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安心毛布がないと眠れない原因と対処法
はじめに

「この毛布じゃないと寝ないんです」
「洗おうとすると大泣きしてしまって…」
そんなふうに、お子さんの“こだわり”に戸惑った経験はありませんか?
お気に入りの毛布やぬいぐるみがないと眠れない…。
それは、子どもの成長の一環としてよく見られる行動であり、ブランケット症候群と呼ばれることもあります。安心感を与えてくれる“お気に入り”は、子どもにとって不安な夜を乗り越えるための、大切な支えとなっているのです。
実はこの傾向、子どもに限った話ではありません。「大人なのに、タオルケットがないと眠れない」「ぬいぐるみが手放せない」と感じている方も少なくありません。
心理的な安定や感覚的な快適さを求めて、長年同じアイテムを使い続けることは、大人にとっても自然な安心行動のひとつです。なかには、パートナーと暮らし始めてから「恥ずかしい」と感じ、ひそかに悩んでいる方もいます。
このページでは、ブランケット症候群の基本知識から、子どもの発達段階における意味、大人になっても続く場合の考え方まで、睡眠専門医が分かりやすく解説していきます。
ブランケット症候群とは?

ブランケット症候群は、特定の毛布やぬいぐるみなどに強い愛着を持ち、それがないと落ち着かず、不安を感じてしまう状態を意味します。欧米では、安心毛布と呼ばれています。
こうした愛着の対象は、心理学では移行対象と呼ばれています。子どもが母親あるいは養育者との密接な関係から徐々に自立していく過程で、安心感を得るために特定のアイテムに愛着を持つ現象です。移行対象は、子どもにとって心の安定を保つための大切な存在であり、成長過程で見られる自然な行動とも言えます。
夜、寝るときに抱きしめたり、肌に触れていないと安心できなかったりするのが特徴です。こうした行動は、幼少期によく見られるものですが、思春期だけではなく大人になってからも、その習慣が残る場合があります。また、ストレスや不安が高まったとき、大人になってから、突然、発症する事例もあります。
男女差と年齢について

ブランケット症候群は年齢や発達段階により現れ方が異なります。赤ちゃんや1~3歳の幼児期には、ごく自然な愛着行動として見られ、保育園や幼稚園でもよくある現象と言えます。
小学生から中高生になると徐々に減りますが、環境の変化やストレスで再び強まることもあります。大人では感触や香りに安心感を求め、寝具へのこだわりとして続くことがあります。
男女差については、女性に多い傾向があります。
国内で行われた研究によれば、幼児期のブランケット症候群には男女差が認められています。具体的には、女児の移行対象発現率:43.9%、男児では32.8%が見出されました。
出典:遠藤 利彦; 移行対象 と母子間ストレス, 教育心理学研究;39(3):243-252,1991
考えられる理由として、女児がぬいぐるみ、人形と親しむことが多いことがあるかもしれません。また、移行対象(ぬいぐるみや毛布など)を持つことに対して、女児のほうが社会的に受け入れられやすい可能性があります。
原因について
いくつかの心理的・環境的な要因があります。まず、幼少期に母親などの養育者から離れる不安をやわらげるため、毛布やぬいぐるみに愛着を持つことがあり、これを「移行対象」と呼びます。また、成長後もストレスや不安を感じたときに、特定のアイテムを通じて安心感を得ようとする傾向がみられます。
さらに、家庭内の緊張感や急な生活環境の変化、本人にとって不安、恐怖をもたらす周囲のイベントも影響を与える要素となります。こうした複数の要因が重なることで、症状が続いたり強まったりすることがあります。
症状について

ブランケット症候群の典型的な症状として、特定の毛布やぬいぐるみへの強い執着があります。日常的にそのアイテムを持ち歩いたり、触れていないと不安になったりすることがあり、とくに寝るときに「それがないと眠れない」と感じる人も少なくありません。そして、夜中に目が覚めて、近くに「ぬいぐるみ」がないと慌てて探すこともあります。
また、アイテムの匂いや肌触りにこだわる傾向が強く、洗濯や新しいものへの交換を嫌がることも特徴のひとつです。具体的には、ぬいぐるみの汚れが目立っても、そのまま使い続けることが多いです。そして、自分がお気に入りアイテムに名前をつけることも少なくありません。
こうした行動は安心感を得るための自己調整と言えます。そして、本人が気に入っているアイテムを取り上げたり、無理にやめさせようとすると不安が強まりメンタルが不安定になります。
外出先にお気に入りぬいぐるみを持って行って、無くしたり、忘れたりすると、帰宅後に取り乱す事例を経験したことがあります。
海外の報告によれば、ブランケットなどの安心アイテムは、回避型の愛着スタイルを持つ子どもにとって、母親の不在時に心の支えとなる可能性が示されています。
タオルケット症候群との違いと共通点
類似した名称として、タオルケット症候群と呼ばれる状態があります。これは、タオルケットの柔らかさや軽さ、肌触り、においへのこだわりから、季節を問わず使い続けるというものです。
寝てるときに、顔をお気に入りのタオルケットにスリスリさせたり、臭いかいたり、そういった行為で安心感を得るようです。ぬくもりを求めているとも解釈できるかもしれません。また、冬であっても、必ずタオルケットを上半身にかけて寝るルーチンを持っている事例もあります。
タオルケット症候群は、どちらかと言うと大人にみられ、「これがないと眠れない」と感じる人もいます。つまり、睡眠のルーチンになっているとも言えます。成人になっても特定のタオルケットに執着しているので「恥ずかしい」と思って、秘密にしていることがあります。
二つの症候群に共通するのは、寝るときの安心感を得るための依存対象が存在することです。それでは、両者を比較してみましょう。
ブランケット症候群 | タオルケット症候群 | |
---|---|---|
年齢層 | 幼児〜大人 | 大人に多い |
目的 | 精神的な安心と安定 | 感触の快適さ |
心理面 | 愛着行動 | 感覚(肌ざわり、におい)へのこだわり |
睡眠への影響は?

