- ホーム
- ヒノキ科の針葉樹の花粉が引き起こす花粉症
ヒノキ科の針葉樹の花粉が引き起こす花粉症
春のヒノキ花粉症を理解しましょう
春の終わりが近づき、スギ花粉による鼻炎の症状から解放されるとほっと一息つく間もなく、再び鼻炎の症状が現れたら、それはヒノキ花粉症の可能性が高いのかもしれません。さらに、スギとヒノキ花粉の両方にアレルギー反応が出てしまう人もいるのです。
鼻水やくしゃみ、目のかゆみといった症状は、スギ花粉の飛散時期が終わっても続くことがあります。今回のブログ記事では、スギ花粉症が収束する時期から増加してくるヒノキ花粉症の特徴と対処法について、内科専門医が解説します。
ヒノキ花粉の特徴を知る
ヒノキは東アジア原産の針葉樹で、高さが25~35メートルにも達します。耐久性のある木材として、建築や家具に広く使われています。木の成長が早く、木材としての価値が高いため、各地で植林された経緯があります。
国内でのヒノキの分布は、主に本州、四国、九州に集中しています。特に中部地方の山地、例えば岐阜県、三重県、静岡県、および近畿地方の和歌山県ではヒノキが多く見られます。一方で、気候の違いから北海道や東北地方の一部、そして亜熱帯気候の沖縄県ではヒノキはほとんど生育していません。
春になると、成熟した樹木において、雄花と雌花が別々に咲きます。多くのヒノキが植えられた山地において、雄花が花粉を大量に撒き散らします。そして、ヒノキ花粉が風に乗って数十キロメートル先にある都市部まで到達します。
地域にもよりますが、ヒノキの開花期はスギよりもやや遅く、3月下旬~5月頃です。ヒノキ花粉が飛散するピークは、4月中旬ごろです。そのため、この時期にアレルギー症状に悩まされる人が多くなる傾向です。
出典:ヒノキ – 野田市
ヒノキ花粉の大きさは直径25~30μmでスギ花粉と比較して、やや小さめです。スギ花粉の表面にはパピラと呼ばれる小突起がありますが、ヒノキ花粉には小突起がありません。
症状について
ヒノキ花粉症の症状は、スギ花粉症と類似しており、鼻炎と結膜炎の症状が主体です。具体的には、鼻水、鼻づまり、くしゃみ、目の痒み、涙目などです。皮膚のかゆみ、肌荒れの症状が現れる人もいます。また、アトピー性皮膚炎の悪化も見られることがあります。
上記のような症状が、住んでいる地域のヒノキ花粉の時期(主に3月後半から5月)に出現するようなら、ヒノキ花粉症の可能性があります。
スギ花粉に対するアレルギー反応を起こす人は、ヒノキ花粉にも反応することが多いので、鼻炎の症状のみで両者を区別することは、難しいです。
ヒノキ花粉症の特徴は、発症時期がスギ花粉症よりも遅く、4~5月であることです。そして、スギ花粉症と比較するとヒノキ花粉症では咽喉頭症状が強いこと(のどの違和感と咳)、少量の飛散量でも症状が強くなることが違いとして報告されています。
このような傾向があることから、ヒノキ花粉の飛散量が多い時期になると、目と鼻のアレルギー症状がスギよりもヒノキの方がひどいと感じる人もいます。
出典:荻原仁美 他; ヒノキ科花粉症と咽喉頭症状, 日耳鼻;114:78-83,2011
ヒノキ花粉症は、いつまで続きますか?
その年の気象条件によって異なりますが、5月中旬まで続くことが多いです。
初診の外来で、どんな症状を抱えていたのか聞き取りを行ったところ、次に示すような体験があったようです。あなたも同じような経験はありませんか?
「春になると、ヒノキ花粉症が仕事にも影響してしまいます。スギ花粉症のシーズンが終わったと思ったら、すぐにヒノキのシーズンが始まって、鼻水とくしゃみが止まらないんです。デスクワークも外回りの営業も苦痛です。集中力が持続せず、鼻炎の症状に悩まされます。帰り道には疲れがピークに達し、ただ早く家に着きたいと思うばかりです。」
「毎年春になると、ヒノキ花粉症で本当に大変なんです。スギ花粉の時期が終わるとほっとするのもつかの間、ヒノキの季節が始まってしまうんですよね。鼻がグズグズしてメイクも崩れるし、目のかゆみもひどくて、外出するのが憂うつです。花粉症のシーズンが終わらないみたいで、大型連休が明けてからも、苦労の連続なんです。」
「高校一年生になったばかりですが、毎朝、学校への道は、くしゃみ連発で大変で恥ずかしい思いをします。教室では目がかゆくて集中力が続かず、勉強に身が入りません。新しい友達と話すときも、鼻声になるので自分が嫌になります。」
大人だけではなく子どもでも、ヒノキ花粉によるアレルギー症状が現れます。花粉の飛散時期に鼻や目の痒みを訴えて、鼻を上下にこすったり、目をこすったり、いつもと異なる動作があれば注意しましよう。
この時期に、鼻づまりのために、口呼吸が多くなったり、いびき呼吸が現れたり、気になる症状があれば、早めに耳鼻科に相談することを勧めます。
ヒノキ科の植物(ヒノキ、スギ)の花粉症がある人が、ナス科の野菜であるトマトを摂取すると、口腔粘膜においてアレルギー反応が誘発されることがあります。この反応が生じる理由は、ヒノキ花粉のアレルゲンと特定の食物に含まれるアレルゲンが似ているからです。
口腔アレルギー症候群(OAS: oral allergy syndrome)として知られており、発症すると唇、舌、咽頭の痒み、しびれ、浮腫が現れることがあります。
ただし、多くのスギ・ヒノキ花粉症の人々が、口腔アレルギー症候群の症状が発現することなく、トマトを食べています。そのため、今までトマトを問題なく食べており、自覚症状がなければ、過度に心配する必要はありません。
出典:Q&A – 花粉症と食物アレルギー – 藤田医科大学医学部 アレルギー疾患対策医療学講座
注意点として、トマトを絶対に食べてはいけないものと捉えるわけではありませんが、口腔アレルギー症候群の発症を予防するために加熱処置をしたほうが無難です。気になる症状があれば、リスクを最小限に抑えるためには食べないことが大切です。心配なときは病院で検査を受けることを勧めます。
セルフチェック
次のチェックリストの中で当てはまる項目が多いと、ヒノキ花粉症の可能性が高いです。ただし、簡易テストであるので、正確な診断を受けるためには、耳鼻科あるいは内科の診察を受けてください。
- 透明な鼻水や、鼻の通りが悪くなる症状はあるか?
