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季節性アレルギー性鼻炎による咳の特徴とは
はじめに
毎年やってくる花粉の季節、季節性のアレルギー性鼻炎の不安はありませんか。よくある症状の悩みは、くしゃみ、鼻水、鼻づまりです。しかし、人によっては、咳がひどい悩みを持っている場合があります。夜間に咳が止まらないと睡眠にも影響を及ぼし、体調が悪化します。
そんなとき、自分の咳が、風邪、新型コロナあるいは喘息なのか、そして、病院に行った方がいいか判断に困ります。咳が止まらないと周りに迷惑をかけていないか心配になる気持ちもよく分かります。
インターネットよって花粉症の咳に関する情報を入手することはできます。その一方、「どの対策が自分に合っているのか分からない」「市販薬を使っても効果が今ひとつ」「どんな薬を使うべきか」など、効果的な対策を見つけられずに悩む人も多いかもしれません。
このページでは、内科専門医が、花粉症による咳の正体と適切な対処法について紹介します。
花粉症によって咳が出るメカニズム
花粉症が引き起こす咳嗽は、私たちの身体の防御反応が引き起こす症状の一つです。空気中に浮遊している植物の花粉(例:スギ、ヒノキ、ブタクサなど)が鼻や喉の粘膜に付着すると、自分の免疫システムがこれを「異物」として認識します。そして、形質細胞によってIgE抗体が生成されます。
IgE抗体と結合したマスト細胞が花粉に反応すると、ヒスタミン、ロイコトリエンなどのアレルギー反応を引き起こす物質を放出します。これらの化学物質は、喉や気管支の粘膜において、炎症を引き起こします。
上記のような炎症反応が起きると、次に示すような現象が生じます。
鼻腔の粘膜においてアレルギー反応が生じると、鼻水が産生されて後鼻漏と呼ばれる状態が現れます。つまり、鼻の奥から喉の奥のほうに粘液が流れ落ちこみます。そうすると、炎症で生じた粘液が気道を刺激することで咳が誘発されます。
さらさらの鼻水がのどに垂れてきて、咳が出るという経験はありませんか。特に夜間や早朝に横になっている時に症状が悪くなるのは、後鼻漏が引き起こしている可能性があります。
出典:Allergic Rhinitis (Hay Fever) – Cleveland Clinic
もう一つの咳が起きるメカニズムとして、気道の過敏性が高まることがあげられます。本邦で実施された研究では、気管支症状がある花粉症患者さんにおいて、下気道の過敏性が著しく亢進していることが示されています。
出典:石塚 洋一 他; 気管支症状を有する花粉症患者の臨床的検討, 耳鼻臨床;77(12):2521-2527,1984
花粉によって気道の粘膜が慢性的に炎症を起こすと、わずかな刺激でも敏感に反応するようになります。その結果、通常なら咳を誘発しないような軽い刺激でも、咳をしやすい状況が生まれます。もともと、喘息がある人が花粉症を併発すると病状が悪くなる要因になります。
風邪やコロナとの違い
花粉症による咳と、風邪やコロナウイルス感染症による咳には、いくつかの鑑別点があります。ただし、典型的ではないケースがあることもお忘れなく。
1. 症状の発現パターン
花粉症の咳は、花粉の飛散時期に一致して始まることが特徴です。特に、晴れて風の強い日は花粉が飛びやすいので、症状が悪化します。その一方、雨の日や室内ではアレルギーの症状が緩和される傾向があります。
風邪や新型コロナ感染症による咳は、季節や天候に関係なく突然症状が現れ、病状の進行にともなって悪化していくことが多いです。
2. 咳の性質の相違点
花粉症による咳は、主にカラカラした乾いた咳(乾性咳嗽)が特徴で、特に夜間のみならず早朝に悪化しやすいパターンがあります。後者はモーニングアタックと呼ばれることもあります。
3週以上に渡って慢性的な乾いた咳の場合には、アレルギーが原因に関わっている場合があります。
出典:Cough – American College of Allergy Asthma and Immunology
これに対して、風邪の初期は乾いた咳ですが、病状が進行するにつれて痰を伴う咳(湿性咳嗽)に変化していくケースが多いです。新型コロナウイルス感染症の場合は、持続的な乾いた咳が特徴的です。
3. 併発する症状の違い
典型的な花粉症の場合、最も特徴的なの症状は咳と同時にくしゃみや鼻水が出現します。人によっては、結膜炎の症状(目のかゆみ、充血、落涙)を伴います。発熱はほとんどみられません。
風邪の場合は、通常、のどの痛み、違和感などの上気道の症状が始まることが多いです。発熱と倦怠感が併発します。発熱がひどい場合は、関節の痛みを訴える人もいます。
そして、コロナの症状は、より全身性の傾向が強いのが特徴です。特に発熱や倦怠感が目立ち、味覚・嗅覚の異常が現れる人もいます。また、息苦しさを感じることがあり、全身にわたって様々な症状が出やすい傾向があります。
4. 症状が持続する期間
花粉症の咳は、花粉の飛散が続く限り症状が継続します。適切な対策を取らないと数週間から数ヶ月続くことがあります。一方、風邪の咳は通常1〜2週間程度で改善します。新型コロナ感染症の場合は、個人差が大きく、しつこい咳が続くことがあります。
対処法について
最もポピュラーな治療薬として、飲み薬があります。その代表格が抗アレルギー薬で、特に第2世代の抗ヒスタミン薬があります。病院で処方される内服薬ですが、一部の薬剤は、ドラッグストアにおいても入手することができます。市販用は、OTC医薬品と呼ばれています。
私がよく処方している抗ヒスタミン剤は、アレグラ、デザレックス、タリオン、そして、アレロックです。全身のアレルギー反応を抑えて、くしゃみ、鼻水、咳などの症状を改善する効果があります。
咳を直接的に抑える薬として、咳止めがあります。種類として、脳に作用して咳を抑える中枢性鎮咳薬と、のどの刺激を直接抑える末梢性鎮咳薬があります。また、咳と同時に痰がからむ症状があれば、去痰薬が処方されます。これは粘り気のある痰を出しやすくし、気道の粘液を薄めて排出を促進する効果があります。
症状が強い場合や、飲み薬だけでは改善が不十分な場合にどうすれば良いかという疑問にお答えします。咳嗽が強いときには、吸入薬による治療を検討します。
ステロイド吸入薬は気道粘膜の炎症を直接抑える効果があり、1日1~2回の吸入を行います。また、気管支拡張薬、抗ロイコトリエン薬が処方されることもあります。
西洋薬を補完する選択肢として漢方薬も注目されています。咳が止まらない症状があるときに候補となる薬剤名として、小青竜湯、五虎湯、麦門冬湯などがあります。自然の生薬を希望される人もいますが、西洋薬と一緒に服用することができます。もちろん、体質によって適切な漢方の種類を選ぶ必要があります。
ただし、これらの薬の選択は症状の種類や程度によって異なるため、自己判断での服用は避け、必ず医師の指示のもとで、治療することが大切です。