ブランケット症候群は、睡眠の質にも関係しています。お気に入りの毛布やぬいぐるみなど、安心できるアイテムを抱いて眠ることで、心が落ち着き、深い睡眠に入りやすくなる場合があります。こうした安心感が、リラックス状態を促し、眠りの質を高めるのに役立つのです。
その一方、そのアイテムが手元にないと強い不安を感じ、不眠が生じる可能性があります。自宅であれば、いつものお気に入りが手元にあるので問題ないのですが、旅先にアイテムを持っていけないときは、寝つきが悪い、眠りが浅いという問題に直面することがあります。
依存が強まることで、かえって睡眠リズムが乱れることもあるため、日常生活への影響には注意が必要です。
「大人になっても、寝るときだけ特定の毛布やぬいぐるみが手放せないのは正常なのか、それとも問題があるのか?」という疑問や不安を抱えている人もいるかもしれません。
ブランケット症候群は幼少期に形成された愛着行動が続いていると考えられ、ストレスや不安を軽減するセルフケアとして現れていると解釈できます。日常生活に影響が出ていない場合は、過度に気にする必要はありません。
筆者は、飛行機を使った出張時に、自分が好きなぬいぐるみを手荷物でもっていく中高年の事例を経験したことがあります。ホテルで眠れないことが理由かもしれません。また、睡眠クリニックで小児の終夜睡眠ポリグラフ検査を施行するときは宿泊になるので、子どもがお気に入りの毛布を持参するケースもあります。
ブランケット症候群セルフチェック
お子さまの状態を確認するためのチェックリストです。下記の項目に多く該当する場合は、ブランケット症候群の可能性があります。
- お気に入りの毛布やぬいぐるみ、タオルなどが手放せない。
- 夜、そのアイテムがないと眠れない。
- 日中も常にそのアイテムを手放せない。
- アイテムの匂いや触り心地にこだわりがある。
- 洗濯や交換を嫌がり、汚れていても使い続けたい。
- アイテムがないと不安になってしまう。
- ストレスや不安を感じるとアイテムに安らぎを求める。
あくまで目安ですので、気になる点がある場合は、医療機関に相談することを勧めます。
対処法について

ブランケット症候群に対処する際には、本人の気持ちを尊重しながら、焦らずゆっくりと対応することが大切です。特定のアイテムを無理に取り上げてしまうと、不安やストレスが強まり、かえって症状が悪化することがあります。
まずは自然に手放せるタイミングを見守ることから始めましょう。自分にとって大切なアイテムへの依存を少しずつ和らげるには、少しづつアイテムに触れる時間を短くし、「なくても安心して過ごせた」という経験を積み重ねる方法があります。
本人のペースで自信をつけてもらい、克服へ近づいてもらいます。周囲は安心感が保てるようになるような支援をすることが大切です。
よくある質問と回答
ブランケット症候群は愛着障害と関係がありますか?
ブランケット症候群は、幼児期に好発する自然な愛着行動のひとつです。お気に入りの毛布やぬいぐるみに触れることで、安心して過ごすことができるようになります。それに対して、愛着障害は、育つ環境の不安定さなどが原因となり、人にうまくなじめなかったり、不安定になりやすい状態です。
ブランケット症候群と「スヌーピー」は関係があるのですか?
スヌーピーに登場する「ライナス」という男の子は、いつも毛布を手放さず、どこへ行くにも持ち歩いています。この行動が、“ブランケット症候群”を象徴しているエピソードとして知られています。ライナスの毛布は「心のよりどころ」として描かれており、安心毛布とも呼ばれています。
発達障害のある子どもに、ブランケット症候群がみられることはありますか?
自閉スペクトラム症(ASD)や 注意欠如・多動症(ADHD)などの発達障害がある子どもは、感覚過敏や不安を感じやすい傾向があり、特定のアイテムへの強い執着が見られることがあります。ブランケット症候群と似ている行動と言えます。
HSP(非常に敏感な人)の場合、ブランケット症候群になる理由は何ですか?
HSPであると、外部からの刺激に敏感で、日常生活でストレスを受けやすいです。そういった背景があるため、安心感を得たいという気持ちのため、特定のアイテム(タオル、ぬいぐるみ)などを手放せなくなる場合があります。つまり、ブランケット症候群のような状態になりやすいと解釈されます。
ブランケット症候群は病気として治療が必要ですか?
日常生活に支障がなければ治療の必要はありません。ただし、依存が強すぎる場合は、医療機関に相談することを検討します。
大人でタオルケットがないと眠れないのはおかしいことですか?
いいえ、それは決しておかしなことではありません。多くの人が、眠るときに安心感や快適さを得るために、自分に合った寝具を選んでいます。タオルケットのやわらかな肌触り、独特の軽さなどは、心地よさを感じる要素としてとても自然なものです。普段の生活に問題がなければ、無理にやめる必要はありません。