- くしゃみが連続して出ることはよくあるか?
- 目のかゆみ、充血があるか?
- のどの違和感があるか?
- 顔や首周り、手足などでかゆみを感じるか?
- 発熱がないのに、咳が出るか?
- 毎年4月から5月に症状が現れるか?
- ゴールデンウィークが過ぎても症状があるか?
- 外出すると症状が悪化するか?
診断の方法
医師は、鼻水、くしゃみ、目のかゆみなどの典型的なアレルギー症状を確認します。これらがヒノキ花粉の飛散時期に特に悪化するかどうかを聞き取ります。アレルギー症状が他の要因、例えば風邪や他の種類のアレルギーと鑑別していきます。
診断を確定するためには、アレルギー検査が行われることが一般的です。プリックテストを行うと、ヒノキ花粉を含む特定のアレルゲンに対する皮膚の反応を確認することができます。その他の方法として、体内のアレルギー特異的IgE抗体のレベルを測定する血液検査、鼻汁好酸球検査があります。
クリニックでは、 Viewアレルギー39と呼ばれる血液検査が選択されることがあります。この検査方法は、39種類のアレルゲンを同時に評価できるメリットがあります。
治療法について
ヒノキ花粉症の症状緩和には様々な治療法があります。一般的に、抗ヒスタミン薬は、くしゃみ、鼻水、目のかゆみを軽減します。それに対して、抗ロイコトリエン薬はアレルギー反応を抑えて、鼻炎や咳の症状に対応します。
重症な場合には、アレルギー症状を抑えるためにステロイドの内服が用いられることもあります。特に、スギ花粉とヒノキ花粉の飛散時期が重なったときなど、病状が重くなった場合に考慮します。
西洋薬による治療効果が不十分であるときは、漢方薬を活用することがあります。それに加えて、鼻炎と結膜炎の症状を軽減するために、点鼻薬、点眼薬が用いられます。
ヒノキ花粉による鼻炎の症状に効く市販薬はありませんか?
新コンタック鼻炎Z、アレジオン20、アレグラFX、クラリチンEX、エバステルAL、ザジテンAL鼻炎カプセル、タリオンARなどがあり、これらの薬剤は、スイッチOTCとして認可されています。重症の場合や持続的な症状の場合は、内科あるいは耳鼻咽喉科の診察を受けることを勧めます。
ヒノキ花粉症の根本治療はありませんか?
スギ花粉による季節性アレルギー性鼻炎に対するアレルゲン免疫療法(減感作療法)は普及していますが、ヒノキ花粉に対する保険適用はありません。ただし、国内の研究によれば、スギ花粉舌下錠がヒノキ花粉によるアレルギー症状を抑制する効果があるという報告があります。今後の検証が必要です。
出典:黑川友哉; スギ花粉舌下免疫療法薬による ヒノキ花粉飛散によるアレルギー性鼻炎症状に対する評価, 日鼻誌;61:213~215,2022
予防する方法
対策 | 具体的な方法 |
---|---|
外出時 | ヒノキ花粉の飛散が多い日は、外出を控えるか、必要ならマスクやゴーグルを着用しましょう。また、帽子や長袖を着用して肌への花粉の付着を減らすことも効果的です。 |
屋内 | 家の中では、窓を閉めて花粉の侵入を防ぎ、空気清浄機を使用すると良いでしょう。また、定期的に掃除をして室内の花粉を取り除きます。 |
帰宅後 | 外から帰宅したら、まず手洗い・うがいをし、顔を洗って花粉を洗い流しましょう。着ていた服はすぐに洗濯し、部屋干しすることを勧めます。 |
生活習慣 | 健康的な食生活、十分な睡眠、適度な運動は免疫力を高め、花粉症の症状を軽くする助けとなります。ストレスの管理も大切です。 |
出典:花粉症で悩む皆さま! 早めの治療や予防行動を! – 政府広報オンライン
お出かけ前には、今日のヒノキ花粉飛散情報(日本気象協会)をチェックすることが大切です。
ヒノキ花粉症のある人は、ヒノキ風呂に入れますか?
一般的には問題がないとされています。なぜなら、ヒノキ花粉症はヒノキの花粉に対するアレルギー反応であり、ヒノキの木材から出る芳香成分や樹脂成分とは異なるからです。ただし、肌荒れ、皮膚のアレルギー反応がある場合は檜風呂を中止して、医師に相談して下さい。