理的な特徴として比較的吸収が速く、消失半減期がクービビックよりも短いことがあります。そのため、翌日への眠気がが残るリスクが少ない可能性があります。
添付文書では、どちらの薬がより副作用が多いかという直接的な比較はありません。今後、処方件数が増えると、新しいデータが発表されるかもしれません。
ボルズィとクービビックの価格の違い
1.ボルズィの価格
| ボルノレキサント | 薬価 |
|---|---|
| ボルズィ錠2.5mg | 47.8円/錠 |
| ボルズィ錠5mg | 71.3円/錠 |
| ボルズィ錠10mg | 106.4円/錠 |
出典:大正製薬
2.クービビックの価格
| ダリドレキサント | 薬価 |
|---|---|
| クービビック錠25mg | 57.3円/錠 |
| クービビック錠50mg | 90.8円/錠 |
出典:塩野義製薬
一般的に、薬剤の有効成分の量が多い錠剤になると、薬価が高くなります。通常、成人に処方されることが多い錠剤は、ボルズィ5mg錠とクービビック50mg錠であり、ボルズィのほうが安いです。一方、最高用量の剤型であると、ボルズィのほうが高くなります。
ボルズィとクービビックを併用してもよいか?
ボルズィとクービビックは、両薬剤ともオレキシン受容体拮抗薬に属しています。同時に服用することはできません。効果が不十分な場合は、クービビックであれば他の薬剤への変更、ボルズィなら用量を増やすという選択肢があります。


